タイムリープ要素を加えたラブコメは昨今のライトノベルや恋愛小説においては、ありていに言ってしまえば満ち溢れたテーマだが、そこに「音楽」という題材が差し込まれることにより他の作品群とは一線を画したオリジナリティを確立している。
元プロピアニストの主人公である俊は、度重なる事故によりその道を絶たれ、挙句に同じピアニストにして唯一の妻である彩華に見限られ、そしてやはりというべきか交通事故に見舞われ――という悲壮感溢れる導入から一転、高校時代の景色に時間遡行してからはフレッシュな日々が記憶と共に甦る。
この作品の特筆すべき魅力は、高校生の視点、学校内に存在するもう一つの社会など、甘いだけではない青い春を上手く描き出しているところだと思う。
生前(リープ前)の俊には、妻の彩華に対して幾ばくかの不安を抱いていた。そのどれもがタイムリープ後の高校を起点にするものであり、それを辿るべく奔走する俊のひたむきさに読者は心を打たれることだろう。
学園生活といえば、楽しい事だけではない。恋愛、生徒間の派閥争い、部活内のいさかい……そういった多感な思春期のさなかにある彼ら彼女らの不安や葛藤、そのむごさに心を締め付けられそうになりながらも、しかしその苦悩もすべてひっくるめて「青春」なのだと、未熟な高校生の「リアル」を高い解像度で映し出すことに成功している。
そしてこの作品を語るうえで欠かせないのが「音楽」要素である。先述したように、このタイムリープラブコメ、その複雑な人間関係とをうまく結びつけているのが作中で描かれている吹奏楽部である。部活動を経験したものなら共感(叫喚)必至のシーンの数々、そしてなにより、主人公の俊と元妻・彩華の、言葉で表せない心のつながりを、演奏描写で巧みに表現している。クラシックや音楽に見聞のある者ならば思わず反応してしまうような描写は、願わくば映像で見届けてみたい。
だらだらと稚拙な感想を書き並べてきたが、かんたんに言うと、ひとつだけ。
俺もこんな高校生活に戻りてえよぉおおお