お父さんの日給

レッドハーブ

お父さんの日給

「ただいまぁ…」


大きい声は出さない。出せないのだ。妻と子どもたちが寝ているから。

3人を起こさないようにリビングにいき、妻が作ってくれている夕飯を食べる。

ビールを飲みながら、ボリュームを下げたテレビを見て、シャワーを浴びて寝る。

朝は子どもより早く起き、仕事へ向かう。


それが…男の毎日だった。

正直弱音を吐きたいときもある。

すべてをすてて逃げ出したいときもある。


それでも毎日踏みとどまっている。

それは自分が寝る前に…妻と子どもの寝顔をみて寝ることにしているからだった。

屈託のない寝顔が…それを踏みとどまらせてくれているのだった。


ある日のことスマホで妻とやり取りをしていた。会話じゃなくスマホでしか家族の情報を共有できないのは思うところがあったが…。家族を養うためだと割り切っていた。


【変わったことはないか?】

【最近、子どもたちがお金についていろいろ聞いてくるの】

【なかなか賢い子だ。お金の勉強は大事だ】

【そうじゃないの。あなたの一日の稼ぎなんかも聞いてくるのよ】

【それは困ったな…】


お金の勉強は大事だが…。

人の稼ぎを聞くもんじゃないな…。

まだ12歳と10歳だから仕方がない、か…。


【ごめんなさい、1日1万円くらいかもって言っちゃったの】

【おいおい。…どんな反応してた?】

【2人してそっかぁ…って。それから家の手伝いをするようになったわ】

【へぇ、感心だ】

【でも、一回の手伝いにつき100円請求されるけどね】

【まぁ、それくらいなら…なにか欲しいものでもあるのか?】

【わからないわ。ただ2人して貯金箱に入れているみたい】

【そうか。しかし、家の手伝いくらいは無償でやってほしいものだなぁ】

【そうね】


スマホをしまい、そして男は業務にもどった。

そして今日も疲労困憊ひろうこんぱいの状態で帰路についた。


(しっかし、なにが欲しいんだろう?ま、そのうちわかるか…)


男はさっと夕飯、シャワーをこなし床に着いた。




あれから1ヶ月近くたったある日の朝。

いつものように男は起きた。家族を起こさぬよう静かに家を出た。

しかし、おかしなことに今日の業務に自分の名前が見当たらない。

なにかの間違いだだろうと思い、男は社長室のドアをノックした。


「社長!今日の業務に私の名前がありません!なにかの間違いでしょうか?」

「いや、間違いではない。キミに今日の仕事はない」

「なぜですか!?私はクビですか!」

「それもちがう。キミは有能だ。クビにする理由がない」

「?」


社長はテーブルに手紙と茶封筒をおいた。

手紙は子どもの文字で書かれていた。


「父親想いの子どもたちだな…」


茶封筒にはたくさんの小銭が入っていた。

目算だが2万円はあるようだ。


(1日1万円くらいかもって言っちゃったの…)


男の中で点と点がつながった。


「先日、キミの子どもたちが私のところにきたよ。2万円あるから父さんに休日を下さいってね。…それと、これは私からだ」


それは4枚のチケットだった。


「家族でデゼニーランドに行ってきなさい。これは…社長命令だ!」

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