第6話(そして10年後)

あれから十年。季節は巡り、草木は枯れては芽吹き、私の感情は、あの日の復讐の炎を宿したまま、一層深みと冷たさを増していった。影から見守り続けた彼らは、もう誰一人として、この世には存在しない。それぞれが、それぞれの形で、静かに、しかし確実に、死を迎えた。全て、私が導いた結末だった。


健司の両親は、数年前に亡くなった。父親は、酒浸りの日々が祟り、体を壊してあっけなく逝った。彼は最後まで、健司の遺書に書かれた呪いの言葉に怯え、自分が息子を殺したと呟き続けていた。母親は、夫の死後、完全に心を閉ざし、健司の部屋で息子が残した手紙を抱きしめたまま、静かに息を引き取った。彼女は、健司の遺書に書かれた、私宛の愛情溢れる言葉を、ずっと憎んでいた。私が何気なく差し入れた、健司が好きだった花が活けられた花瓶に、彼女は一度も触れようとはしなかった。


健司の姉は、破綻した婚約の後、社会との接点を失っていった。再就職先でのトラブル、人間関係の軋轢。どれも些細なきっかけだったが、私から送った匿名の手紙が、彼女の疑心暗鬼を深め、全てを自滅へと導いた。彼女は、常に誰かに見られている、誰かに嘲笑されているという妄想に取り憑かれ、最終的には自宅のアパートから飛び降りた。その日、私は彼女のアパートの向かいにある公園で、静かにブランコを揺らしていた。


健司の妹は、引きこもりが続き、外の世界を拒絶し続けた。彼女の心は、家族が崩壊したあの日から、成長を止めていた。与えられた食事はほとんど口にせず、体は衰弱しきっていた。ある日、私は彼女の部屋の郵便受けに、一枚の写真をそっと滑り込ませた。それは、健司が死ぬ直前に書いた、彼女を恨む遺書の一部を拡大コピーしたものだった。数日後、彼女の変わり果てた姿が発見された。孤独と絶望が、彼女を蝕み尽くしたのだ。


恋人だった由香は、数年前にひっそりと姿を消した。健司を裏切った罪悪感と、繰り返される人間関係の破綻に、彼女は精神を病んでいった。私が彼女のSNSアカウントを特定し、過去の出来事を匿名で拡散したことが、彼女の精神状態をさらに悪化させた。最終的に、彼女は山中の湖で、自身の車ごと沈んでいるのが見つかった。遺書はなかったが、車中には健司の古い写真が置かれていたという。


そして、あのギャル。彼女は、健司の冤罪をでっち上げた後も、反省することなく、享楽的な人生を送っていた。しかし、私は彼女が通う場所に、匿名で健司の事件について記したメモを残し続けた。最初は無視されていたが、やがて彼女の周囲で奇妙な噂が流れ始め、友人たちは離れていった。彼女は孤立し、薬物に手を出した。私の手が直接彼女に触れることはなかったが、彼女の破滅は、あの日の私の小さな囁きがきっかけで始まったのだ。彼女は、薬物の過剰摂取で、誰にも看取られることなく、アパートで冷たくなっていた。


健司。

これで、終わりだよ。


信じなかった両親も、軽蔑した姉も、目を逸らした妹も、裏切った由香も、そして遊び半分で貴方を地獄に突き落としたあのギャルも、みんな、いなくなった。


誰も、貴方を信じなかった。

貴方の無実を、貴方の苦しみを、誰も理解しようとしなかった。


だから、私が、彼らに償わせた。


地獄の底で、貴方を信じた私だけが、貴方の魂を慰めることができる。彼らが貴方に向けた憎しみは、今、彼ら自身の墓標に刻まれている。彼らが味わった絶望は、貴方が味わったものと同じ。


ねえ、健司。

寂しくなんてないでしょう?


だって、私たちはずっと一緒だもの。

これから、永遠に。

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冤罪の彼を裏切った代償。私は奴らに復讐する。 @flameflame

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