第7話 報い

 直人は死刑囚として収監されてからも誠実に償いを続け、その姿勢が評価されたのか、長らく執行されることはなかった。


 そして彼が奪ってしまった相当する時間、55年が過ぎた、ちょうどその頃――驚くべきことに、恩赦が下り、直人は釈放されることとなった。


 時は流れ、直人はすでに77歳になっていた。


 両親はすでに他界し、兄弟や親戚からも見放された彼は、一人、自立支援センターでの生活を始める。両親の墓へ手を合わせたいと思っても、親戚に拒絶されると知り、諦めざるを得なかった。


 出所後、特に行き場もやることもなかった直人は、平日には働いて寄付金を稼ぎ、休日は一人で散歩をする日々を送る。


 ある日の午後、いつものように公園のベンチで休んでいると、彼はふと見覚えのある顔を見つけた。

 白髪が目立ち、深い皺の刻まれたその女性は、かつての恋人・こずえだった。孫らしき子どもたちに囲まれ、柔らかな笑みを浮かべている。


「覚悟はしていたが……つらい。彼女を見るのが……彼女の歩んできた人生を、こうして目の当たりにするのが……もし、もし許してもらえるなら、もう一度人生をやり直したい。あのときの自分に戻って……」


 直人は目を伏せ、震える声で繰り返す。


「もう一度……もう一度だけ……」




**




――ピピピピッ、ピピピピッ



「ハッ!!」



 彼は、目覚めると、真っ先に顔を洗いに行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

駆け込み乗車により死刑!! 伊藤 拓 @Iitkk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