終末世界で君たちと
雪解わかば
終末世界で君たちと
想像できる限り最高に美しい青空に、同じくかき氷のようにふわふわした白い雲。
そして、大自然を感じさせる緑化した高層ビル。
この世界には、私たち3人しかいない。
「今日も平和だねぇ」
アオイ兄さんが呑気に言う。
「この世界のどこが平和なのよ!」
ツッコミを入れるのはナノハちゃん。
「襲ってくる生物的なのもいないし、ある意味では平和といえる……のかな?」
そして私、平凡女子ことサクラ。
「今日はどうしよぉ?」
「今日も探検するって言ってなかったっけ? 『この世界の真相を探るんだ』って言ってたじゃない!」
「そうだよね。探検いこっかぁ」
私たち3人は、物心ついた時からずっと一緒だ。その時から世界はこんな感じだったけど。
「この辺は探検しつくしたし、電車乗りたいなぁ」
「あらいいじゃない。電車なら遠くまで移動できるものね」
「次の電車まで時間がないよ、ちょっと早歩きしないとね!」
この世界は、不思議なことだらけだ。
確かに人間は私たちしかいないはずなのに、電車や街の時計なんかも動き続けている。
どんな滅び方をしたらこんな世界になるのか、想像もつかない。
都合がよくてまるで作られたみたい……
(幼い時の記憶も曖昧で、まるでファンタジーみたい……)
なんてちょっと思ったり。
緑のビルに囲まれた大通りで静かな世界に足音だけが反響する中、駅ビルに到着した。
「ふぅ、間に合ったぁ」
「まだ安心できないからね!? 油断してたら電車出発しちゃうよ!」
ナノハちゃんはこういう面倒見のいいところが素敵なんだよなぁ、と思いながら階段を上り下り。
『電車が出発します』
昔ながらの機械音声が私たちを呼ぶ。
「サクラ、ナノハ、急いで!」
「うん!」
アオイ兄さんが引っ張る手を、私は全力でつかむ。
兄さんったら、普段はボーっとしてるのに、大切な人のためなら本気を出すんだから(って誰目線なんだろ? 私が産んだわけでもないし)。
そのまま発車メロディと同時に電車に飛び乗る。
「間に合ったわね! ありがと、アオイ」
ナノハちゃんがお礼を言う中、私も内心でぺこりと。
(アオイ兄さんって素敵だよね、物語の主人公みたい)
私は心の中でそっと思った。
動き出した電車は立ち並ぶビル街を抜け、青く澄んだ川を渡り、郊外の街へとたどり着いた。
「前までいた場所とは全然違うねぇ」
三人で横に広がりながら歩いていると、大きな建物を発見した。
「あの建物なにかしら?」
「看板には『MALL』って書いてあるねぇ」
「多分だけどショッピングモールだよ! 本で見たことある!」
「物知りぃ」
「えへへ……」
「で、モールって何?」
「それはね――」
ナノハちゃんとアオイ兄さんにこの場所について教えてあげた。
世界が栄えていたころの商業施設であること。いろんなお店が集まっていること。そして、たくさんの人が集まっていたことを。
「ふーん。素敵なところだったんだねぇ」
「たくさんの人って言われても、なかなか想像できないわ」
「そうだよね。正直、私にもわかんないや」
「昔はもっと人がいっぱいいたのよね……」
「「……」」
ちょっとしんみりしちゃった雰囲気を打ち破ったのは、アオイ兄さんだった。
「僕、ショッピングモールに興味あるな。ほら、昔のものとか見られるかもしれないしぃ」
「……そうね、入ってみましょうか」
ナノハちゃんの同意も得て、私たちはショッピングモールへと入っていった。
ショッピングモールは、苔むした外見とは裏腹に中はほとんど当時のままらしく、十分に楽しむことができた。
最初はゲームセンターでゲーム大会。
「あっ、ナノハちゃん上手!」
「え、曲に合わせてボタン押すだけよ?」
実際に私たちがやってみても、全然うまくいかなくて。
ナノハちゃんの意外な才能が見られたりした。
「まるでプロゲーマーみたいだねぇ」
(プロゲーマー、ナノハ……
