第7話 恋の証明問題


 期末テストが終わった日の放課後。

 教室の窓から射す光が、いつもよりちょっとやさしく感じた。


「はい、打ち上げっ!」


 採子が唐突に言い出す。


「打ち上げって、何の?」


 私が聞くと、採子は満面の笑みで手を広げた。


「恋の証明の、だよ。」


 その瞬間、私の心拍数が上昇モードに突入したのは言うまでもない。


 ***


 その日、私と計典君は映画館にいた。


 でも、映画の内容はあんまり頭に入ってこなかった。


 ポップコーンのキャラメルの香りと、隣にいる彼の存在感が、

 ただただ強かったから。


「アクション映画って言ったけど、これ、思ったより恋愛要素あるね。」


 私がこっそり言うと、計典君は少しだけ目をそらした。


「……君が好きそうだと思って、これにした。」


 その一言で、たぶん私の内心の角度、150度くらいになった。

 顔が真っ赤になったの、上映中で本当によかった。



 映画館を出ると、まだ夕方の光が残っていて、

 街は柔らかい照明に包まれていた。


 私たちは公園に立ち寄った。

 並んで座ったベンチの影が、まるで合同な図形みたいに重なっているのが見えた。


「今日の私たち、合同だったかな。」


 ふと、そう言ってみた。


 計典君は、考えるように空を見てから、ゆっくり言った。


「……少なくとも、ずれてはなかったと思う。」


 その返しが、どうしようもなく計典君らしくて、私は笑った。


「また、証明してね。」


 私は小さな声でそう続けた。


 彼はこっちを見て、ほんの少しだけ笑って──

 何も言わずに、そっと私の手に触れた。


 指先と指先が、ぴたりと重なった。


 それはきっと、今日の合同条件の最後のひとつ。

“対応する辺が一致している”という、小さな接点。


 どこまでも円の上にいたはずの私たちが、

 今、ゆっくりと目の前に降りてきた気がした。


 角度も、長さも、心の向きも、

 全部が一致するわけじゃないけど、だからこそ──


 この恋は、

 確かに今、成立していた。


(△私と計典君 ≡ △これからの二人)


 証明、完了。

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円周角の恋模様 ~ この恋は証明できる? ~ 竹笛パンダ @Masaki14

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