第6話


「晴れたなぁー」


 窓を開くと昨夜の荒れようがどこへやら、その日はサンゴールには珍しいほどの晴天だった。

 窓から見える目前の魔術学院の壁が、残った雨露に太陽の光を当てて、キラキラと輝いている。

「ここから見ると学院綺麗なんだね」

「ホントだな。あんまりじっと見た事無かったけど」

「あれー。メリクじゃん!」

 声がして、そちらをイズレンと見遣ると下の庭に、昨日一緒だったイズレンの友人二人がいる。

「結局寮に泊まったのか。そうだよなぁ、ひどかったもんな雨!」

「お前らもう学院行くのか?」

「まさか。今戻った所だよ。腹減ったから講義の前に食堂寄って行く。ついでにその後、仮眠もしていく」

「おっ、今丁度メリクと食堂で軽く食べて行かないかって話してたんだよ。行くか?」

「おー! いいな! 行く行く!」

「じゃあ今下りてくよ」

「おう待ってるぜ、早く来いよ」


「みんな今戻ったの?」


「城下に出てたんだよ。学院の食堂はいつでも食わせてくれるが、飲ませてくれないからな」

「お酒?」

「うん。メリクは飲むのか?」

 慌てて首を振ってる友にイズレンは吹き出した。

「だよな」

「そんなに美味しいのかな……」

 首を傾げているメリクにイズレンがにやりと笑みを向ける。

「それはいかんな。今度どこかいい所に連れてってやるよ。酒場――、あんまりガラの悪くない所な」

 イズレンが付け足すとメリクが声を出して笑う。

「ありがとう」

「おっと。さ、早く行こうぜ」

「うん」


 二人は部屋を出た。


 鍵を閉めてるイズレンを待ってる間に、メリクは学院寮の長い一直線の廊下をじっと見つめた。いくつもの扉があり、そこに様々な理由で魔術学院に集った学生達がいるのだと思った。


「……僕も寮に入ってみようかなぁ……」


 ぽつんとメリクが言った言葉に、振り返ったイズレンが眼を丸くした。


「本当に?」

「うん……ちょっと考えてる」

「いいじゃん来いよ! もっと気軽に話せるようになるしさ。楽しそうだ。あっ! それにお前が来ると、試験の時に俺がとても助かる」

「あはは」

「俺は歓迎するぜ。他の奴らだってそうだよ。皆、話しかけにくいと思ってるだけで、お前のこと気になってる奴らいっぱいいるんだ」

「うん、今まで考えたこともなかったけど。そういう暮らしもあるのかなって……なんかみんなここで楽しそうだなぁって。色んな人が色んなことを考えて暮らしてるんだよね」


「まぁそうだよな。城には国のこと、王家のことしか考えていない奴らしか、いないよな。色んな人間がいるって意味じゃ、やっぱりこっちの方が上だよ。学院寮って堅苦しいと思われてるけど、そんなこと全然ないぜ? それに城にいるお前からしてみりゃ、規則も大した事無い。本気で考えてみろよメリク」


「うん、そうしてみる」


 おーい、と向こうで青年達が手を振っていた。


 彼らにとっては日常の何気ない遣り取りが、その時のメリクにはとても魅力的なものに見えたのである。

 自分が【闇の術師】ではないかという自覚がメリクに芽生え出していたこの時期、彼はいつも光に憧れ、それを求め続けていた。


【終】

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その翡翠き彷徨い【第28話 彷徨う魂】 七海ポルカ @reeeeeen13

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