燃える

語り手が道の上で目にした怪奇な発火現象の描写です。

あたりまえの暮らしの中で、あたりまえではない奇異な事柄が進行する。
その、恐ろしさと物珍しさと不可解さ。

現象は鮮やかであり、美しくさえある。
だが、あくまで尋常ではない奇異な事柄。

圧巻の描写です。
ぜひ御一読ください。

峠道に行き交う人々の中で。陽炎の如き
揺らめきが立ち昇る。恐ろしい喧騒と共に
人が燃えていた。
　　　　　　　　　橙色の焔の中で

　その男は、泣いていた。

両手でまなこを塞いで涙を流しながら
陽炎の様にゆらり揺らめき歩いて行く。

苛烈な目に晒されて、泣きながら燃え
続ける男。
　　　　　　それでも、炎は消えない。

生きながらにして燃える心持ちは如何なる
地獄か。焔の中には幾つものまなこが
無垢なる中に邪悪な瞬きを繰り返す。

決して消える事のない焔は、男に何を
齎したのか。ここは地獄か極楽浄土か。
燃えながら彷徨い歩く。

未来永劫、橙色の炎の中で。


　　　　あな、恐ろしきは因果…続きを読む

炎の表現やそれを取り巻く現象の描写が、まるでそこで自分達が目撃しているかの様な圧倒的な文章力で凄く楽しみながら読ませて頂きました。