その名前に引っ掛かりを感じたけど、たぶん気のせい。
その後食事をとり、自由行動に。
私は前から興味を持っていた場所に足を踏み入れることにした。
そこの店頭には『書店』と書かれている。
「さて、今日は何を読もうかな!」
本を読んで栄えていたころの世界を知るのが、私の楽しみなのだ。
「今日は……小説の気分かなぁ」
小説――人々が作った、虚構の世界。
だけど私はそんな世界が好きだ。だって、その人の理想があふれているから。
原稿用紙に描かれた夢が、私は大好きなのだ。
そんなわけで今日は小説コーナーに居座って沢山の本を一気読みした。
ファンタジーにミステリー、それからSFとか。
だけど、いくら物語とはいえ残酷な展開はちょっと心苦しかったりもした。
「そろそろ時間かな…………ん?」
書店を去ろうとしたとき、一冊の本が目に留まった。
「
どこか懐かしいような気のする名前に、思わずその本を手に取った。
「あっ、もう時間じゃん! 集合に遅れちゃう!」
だけど本の呼ぶ声を私は無視できず、本を持っていくことにした。
その日の夜は、ショッピングモールにあった家具店のベッドで寝ることになった。
「それじゃおやすみぃ」
「おやすみなさい」
二人は先に寝ちゃったけど、私は眠れない。
そんなわけで私はさっき貰ってきた山上咲良さんの本を読むことにした。
「この小説、どこかで読んだことあるような?」
どうやら、どこかぼうっとした男子高校生、
「いや、読んだとも違うようなこの感覚……」
だけど、告白して二人が付き合い始めたところで文章は途切れている。
しばらく本をペラペラして話の続きを探していると、本の終盤に文章を見つけた。
『この本を見つけた人へ
こんにちは、山上咲良です。
私には、人には言えない秘密があります』
見つけたのは、作者からのメッセージだった。
『早速ですが、私の秘密を暴露しようと思います。
私、実はこの世界の神様なんですよね。
その証拠が、この小説です』
世界の神様? この小説が関係するっていうのも、あまりよくわかんない。
『この話、ただの空想に見えますか?
……見えませんよね、だって菜花ちゃんはプロゲーマーとしても有名ですから。
私が書いた文章はこの世界で現実になるのです。
いや、濁さずに言いましょう。この世界は私の書いた小説の世界なのです。
なので、この本に書いてあることはすべて事実になってしまうんですよね』
ここが小説、つまり虚構の世界……?
『私はこの小説を新人賞に応募するつもりでした。最初はウキウキで書いていたのですが……ご覧の通り途中で書くのをやめてしまいました。作品の弔いとして、この世界に本を置いておきました。
もしあなたが読書家なのであれば、筆をおいてしまった理由がわかるかもしれませんね。ヒントはこの後の展開です』
ふと手を止めて考えてみる。
ページ数としては、ちょうど物語の中盤辺りだと思う。
そうすると、そろそろ一番の山場……いったん二人は引き裂かれ、再会し、決意を固くしてハッピーエンド。こういう流れではないだろうか。
『菜花は病気で葵と離れ離れになってしまう、予定でした。
これを予想できた方、おめでとうございます。とはいっても、当てられると思っていましたよ』
えへへ……じゃなくて、当てられると思っていた!?
『ちょっと意地悪したかもしれませんね。ごめんね、未来の私。君が見つけてくれるのは、分かっていましたよ』
え、ちょっと待って!?
未来の私って!?
そんな驚きをスルーするように、文章は続いていた。
『私にはキャラクターが生きているように感じました。本当は私の頭の中にしか存在しないハズなんですけどね。
そして、思ってしまったのです。二人のことを心から愛してる、と。
物語のためならどんなにも残酷になれる。小説家って悪魔なんですかね。
少なくとも私は、二人を傷つけたくはありませんでした』
この考え方、なんか私と似ている気がする。これも私が『未来の私』だから?
