初歩の初歩
松ノ枝
終わりに近づいている
僕の先祖は宇宙の始まり、ビックバンを観測した男である。
光は毎秒三十万キロメートルを移動できる。この存在は真空中でこの速度を不変のものとしている。宇宙において今のところ情報伝達速度は光速を越えないらしい。量子もつれなどに可能性を見出せるが、速度限界があるためダメらしく、情報の伝達法にも問題がある。故に無理なのだとか。
光は情報を伝える宇宙最速の存在だ。これは過去を見るのに使われる。
遠くの星を見たとしよう。見えるということは光を反射してるということで、その光は何年も前にその星で反射した光だ。光年単位で離れるほどより過去の状態を観測出来る。
僕の先祖はこのことを利用して宇宙の始まりであるビックバンを観測した。
先祖はこのことをこう言い残したらしい。
『宇宙の始まり、それはとても偉大で、今の我々を生み出してくれた。莫大なエネルギーの爆発は私の脳裏に焼き付いている。私は宇宙が歩んでいる人生、その第一歩を見たのだ』
宇宙は今や老人で、かつてのように生き生きとはしていない。
近頃ではビッククランチだのビックリップだのと宇宙の終焉に対する話題が熱を持ち出した。誰しも終わりは怖いのだ。宇宙の終わりならなおさら。
僕ら、かつてのホモサピエンスの末裔たちは宇宙を何千年と生きてようやく気付いた。僕らは弱く、危険で、恐れを抱く。恐怖で進み、狂気で壊す。宇宙の全ては知らなくて、初歩の初歩を生きている。
人類はこのことに恥ずかしさと己の傲慢さを憂いた。
だが僕はこうも思う。宇宙も初めは初歩の初歩を生きたのだと。宇宙すら初歩があったのだから人類にもあっていい。問題はそのあと初歩を乗り越えられるかどうか。これに宇宙や人類のスケールの違いはない。
これから僕は人類総出の宇宙生き残りプロジェクトに参加する。分からないことだらけだ。でも僕の先祖だってビックバンを観測した時、分からないことだらけだった。
僕の先祖がそうなのだから恥じることなどない。ただこの言葉は胸に残してほしい。
『初歩を乗り越えてからが真の始まり』
初歩の初歩 松ノ枝 @yugatyusiark
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