第4話 天照の微笑と、ひなの誓い

目を覚ますと、天井が青く光っていた。


 


まるで空のようで、空ではない。

人工的な、でもやさしい光。


 


「ここは……?」


 


ひなはベッドの上にいた。

包帯が巻かれ、清潔な布団にくるまれている。

隣には、あの時、巨人の前で見た――銀の外套の青年がいた。


 


「気づいたか。無理もない、あんなものを見れば」


 


尊。そう名乗った彼が、ぬるいお茶を差し出す。


 


「君が“立った”から、あの場は崩れなかった。

 子供たちも、あんたの剣を見て踏みとどまったんだ」


 


ひなはうつむく。


 


「私……何もできなかったのに……」


 


その時、奥の扉が開いた。


 


現れたのは、黒髪の女性だった。

目は金色に輝き、肌は白く、全身から光を放っているようだった。


 


「あなたが、ひなさんですね。お会いできて光栄です」


 


その声は、まるで鈴の音のように澄んでいた。


 


「私の名は、天照(あまてらす)です」


 


空気が変わった。

尊も、静かに頭を下げる。


 


「君は“選ばれていない”者だと聞きました。

 でも、それでも……あなたは剣を取った」


 


ひなは、何も言えなかった。

自分は、神に選ばれたわけじゃない。

妹すら救えなかった、ただの村娘にすぎない。


 


それでも、天照は微笑んだ。


 


「あなたのような者を、私は信じたい。

 この歪んだ世界を前に、立ち上がったその意志を」


 


彼女は、掌に収まるほどの小さな玉――

淡く光る“生玉(いくたま)”を差し出した。


 


「触れてごらんなさい。

 これは、神宝。

 あなたがそれに応えるならば、力は芽吹くでしょう」


 


ひなは震える手で、それに触れた。


 


次の瞬間――

胸の奥が、熱を持って脈打った。


 


「……っ!」


 


背中に、何かが刻まれる感覚。

見えない紋が、皮膚に浮かび上がる。


 


尊が驚きの声を漏らした。


 


「……まさか、本当に応えた……!」


 


天照は、ただ静かに、うなずいた。


 


「私は、“資格”では人を見ません。

 あなたは、この時代に最も必要な存在です」


 


ひなは、光を見つめながら、かすかに笑った。


 


「私は、まだ……怖いです。

 でも、それでも……守りたいものがあるんです」


 


天照の声が、そっと重なった。


 


「では、その意志に、力が応えますように」


 


ひなは、拳を握った。


 


選ばれなくても、立ち上がる。

それが、彼女の“再起”だった。

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選ばれなかった、たったひとりの私が @anemono

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