初めてのステーキと、ちょっとしたお話

宇治ヤマト

初めてのステーキと、ちょっとしたお話

 ステーキについて申せば、子供の頃には食べた事が無い(少なくとも記憶にはない)。


 初めて食べたのは、高校生の頃です。


 その時の、ちょっとしたエピソードです。



 親戚でも従姉いとこでもない、けど何故か昔からお世話になっている女性の方にステーキ・ハウスに連れて行って貰いました。



──────────────────────



 ステーキって美味いのかな? 肉の焼けるいい匂いはするけど……と言うか、この人って、俺の本当の母さんなんじゃないだろうか? とか、考えてました。



「ヤマト君、考え事?」


 不意に聞かれて


「瞳さん(仮称)って、俺の本当の母さんだったりします?」


 なんとなく、今のタイミングしかないと思った。

 それで、ストレートに聞いてみた。


「そんな事、考えていたのね? ──違うわよ」


「そうですか……、残念です」


「私が、お母さんなら良かった?」


「はい。小さい頃から、なんとなく……瞳さんが、俺の本当の母さんなのかな? って、ずっと思っていたんです」


「そう……。今のお母さんは、どうなの?」


 俺は黙って首を振った。


「私が、本当のお母さんになってあげたら……良かったかもね」


「いや、いいんです」


 残念ではある。しかし、母親としての理想像のままで居てくれた方が良いのかも知れない。


 瞳さんの事は、深くは知らない。だが、その人柄は解る。この人が母親なら、と思うくらいには。


 その後、肉が運ばれて来て、二人で食べた。


「ヤマト君、どう?」


「めっちゃ、美味いです! こんなにでかい肉、初めて食べました」


「そう、良かった」


「瞳さんって、何で俺に良くしてくれるんですかね?」


「ん~、なんでなんだろうね。なんとなく、かな」


「瞳さんって、俺の本当の母さんの事、知ってます?」


 瞳さんの動きがピタ、と止まった。


「……ごめん。言えない」


「そうですか。変なこと聞いてすみません」


「……会ってみたいって、思う?」


 俺は肉を咀嚼して、飲み込んでから言った。


「まあ、普通の人なら、会ってみたいです。けど、悪人なら、会わなくていいっす」


「結構ドライねぇ。悪人……ではないけど、難しい人……かな」


 やはり、知っているのだ。


「じゃあ、会わなくていいです」


「そっか。もし……、会いたくなったら──相談には乗るよ」


「そう、ですか。わかりました」


 その後は、別な話に切り替わり、昔の話や、俺の進路の話となった。



 瞳さんが言う『難しい人』……の意味を、数年後に俺は知ることとなった。

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初めてのステーキと、ちょっとしたお話 宇治ヤマト @abineneko7777

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