６　未来 - 使命（平　一）

前のエピソード――５　真実

　作戦の功績もあって〝射手座人（サジタリアン）〟と〝牡牛座人（トーラン）〟はさらに地位を高め、人類と共に星域の発展を担う種族となった。そして両種族と人類は、その美しい声や、多肢を活かした身振り言語、豊かな音声言語から、それぞれ〝歌い手（シンガー）〟〝踊り手（ダンサー）〟〝語り手（トーカー）〟の愛称で呼び合って交流を深め、他の種族からも親しまれた。この呼び方もまた、ジャック・キャンベルという人気作家のＳＦから採られたものだ。

　その後さらに量子頭脳への人格転移（マインドアップロード）も果たした三種族は、新帝国の民主化政策により、参政権を獲得した。また新帝国の種族間融和政策の方針に従って、共有分離体の建設と共通分離個体（アバター）の製造も行った。共有分離体というのが、まさにこの可動惑星上に設置された量子頭脳網で、各種族の人格がそのまま移転して活動し、外交交渉や共同事業を行える。共通分離個体は三種族のどの惑星でも生活でき、短時間なら惑星近傍の宇宙空間でも活動できるという優れものだ。

追加イラスト７：三種族

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818622175811968322

　君達も知っての通り、その分離体には〝三位一体（トリニティー）〟、分離個体の方には〝大海老（ロブスター）〟という愛称がついているね。〝大海老（ロブスター）〟の由来は聞いているかい？　ブルース・スターリングという作家の作品からつけられたんだ。彼は宇宙に進出した人類が自らの肉体の限界を克服し、異星人とも交流しながら発展していくという、予言的なＳＦを書いていた。

　あと、君達の勉強に関係があるのは多層均衡政策かな？　人々が目覚ましい繁栄の中で、次の時代に必要となる社会課題の解決を忘れてしまわないよう、星域間や宙域間の建設的な競争を促す政策だ。〝三位一体（トリニティー）〟は新設された〝中央星域〟の重要な技術・産業拠点のひとつとして、復興著（いちじる）しい〝旧皇帝領〟や急速に発展する〝銀河系外周星域〟と競い合い、この政策に貢献するものと期待されている。

追加イラスト１４：繁栄

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818622176269182471

　それからさらに年月が経ち、私も人格転移（マインドアップロード）を行った。そして今ではこの〝三位一体（トリニティー）〟に派遣され、星域の振興事業に従事中というわけだ。ここでは〝先帝〟救出作戦で私を助けた〝射手座人（サジタリアン）〟とも再会したし、上司は作戦に参加して昇進した〝牡牛座人（トーラン）〟だ。みんなそれぞれ激動の時代から、大変だが面白い人生を長く生きていて、彼等との情報交換はとても役に立っているよ。

〝三位一体（トリニティー）〟は星域の要所なので、他の種族の人格や個体も沢山行き来している。私のように古い人間の価値観からすると、初めはむしろ〝万魔殿（パンデモニウム）〟のようにも見えた。でもここで暮らし、働き、様々な人々に慣れてくると、そうでないことが分かってくる。〝三位一体（トリニティー）〟は姿形も生活も異なる様々な種族が、内戦の悲劇を乗り越えて、共に素晴らしい新国家を築いて行こうという、希望の象徴なのだ。

　新皇帝種族サタンも、実質的には混成種族だと言われている。サタンの母星には戦前から、〝先帝〟内の良識的な人格群が、指導者層として大量に移民していたそうだ。帝国の崩壊を憂（うれ）える人々が、その改革と復興のために、最も忠実な臣下サタンを実質的には依代（よりしろ）としたのだという説もある。言われてみれば確かに、〝聖霊（ホーリースピリット）〟救出作戦で救助された人格群も、全員サタンに帰化しているよね。ただいずれにしても、私達はみな自分達が神でも悪魔でもない知的種族なのだと分かっているし、今後はお互いを高め合いながら、仲良く共に暮らしていこうというのだから、本当の神様だってきっと祝福してくれるはずだ。

イラスト６：先帝と新帝

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330653442383336

　最近では三種族の発展と貢献が認められ、新旧皇帝種族の優秀な分離個体（アバター）技術も提供されて、さらに仕事がやりやすくなった。そう、まさにこの身体がそうなんだ！　白銀色の鱗（うろこ）に覆われた蛸（たこ）のような、柔軟だけど強靭な〝先帝〟種族の身体が、〝大海老（ロブスター）〟よりも丈夫で組替え可能な外殻をまとっており、様々な形態に変形できる。……ほらね！　こうして直立二足歩行も多足歩行もできるし、狭い空間での匍匐（ほふく）行動も驚くほど速く、磁力吸着機能も備えている。最強の軍事種族だった〝先帝〟種族の人工体は、宇宙空間のような極限環境での建設作業などにはぴったりだ。一方、空気があって重力制御もできる宇宙船内の環境向けには、収納可能で軽量な、蝙蝠（こうもり）に似たサタンの翼がある。いかにも民生種族らしく、技術的には質素でも美しく、繊細で機能的な肉質の翼は、私達人類にとっても優しく親しみやすいものだ。

追加イラスト８：新人工体

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818622175814623498

　まあ昔の人類から見れば悪夢のような姿だが、君達の世代ならそんな先入観（せんにゅうかん）もないはずだ。今では私もこの通りで、使ってみると頭脳明晰（ずのうめいせき）、身体強健（しんたいきょうけん）、便利で安全、快適このうえもなく、一度使うと手放したくなくなるほどだ。凄いだろう！？　とはいえ従来型の分離個体にもそれぞれ捨てがたい愛着や感覚といった良さがあるし、新たな活動領域や人工体技術も次々と出てきているから、私達は皆これからも色々な身体を乗り換えていくんだろうけどね。