割り箸と僕
きょんきょん
割り箸と僕
自分の席から動かない僕を、クラスメイトが「考える人」と陰で馬鹿にしていることは知っている。窓際の列の後ろから二番目の席から、一歩も動かずに机に肘をついて外を眺める姿が、かの有名な銅像に似てるのだとか。まあ知らんけど。
四時間目の授業が終わり、昼休みを迎えた教室はクラスメイトが思い思いのグループに分かれて活気に満ちている。だけど僕の周囲半径一メートルは、相変わらず静寂そのもの。世界線が違う。誰も僕を観ようとしないし、僕も外ばかり見て誰とも関わろうとしない。
高校に入学して瞬く間に過ぎ去った一年目は、友達どころかクラスメイトと会話した記憶がない。二年目こそはと奮起したが、一年目に形成された
既に半年が経とうとしてるが、依然状況は変わらないままである。きっとこのまま、卒業まで考える人でいるんだろうな――。半ば諦めムードで空を眺めていると、後ろで机を並べている女子の会話が聞こえた。
「うわ、また家にお箸忘れてきちゃった」
「マジ? この前も忘れてなかった?」
「おっちょこちょいにもほどがあるでしょ」
僕は誰にも見えないよう机の下でガッツポーズをとった。すかさず机の引き出しから未使用の割り箸を取り出すと、無言で後ろに振りかざした。彼女のご尊顔を拝みたいが、そんな不躾な真似をしたら神々しさのあまり、両眼が潰れてしまいかねない。
「あ、ありがとう。確か先週も割りばしくれたよね」
僕は今、割り箸越しに彼女と触れ合っている。 そう考えると興奮して鼻血が出そうになる。
「う、うん。忘れたら何時でも言って。余分に持ってるから」
彼女、山本紗也はしばしばお弁当の箸を忘れる癖がある。それを把握してるからこそ、僕は何時でも力になれるように引き出しの中に徳用の割りばしを常備していた。
一年、二年と同じクラスで、会話という会話をしたことはほとんどない。なのに一方的に好意を抱いている僕は、客観的に見て気持ち悪いことは重々理解している。そんな僕に出来ることといえば、割り箸をだしに話しかけることくらいだ。
たとえ一瞬であっても、僕という存在を認識してくれるのならそれでよかった。それ以上求めるのは分不相応。だからこそ、この距離感を大事にしようと固く誓っていた。
それなの僕ときたら、あまりに彼女が箸を忘れるものだから、つい調子に乗り始めてこう考えるようになった。頻繁に割り箸を忘れるのは、実は僕との接点が欲しいからでは?〟
結論から言うと、彼女はあの日以来、割り箸を忘れることはなくなった。会話の機会も永遠に失われ、あっという間に卒業を迎えた。僕の行為が、僕の好意が気持ち悪かったらしい。
引き出しの中で埃にまみれた割り箸は、二度と日の目を見ることもなく役目を終えた。悲しいけど、割れて違えた僕らの関係が戻ることは、もう二度とない。割り箸なだけに。
割り箸と僕 きょんきょん @kyosuke11920212
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