『俺達のグレートなキャンプ28 酪農家を救え!牛乳50ℓ一気飲み』

海山純平

第28話 酪農家を救え!牛乳50ℓ一気飲み

俺達のグレートなキャンプ28 牛乳(50ℓ)一気飲み


「おーい、千葉ー!富山ー!今回のグレートなキャンプのテーマが決まったぞー!」

朝の清々しい空気を切り裂くような声が、静かなキャンプ場に響き渡った。テントから顔を出した千葉と富山の目に飛び込んできたのは、軽トラックの荷台に積まれた無数の牛乳パックと、両手を広げて満面の笑みを浮かべる石川の姿だった。

「おはよう石川!今回のグレートなキャンプは何?」

千葉は目をこすりながらも、期待に胸を膨らませていた。

「はぁ…また何か始まるわね」

富山はため息をつきながらも、既に諦めの表情で石川の方へ歩み寄る。

「じゃじゃーん!今回のグレートなキャンプは『酪農家を救う為、牛乳(50ℓ)一気飲み』だ!」

石川は誇らしげに軽トラの荷台に積まれた牛乳パックを指差した。数えるのも面倒になるほどの量の牛乳パックが、朝日を浴びてキラキラと輝いている。

「えっ、50リットル!?」

富山が目を丸くした。

「そうだよ!最近ニュースで見たんだ。酪農家が大変なんだって。乳価が下がっててさ、牛乳が余りまくってるらしいんだ。だから俺たちで消費して応援しよう!ついでに面白いこともしようぜ!」

石川は手を叩きながら説明する。その熱量は朝の冷気をも吹き飛ばしていた。

「う~ん、50リットルって…人間の胃の容量って1リットルぐらいじゃなかったっけ?」

富山が懸念を示す。

「大丈夫、大丈夫!みんなで分けるし、時間かけてゆっくり飲めばいいんだよ!」

「オレは賛成!」千葉が元気よく手を挙げる。「どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなるし、酪農家の役に立てるなら一石二鳥じゃん!」

「そうそう!千葉分かってる~!」

石川は千葉の肩を叩いて喜ぶ。

「はぁ…いつもこうよね」富山はため息をつきながらも、手伝い始める。「で、どうやって飲むつもりなの?」

「もちろん、ただ飲むだけじゃつまらないからね!」

石川はリュックから何かを取り出した。それは巨大なじょうごとホース。そして…

「これで!」

巨大なビールサーバーのような装置が出てきた。上部に大きな容器があり、そこから複数のホースが伸びている。

「これは!?」

千葉が目を輝かせる。

「牛乳タワー!上に牛乳入れて、このホースから一気飲みできるんだ!みんなで同時に!」

「うわぁ…」

富山は顔を引きつらせながらも、石川の情熱に押され、準備を手伝い始めた。


午後、キャンプ場は徐々に人で賑わい始めていた。石川たちのサイトの周りには人だかりができ、奇妙な光景が広がっていた。

巨大な牛乳タワーを囲み、三人の若者たちが準備を整えている。周りのキャンパーたちは最初、怪訝な顔で見ていたが、石川が「酪農家応援プロジェクト!」と書かれた手作りの看板を掲げると、興味津々で集まってきた。

「みなさーん!今日は特別なイベントを開催します!」

石川がメガホンを持って叫ぶ。どこからかメガホンまで用意していた。

「現在、日本の酪農家が大変な状況にあります!そこで我々『グレートキャンプ団』は、牛乳の消費拡大キャンペーンとして、この50リットルの牛乳を飲み干すチャレンジを行います!」

周りから拍手が起こる。

「参加してくれる勇者はいませんか!?」

最初は遠慮がちだった周りのキャンパーたちも、石川のノリの良さに感化されて、次々と手を挙げ始めた。

「オレたち協力するよ!」バーベキューをしていた大学生グループが5人ほど集まってきた。

「うちの子も参加させてください!」家族連れも「子供の食育になる」と参加を表明。

「私たちも!」若いカップルが手を挙げる。

「これ、本当に大丈夫かな…」

富山が不安そうにつぶやく。

「大丈夫だよ!人が増えれば一人あたりの量も減るし!」

千葉が明るく答える。

結局、キャンプ場にいた約20組のキャンパーたちが参加することになった。石川はルールを説明し始めた。

「では、ルールを説明します!このタワーから出ているホースを使って、合図と共に一気に牛乳を飲んでいただきます!途中で吐いたり、ギブアップしたりしても大丈夫です!楽しく牛乳を消費するのが目的ですからね!」

石川は笑顔で続ける。

「それでは、参加者の皆さんはこのホースを持って、位置について…」

ホースを手に取った参加者たちが輪になって並ぶ。子供から年配の方まで、様々な年齢層のキャンパーたちが集まっていた。石川、千葉、富山もそれぞれホースを手にする。

「よーい…スタート!」

石川の合図と共に、牛乳タワーの栓が開かれた。白い液体が一斉にホースを通って流れ出す。参加者たちは口にホースをくわえ、牛乳を飲み始めた。

最初の1分は和気あいあいとした雰囲気。しかし、徐々に変化が現れ始めた。

「うっ…」

大学生グループの一人が、顔を歪めた。そして突然、ホースから口を離し、木の陰に駆け込んだ。

「オエェェ…」

吐く音が聞こえてきた。

「あらら、一人目の脱落者か!」石川は元気に実況する。自分自身は順調に飲み続けている。

その後も次々と脱落者が出始めた。

「パパ、おなかいっぱい…」

子供が泣きそうな顔で、父親に訴える。

「よーし、もうやめような」

父親は子供のホースを優しく抜き取り、頭をなでてあげた。

一方、石川はホースを咥えながらも熱く語り続ける。

「みんな頑張れ~!酪農家のためだ~!」

しかし、その言葉が引き金になったのか、ついに大惨事が始まった。

大学生の別のメンバーが突然、「うっぷ!」と口を押さえた直後、指の間から白い液体が噴き出した。周囲にいた参加者たちも次々と反応する。

「うぇっ…見ちゃったら、私も…」

若いカップルの女性も吐き気を催し始めた。

「がんばれ~」と応援していた彼氏も、彼女の様子を見て顔面蒼白。

「おい、大丈夫か?」と声をかけた瞬間、彼も参戦。二人そろって芝生に向かって吐き出した。

「ああっ、連鎖反応だ!」

千葉が目を丸くする。

富山はというと、すでに限界を迎えていた。

「もう…無理…」

彼女は口からホースを抜き、深呼吸を始めた。しかし、周りの惨状を目の当たりにして、「うっ…」と顔を歪め、石川の背中の影に隠れるように吐いてしまった。

「おっと!富山ダウン!」

石川は実況を続ける。彼自身はまだ元気に牛乳を飲み続けていた。

しかし、キャンプ場はすでに地獄絵図と化していた。

あちこちで吐いている人、牛乳を鼻から噴き出している人、笑いすぎて牛乳を口から吹き出す人…様々な「白い惨劇」が繰り広げられていた。

中でも最も悲惨だったのは、一度吐いたあと立ち直り、再チャレンジしようとした猛者たち。彼らは再び口にホースを入れるものの、牛乳の甘さと胃のむかつきの二重苦に襲われ、さらに激しく吐き出すという悪循環に陥っていた。

