最終話

 とある船が停泊する港に1台の馬車が近づいてきた。


 私は船の前でその馬車が近づいてくるのを待ちきれないように身体をそわそわさせる。


 その馬車は私の前にそっと止まる。私は扉の方を穴が開くほどじっと見つめていた。


 ギィと音を立てながら扉が開く。中から出てきた人物を見るとアリシアは声をかけながら両手を開いて迎える。


「ステーシー! ご苦労さま」

「アリシアさま、到着いたしました!」


 私はステーシーの笑顔のこぼれる顔を見て作戦が成功したことを知った。すると私は胸が熱くなり少し頬を上気させた。


 ステーシーは少し横にずれると、馬車から今度はジョージが出てきた。私の目は少し潤んでいる。


 会いたかったジョージが目の前にいる。


 そして右手を前に出すと、地面まで降りたジョージは片膝をついて私の手の甲へキスをした。


「アリシアさま、戻りました」

「⋯⋯ジョージ⋯⋯」


 私は感情を高ぶらせて、喉を詰まられたような声を絞り出す。そして左手で目尻についた涙を拭うと笑顔になった。


「もうあなたは私の騎士ではないわ。さぁ、私の横に立って」


 私はジョージとステーシーの手を掴むと船の方へと歩いていく。


 船の中には私の両親と2カ月前に解雇した私付きの従者たちが乗っている。


 今度はジョージが船に片足を乗っけると私を船の中へとエスコートする。その後はステーシー。


 ステーシーとジョージは船へと入ると目を丸くした。


「お父さん、お母さん!」


 なんと2人の両親もいた。2人は両親の方への向かうと優しく抱擁した。


 程なくして船は出港する。


 船は国境を越え他国へと舵を向ける。もうこの国にいる必要はないのだ。


 しばらくすると1羽の伝書鳩が飛んでくる。


「セシルさまの伝書鳩だわ」


 私は急いで鳩の足に括り付けられている紙を広げて内容を確認する。


「すべてが上手くいったようね。すごいわ、セシルさまったら。ふふっ王立警察がセシルさまの手の上で転がされるなんて、私も見たかったわ」

「セシルさまは物静かでおしとやかなのに意外な一面があるんですね」


 私はそう言ったジョージをじっと見る。私はジョージを“眠れる獅子”だと思っていた。心の奥底に眠る絶対に譲れない気持ち。それを邪魔するものは誰だって許さない。


 セシルは物静かに見えるがそれは見た目だけ。本質は王妃の素質を持つ頭の切れる凛とした強者。私はセシルとの友好関係からひしひしとそれを感じていた。


 セシルは昔からロイ王子を慕っていたのを感じ取っていた。私はジョージのことがずっと好きだったのでセシルとロイ王子がくっつけばいいのになと常々思っていたのだ。


 でもセシルは友情を優先してしまう。それのせいで私は一度だけセシルと口論になった。セシルの自分を思ってくれる気持ちを嬉しく思ったが、セシル自身の幸せの代わりにはしてほしくない。


 私はようやくセシルが本気で幸せを掴みに行ってくれたのだと嬉しく思った。しばらく待てば、異国でもその吉報を聞くことになるだろう。


 セシルさまの事だから、私が功績を2つか3つ手土産に携えて異国から帰ってくると思っているだろうなぁ。セシルさまはなぜか私への期待が大きいのよね。


 私はそう考えた後ジョージの方を見た。するとジョージと視線を交差する。


 私の手をそっとジョージは包む。すると真剣な目を向けた。


「アリシア、俺と結婚してください」

「ジョージ、あなたと結婚するわ!」


 私はまだ見ぬ異国の地に期待をしながら笑顔でそう返事するとジョージの胸へと飛び込んだ。


 私たちの旅はまだ始まったばかり。それでも愛情いっぱいに育ててくれた両親と自分を想ってくれる従者たち。自分を大事にしてくれるステーシーに最愛の人・ジョージがいる。


 この先も楽しいことがたくさん待っているのだろう。私はそんなわくわくする気持ちで胸いっぱいにした。


(おわり)


お読みいただきありがとうございました!

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アリシア公爵令嬢殺人事件〜そしてセシル公爵令嬢は微笑んだ〜 二角ゆう @Nisumi-Yu

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