小説なんて生まれてから一度も書いたことない……ハズだけど。
『私は、二人との出会い方を間違ってしまったのです。
どちらもとってもいい子だからこそ、そう思ってしまいます』
だんだん当時の記憶がよみがえってきた。
だから、次の文章は自然と予測がついた。
「『生まれ変われるなら、二人と同等の存在になりたい。そして、出会うところからやり直したい』」
その言葉を唱えた瞬間、
次の言葉はもう、文字を見なくても覚えている。
「『よくできました、未来の私。
ページをめくってみてください。そこに世界の真相が書いてあります。
この本に書かれたことは現実になると言ったでしょう?』」
その瞬間、ページをめくるまでもなくすべてを思い出した。
頭に流れ込んでくる、前世の記憶と荒廃した世界の真相。
風でめくられたページも、その事実を補強する。
『葵くんと菜花ちゃんを傷つけるくらいならこの物語は未完のままでいいし、小説家の夢だってあきらめる。
だから、この世界は滅ぼす。
(崩壊の理由? そんなのテキトーでいいじゃん。本当は私が筆を折ったからなんだから)
(あっ、でも生活しやすいようにインフラはちゃんと生き残らせとこ)
その瞬間、本を握る手が緩み、自由落下していく。
――正直知りたくなかった。
二人にどんな顔をしていればいいのかわからなくなってしまう。
だってそうでしょ!?
私がこの世界の神様で、アオイ兄さんとナノハちゃんは私の創り出した存在で。
さらにこの世界の滅んだ原因が私にあるなんて言われたら!
二人と私は対等な関係だと信じてきた。
だけど、それはあくまでも偽りの関係。
私のせいで世界は滅び、二人を世界に閉じ込めたんだ。
「すや……サクラ、ナノハ、ずっといっしょだよぉ」
「そりゃそうでしょ、二人とも大切な仲間なんだから……」
その時、二人の寝言が私の耳に入ってくる。
「ありがとう、アオイ、ナノハ……!」
その言葉で私は再認識した。
――私は、二人のことが好きだ。
ただただ、三人で楽しく暮らしたかっただけなんだ。
彼らが創られた存在だったとしても。
二人で寝坊してナノハちゃんに怒られた朝も。
野宿でアオイ兄さんが私たちを終夜温めてくれた夜も。
この冒険で得た三人の絆は本物だ。
創作者には、責任が伴う。キャラクターを幸せにする、責任が。
二人を傷つけるなんて、私が許せるわけがない。
そう考えれば、選択肢は無かった。
「二人を守るために私には何ができる……?」
この本に書いたことは現実になる。ということは……
気が付けば夜のショッピングモールへと駆け出し、文房具屋を探していた。
夜のショッピングモールは暗く、明かりも手元の懐中電灯だけだが、それでも駆け足は止まらない。
幸運なことに文房具屋はすぐそこで、ペンをもらってくることができた。
「あとは、ここに書くだけ……」
本の最後のページを開く。
そして、私は昔と同じようにペンを握った。
窓から入る月明かりが、本をわずかに照らす。
「本当にこれでいいのかな……?」
私の手を震わせる。
「ごめん……やっぱり、これしかできない……」
だけど、手を動かし続けた。
「これでいいんだ。二人、そして私を守るためにも……」
涙でインクはにじんだが、確かに最後まで読める文字で書くことができた。
『サクラはこの本のことをすべて忘れる。そしてそのまま眠りにつく。
そして三人の平和で楽しい旅は、ずっと続いていく』
「おやすみなさい……」
ペンを離したその瞬間、意識を失った。
「……ぉぅぃ」
「むにゃ?」
「ねぇ! サクラ! 起きて!」
目が覚めると、時計は正午を示していた。私は一体何をしていたのだろうか。
――うん、わかってる。ただの寝坊だね。
「サクラ寝すぎ、もうお昼ごはんの時間だよ!」
「……わかった。寝過ごしちゃってごめんね。今日は何にする?」
「なんかね、ラーメンが食べたい気分だよぉ」
「そうだね。じゃあ、食品売り場で貰っていこう!」
「まったく、サクラったら起き抜けから元気なんだから……」
「いいね。ついでにお菓子もぉ」
「アオイも調子に乗らないの!」
静かなショッピングモールに、わいわいとした会話が響く。
だけど、なんか大事なことを忘れているような?
でも、私はこの終末旅行生活がなんやかんや言って大好きだから、それで十分だ。
私はポツリとつぶやいた。
「三人、ずーっと一緒だよ」
それに二人が反応する。
「「うん!」」
終末世界で君たちと 雪解わかば @fuyuyu_winter
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます