雨と歌と香りが紡ぐ、若夫婦の清らかな愛情譚

若い夫婦の“日々の手触り”がやさしく描かれた最良質の作品です。夕立の帰り道、彼が傘を差し出し「僕の後ろへ」と庇う場面に胸が温かくなります 。その前に彼女が吊るしたてるてる坊主も、ふたりの時間をほんのり彩る小さな祈りでした 。

宴の席で「夕焼け小焼け」をめぐるやりとりがあり、家ではその続きを「いっしょに歌いましょう」と重ね合う。外の賑わいと内の温もりが響き合う場面が素敵でした 。

さらに、彼が贈りものに“くちなし”を彫ろうと花を探すくだりは、愛をかたちにするまなざしそのもの 。花びらを写すことは、彼女との時間を写すことだと感じさせます。

派手な出来事はなくても、雨や歌や香りを通して互いを思いやる姿が積み重なり、読後にほのかな余韻が残る。今だからこそ大切にしたい、誠実で清らかな純情物語です。

今どき、小説でもなければお目にかかることの出来ない良いお話です。僕も久しぶりに一気読みいたしました。それだけ、読むものを惹き付ける魅力あふれるお話だと思いました。

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