「これは…予想以上の展開だ…」

千葉が呟く。彼もすでに限界で、頬を膨らませ必死に耐えていた。

「でもみんな、笑ってるよ!」

石川が指摘する。確かに、吐きながらも多くの参加者が笑っていた。不思議と皆、この混沌を楽しんでいるようだった。

キャンプ場の管理人が駆けつけてきた。

「いったい何が…うわっ!」

白い惨状を目の当たりにして、言葉を失う管理人。

「すみません!酪農家支援のイベントなんです!」

石川が笑顔で説明する。その顔には牛乳のヒゲがついていた。

管理人はしばらく呆然と立ち尽くしていたが、やがてため息をついた。

「分かった。でも、終わったら絶対にきれいに掃除してくれよ」

「もちろんです!」

石川は元気よく返事した。


太陽が傾き始める頃、キャンプ場の一角は白い液体で溢れ、まるで雪が降ったかのような光景となっていた。

「えーと、残りは…」

石川がタワーを確認する。

「まだ15リットルくらいある…」

千葉が弱々しく報告した。

「グッドニュースだ!まだ三分の一以上残ってる!」

石川は前向きに捉える。

参加者たちのほとんどはすでに撤退していたが、数人の猛者が残っていた。彼らはもはや牛乳を飲むというより、酪農家支援という名目の「根性試し」となっていた。

「もう…無理…」

ついに千葉も降参。彼は地面に横たわり、お腹を抱えていた。

「残るは石川だけか…」

富山が弱々しく言う。

しかし、そこで意外な展開が起こった。

「私たち、手伝いますよ!」

キャンプ場の反対側から、見覚えのない中年夫婦が現れた。

「実は私たち、北海道から来た酪農家なんです。たまたま休暇でここに来てたら、こんな素晴らしいイベントを見つけて…感動しました!」

夫婦は涙目になりながら、石川たちに感謝の言葉を述べた。

「えっ、マジっすか!?」

石川は驚きと喜びで目を輝かせた。

「ええ。私たちは毎日牛乳を扱ってるから、こんなの平気ですよ!」

夫婦は手馴れた様子で残りの牛乳を自分たちの大きなマグカップに注ぎ始めた。驚くべきことに、彼らは淡々と牛乳を飲み干していく。

「さすが酪農家…」

石川が尊敬の眼差しで見つめる。

「いやー、実は私たち、若い頃から牛乳早飲み大会で優勝経験があるんです」

夫が少し照れながら説明した。

「そんな大会あるんだ…」

富山が弱々しく驚く。

最終的に、酪農家夫婦の協力もあり、50リットルの牛乳は完全に消費された。タワーが空になった瞬間、かすかな拍手が起こった。

「やった…やり遂げたよ…」

石川が疲れた表情ながらも満足げに呟いた。

しかし祝福の時間も束の間、石川の顔色が突然変わる。

「あれ…なんか…」

「どうした?」

千葉が心配そうに石川を見る。

「俺…実は…乳糖不耐症かもしれない…」

「えぇぇっ!?今さら!?」

富山が叫ぶ。

「知らなかったんだ…普段あんまり牛乳飲まないから…」

石川のお腹から不穏な音が鳴り始めた。

「うっ…」

そして彼は駆け出した。キャンプ場のトイレに向かって、まるでオリンピック短距離選手のような勢いで走っていく石川。

「ああ…最後の犠牲者か」

千葉が笑いながら呟いた。

富山は頭を抱えながらも、笑いを堪えられなかった。

「まったく…次は何を考えるのかしら…」


翌朝、石川たちはキャンプ場の掃除に精を出していた。前日の白い惨劇の跡を消すべく、水をまき、雑巾がけをし、ゴミを拾い集める。

「いやー、でも楽しかったね!」

千葉が笑顔で言う。

「そうだね!みんな最初は引いてたけど、結局盛り上がったし!」

石川も元気を取り戻していた。

富山はまだ少し青い顔だったが、笑顔を見せる。

「確かに…笑い話にはなるわね」

「それに酪農家さんたちにも喜んでもらえたし、最高のキャンプだったよ!」

石川が両手を上げて喜ぶ。

「で、次は何をするの?」

富山が半分呆れ、半分期待した表情で尋ねる。

石川はにやりと笑った。

「実はさ、帰りにある養鶏場に寄るんだ。卵50パック安くで分けてもらえるらしいんだよね。今度は『巨大オムレツ作り』とかどう?」

「えぇぇっ!?」

富山が絶叫する。

「いいじゃん!卵50パックでどれだけのオムレツができるんだろう?」

千葉が目を輝かせる。

そして三人は、次なる『グレートなキャンプ』への妄想を膨らませながら、片付けを続けるのだった。

(おわり)

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『俺達のグレートなキャンプ28 酪農家を救え!牛乳50ℓ一気飲み』 海山純平 @umiyama117

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