第40話 魔術師ギルド

石畳の大通りを抜け、教会のように重厚な石造りの建物の前で足を止めた。

冒険者ギルドで聞いた「魔術師ギルド」――正面扉の上には杖と魔法陣のレリーフ、そして大きく「魔術師ギルド」と刻まれている。いつの間にか文字も読めるようになっている。アリスちゃんありがとう。


街の広場に面した扉をくぐると、外とは別世界のように静謐な空気が満ちていた。冒険者ギルドの喧噪とは正反対の、厳かで落ち着いた雰囲気だ。


その空気に圧されたのか、それとも知識テストで疲れていたのか、ビーは「腹が減った」とだけ言い残し、市場へ串焼きを買いに出かけてしまった。


広間は広く、中央には重厚なカウンター。奥には高い本棚と魔道具が整然と並び、空間全体に知の香りが漂っている。

受付に立つ若い女性は、小箱から取り出した魔石を光にかざし、うっとりと見つめていた。


「……あの」

小さく咳払いをすると、彼女はハッとして魔石をしまい、柔らかな笑みを浮かべて振り向いた。栗色の髪をまとめ、深い青のローブがよく似合っている。


「ようこそ。ご用件を伺っても?」


「オレは天馬といいます。魔法陣に詳しい方を探しているのですが、こちらにいらっしゃいますか?」


彼女はにこやかに頷き、自己紹介を返してきた。


「私はミレイアと申します。こちらには魔法陣の専門家が多くおりますので、お力になれると思います」


アリスちゃんが一歩進み、はっきりと問いかけた。


「雷の魔石から“電力”を取り出す技術に詳しい方はいらっしゃいますか?」


「電力……?」ミレイアは首を傾げ、すぐに顔を上げる。「その言葉には馴染みはございませんが、雷の魔石といえば第一人者がおります。“雷の魔術師ジー”と呼ばれる方です」


「ジー……?」オレはその名を繰り返した。


「年齢不詳で謎の多い方ですが、現在は北の雷鳴山脈、サンダークレストの頂に住んでいると聞いています。あの山は雷が常に走る危険地帯。魔物も多く、向かうなら準備は万全に」


行き方を尋ねると、ミレイアは丁寧に地図を示しながら説明してくれた。


「ここアーミテリアから北へ。“ウィンドバレー”という強風の谷を越えた先が雷鳴山脈です。山頂まではおそらく二日の行程。雷鳴が近づいたら、頂上はすぐそこです」


礼を言い、外へ出る。空は晴れ渡り、心なしか風が冷たい。

ギルドの建物を振り返ると、アリスちゃんはまだ中を観察していたが、こちらの視線に気づくと軽く頷き、ミレイアに一礼して出てきた。


そのとき、市場の方から串焼きを頬張りながら歩いてくるビーの姿が見えた。手を振ると、ビーは口いっぱいに肉を詰め込みながらも、のんびりとこっちへ向かってくる。


(さて……次に会うべきは“雷の魔術師ジー”。電力――バッテリーのヒントが得られるかもしれない)


オレは小さく息を吐き、仲間たちと合流した。


ビーに魔術師ギルドでの経緯を話すと、

「……雷の魔術師ジー」とつぶやいたまま、黙り込んでしまった。

串焼きだけはもぐもぐと噛み続けているが、どこか上の空だ。


急に黙り込んだので不思議に思っていると、ビーが突然「ぐぬっ!」と声を上げた。

喉に詰まったのかと思い、慌てて背中を叩く。


「げほっ……! いや違う! 雷のジー、それは……たぶんジーさまのことじゃ!」


「……?」


「ジーさまよ。グレート・ブラック・ドラゴン、通称ジー! 雷を操る偉大な黒竜じゃ。人間どもは“魔龍”と呼んでおった」


「えっと、それって……魔術師でもあるってこと?」


ビーは串焼きを握ったまま、しばし考え込む。

「むかし聞いた話じゃが……ジーさまは“時を操る魔術師”に角を折られての。角は竜にとって命の次に大切なもの。まぁ翼も牙も目も大事じゃ。いってみれば、この串焼きも命と同じくらい大事じゃぞ! 誰にもやらん!」

ひとりで勝手に興奮している。


「……で、話は?」


「おぉそうじゃった。角を奪われた復讐を果たすべく、人の姿で魔法を学び始めた……と、ジーさま本人から聞いたことがある」


「つまり、“魔術師ジー”はビーのおじいちゃんってこと?」


「わからん! ワレの勘じゃ!」


ガッハッハッと豪快にビーは笑った。結局、どういうこと?





◇ ◇ ◇


その後、館へ戻ると、執事に案内されてアウロラ嬢の書斎へ。

「お帰りなさいませ。何か情報は得られましたか?」

アウロラ嬢が柔らかく迎えてくれる。


冒険者ギルドと魔術師ギルドでのやり取り、そして“雷の魔術師ジー”のことを伝えると、彼女は小さく頷いた。

「そうですか……雷鳴山脈へ」


「準備が整い次第、出発する予定です」アリスちゃんが答える。


「わかりました。なにか必要があれば知らせてください。今日はもう遅いですし、ぜひ泊まっていってください」

優しい微笑みに、ありがたく甘えることにした。


夕食の席で、アウロラ嬢から治療薬の相談が持ちかけられる。例の――ナノマシン入りの水だ。

恩返しのためにも応えたいが、問題は「オレから離れるとナノマシンが不活性化する」こと。

解決するには、オレの“コアの分身”を街に設置しなければならない。

込み入った話になるため、雷鳴山脈から戻ってから改めて話すと約束した。


(はぁ……それにしても今日は疲れた。風呂には入りたいけど……また混浴かぁ……)

そんなことをぼんやり考えながら、夕食の会話を楽しんだ。

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九条天馬の異世界宇宙迷走録 〜 超高性能ボディもらっちゃいました 〜 花舎ぴぴ @casha

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