陰の侵食

俺がカゲを完全に消し去って数ヶ月経った。


あいつのおかげで、死刑は免れた。

重度の精神疾患と診断された俺は、隔離病棟で穏やかな日々を送っている。


……満足だ。全て思い通り。


ずっと、心の奥底で願っていたんだ。

人を燃やしたい。爆風で吹き飛ばしたい。絶叫を聞きながら、世界が崩れていくのを見ていたい。


それを叶えてくれたのは、カゲだ。


予定通り、役目を終えたカゲは消した。


昼食の時間、病室に先生と看護師がやってきた。

先生はいつも通り、穏やかな声で尋ねてくる。


「調子はどうですか?」


俺はゆっくりと頷く。


「……はい、大丈夫です。」


心身が弱った精神病患者のフリ。慣れたもんだ。


「バイタル測りますね。」


看護師が血圧測定の準備をする。


そのとき、俺の右手が動いた。

テーブルの上のフォークをぎゅっと握り、看護師のこめかみに突き立てる。


病室が無音になる。


看護師が倒れた音で時間が動き出す。


「…おい!おい誰かぁ!!!」


先生が大声で叫ぶ。


自分が何をしたか分からない。

というより、俺は何もしていない!


バクバクと動く心臓を落ち着けようとする。

ふと、机の上のスプーンに目が行く。


スプーンに反射した自分の顔が映る。


「……許さないよ。」


頭の奥で、カゲの声がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

陰を喰らう 社ノ黑狐 @yui90125

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