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 バスに揺られる事数時間、俺らは戸谷湖周辺のキャンプ場まで来ていた。

 戸谷湖周辺は湖を中心に、森と山などの自然が広がっているので林間学校のような校外学習にとって最高の場所ともいえる。


「さて、まずは戸谷の森と呼ばれる森を散策して課題にある植物を採取すればいいんだな」


 一日目の午前中の課題、それは簡単に言えば珍しい植物を採集して帰ってこいと言う物だった。

 全くの茶番である、これがもし競争とかだったら少しは面白かったのだけれど生憎と競争ですらない。


「熊とかでないかしら……?」

「それは戸谷湖周辺の熊の数は少ない事で有名だから大丈夫だと思うぞ」


 意外な事に彩華が森を見渡して熊が出ないか怖がっていた。


「楽しみだな、陽太」

「そうですね、クラスで最速のコンプリートを目指したいですねっ!」


 達也と陽太はかなりやる気に満ち溢れた表情をしていた。

 そしてそんな時に唯一班員じゃない人物がこちらによってきた。

 勿論その人物は凛だ。


「こんにちはー。5組の桃崎凛です、俊に誘われてきちゃいました」


 にこやかな笑顔で挨拶する凛。

 それに対して陽太と彩華が反応する。


「桃崎さんお久しぶりです」

「久しぶりね、桃崎さん」


 加えて初対面の芽衣と達也が凛に挨拶をした。


「初めまして中口芽衣です! アヤちゃんと俊君の親友で吹奏楽部に所属してます!」

「初めまして、遠藤達也だ、――です。部活はサッカー部でそこの俊の友達です。よろしく」


 達也は少し噛みながらも凛に挨拶することができていた。

 出逢いの場は作ってあげたんだ、その調子だぞ達也!


「さて、六人全員が揃った事だし出発するか」


 高校の友達がこうも全員で集まって何かをするのはとても新鮮だった。

 俺を先頭にして俺ら六人は森の中に入って行く。


 森の中は少しだけ涼しく、虫の鳴き声や鳥のさえずりが響き渡っていた。

 たまにはこんな穏やかな空気が吸いたくなる。


「ねえ、俊!」

「ねえ、川崎君!」


 俺が先頭で森の空気を吸っていると彩華と凛から二人同時に話しかけられる事になった。

 少し驚いているとその間に俺の右手と左手がそれぞれ彩華と凛に掴まれてしまった。


「えっと、これはどういう状況なんだ?」

「(桃崎さん邪魔ね)川崎君と二人で歩きたいと思っただけよ」

「(泥棒猫! また私の邪魔をするのね)実は私も折角この班に混ざったんだし俊の近くにいたいと思ってね」

「うん、俺と一緒にいたいのは分かったけどちょっと距離が近くないか?」

「「そんなこと無いよ!」」


 こいつら、校外学習なのをいいことにテンションが普段よりも高くなってやがる。

 両手に花状態の俺は諦めてこの状況を受け入れる事にした。


 さて、そんな中後ろの3人組はそれぞれ色々な思いを感じていた。


(桃崎さんって完全に俊君の事が好きみたいね。これはアヤちゃんにもライバル登場だなぁ)

(しゅ、俊! なんであの桃崎さんとの距離があんな近いんだ! 流石幼馴染、悔しいけどやっぱ俊は凄いな)

(わぁあ、やっぱ俊君はモテモテだなぁ。でもこんな目の前でイチャイチャされると反応に困るなぁ)


「えっと取り敢えず探さないといけない植物を見つけよう」


 近くに他の幌北生が来ない事を祈りながら俺たちの班は植物採集に取り掛かった。

 途中川を越え、道の無い方へと少しだけ入り込んだり、リスを見つけたりと色々な出来事があったが無事必要な植物を採取する事が出来た。


「よしこれを提出すれば午前の課題は終わりだな」

「随分動いたわね、疲れちゃったわ」

「そうね、私の疲れたぁ」


 俺の隣で彩華と凛がかなり疲れた素振りを見せる。

 後ろの三人組も達也を除いてかなり疲れてそうだった。


「よしこの後はカレー作りも控えてるし、一度休憩を取ってから戻るとするか」

「僕は賛成ー」


 真っ先に賛成と言って切り株の上に座りこんだのは陽太だった。

 そしてずっと俺の両腕を拘束していた二人組も俺の手を離し、丁度いい所にあった森のベンチに座った。


 俺も皆に続いて切り株の上に座って、バッグから水を取り出し水分補給をする。

 ふう、精神的な疲れと喉の渇きがなくなっていく。

 あんな美少女二人に腕組みをされた状態で1時間も歩いていたんだ、ドキドキしすぎてむしろ精神力の方が削られた。


「よし、あまり遅くなるのもあれだし、ちょっと早いけど休憩を終わらせて戻るとするか」


 そして帰りも勿論彩華と凛は俺にべったりとくっついてきた。

 そしてよくよく二人を観察してみると何やら互いに牽制している様子。

 え、何。二人とも仲悪かったの……?


 このままではだめだと思い、俺は凛に話を振る事にした。


「なあ凛、折角だし達也とか芽衣と話したらどうだ?初対面かもしれないけどあの二人はいい人だから仲良くなって損は無いぞ?」

「そうね、俊が言うならちょっと話してみるわ。でも泥棒猫がその手を俊から離したらだけどね」

「なっ! 桃崎さん卑怯よ」

「それならお二人とも離れてください……」


 結局その後は芽衣、達也、彩華そして凛の四人が雑談で盛り上がり。

 後ろで疲れていた陽太と俺の二人で少し話しながら集合場所まで帰ったのであった。

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