第24話 侯爵の追放と大団円
軍を引き連れた僕を見た王宮の門番は抗戦することもなくあっさりと逃亡してしまった。
以前から王宮の士気低下については聞いていたが聞きしに勝る状況であるといえた。
王宮の中に入った僕たちが見たものは混乱と退廃としか言いようがなかった。
以前は整頓され、規律のあった王宮はもはや混沌の渦に巻き込まれていた。
僕たちはそういう混沌を王宮から排除しながらグローランド侯を探した。
王宮の奥まった一室でグローランド侯と大司教を発見した。
彼らはそこで違法薬物の吸引に耽っていたのである。
僕たちを見たグローランド侯は弱々しく「助けてくれ」と言った。
しかし大司教は僕の方を見て「無能に生きる余地はない」と言い、グローランド侯に何かの呪文をかけたのである。それは光の女神であるサニア女神の信奉者が使う類の呪文ではなかった。
侯爵の体からは瘴気が噴き出し、その体はもう角のあるヤギのような顔に変形し始めたのである。
同行していたリア姫が咄嗟に浄化の御業を使ったことで悪魔的な変化は阻止され、けれども侯爵は人事不省となり意識のないまま眠り続けることになってしまった。大司教は混乱の中で逃亡したのかその行方は杳として知れない。
その後神殿にも踏み込んだのだが、神官たちもそのほとんどがどこに行ったのか消え失せてしまっていた。
僕たちができたことは醜悪な像を廃棄して元のサニア女神像を再び祀ることだけだった。
良かったことは騎士団の団員は拘束されて地下牢に閉じ込められていたが、そのほとんどの命は無事だったことである。
解放した騎士団員たちに王都の警護任務に復帰してもらったことで王都の治安は短期間で回復せしめることができた。
街道の警護の欠落により発生した山賊の対応については冒険者ギルドの協力が大きかった。山賊退治によって街道の往来についての安全が回復したことで王都もそれ以外の都市も流通が回復したので人心の動揺は早期に収束することになり、商人やそのパトロンである貴族たちの支持も回復したのである。
これらの諸政策の実施によって国の基盤が安定したことでネイザル王国に逗留していたシャール王子に帰還の機運を高め、貴族たちも平民たちも共同して帰還運動を起こすことに成功した。
空白になった神殿についてはネイザル王国の枢機卿が臨時神官長として赴任することになった。その他の人員も各国からの支援により充足しつつあり、年少の王子の補佐としてはネイザル王国王妃であったエディス王女が摂政として王子が成人するまで補佐することになった。
こうしてシャール王子の帰還についての準備を終え、クレア王女とシャール王子がロッシュ王国に無事帰還することができた。
王子は即日、戴冠式に臨み、シャール一世として即位した。
「リア、全て整ったみたいだよ。さあ僕たちはカスティーヤ公爵領に帰ろう。きっと領民たちも僕たちの帰りを待っているはずだよ。」
「ええ。私とレーシュのいるべき場所に戻りましょう。」
♢♢♢
「は?レーシュはどこに行った!ここまで全部お膳立てしておきながら自分だけさっさと逃げるつもりか?」
「エディス様、宿舎は空でございます。リアンノン王女殿下もおられません。」
「エディス様、レーシュ様の置き手紙がありました。リアンノン王女殿下と領地に戻るので後はよろしくとのことです。」
「本当になんてこと!論功行賞の時に逃げ出すなんて何を考えているのよ!見ていらっしゃい。領地に引っ込んだままサボらせたりするものですか。ええ。とことんこき使ってあげるから覚悟していらっしゃい!」
エディス王女の叫びも知らぬように、公爵領に戻る馬車の中でレーシュとリア姫はお互いにピッタリと体を寄り添わせながら幸せを感じ合っているのだった。
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才能なしと捨てられた男は生きるためにもがいた 藤川蓮 @renfujikawa
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