民事裁判
州壬 出
架空小説書き出し
出先で必ずATMに立ち寄るようにしている。
ゆっくり時間をかけて残高照会している間に、
落ちていたり、乱雑に放置された利用明細票を集め、吟味し、一枚だけを拝借する。
返しには来ないが。残りは適当に散らして置く。
何か邪険な企みがあるわけではない。
利用明細票の散らかり具合で、
その地域の民度を測り知ることができる。
地域民性と、この一枚を照らし合わせ、
この口座の持ち主はどんな人で、どんな職に就いていて、何を目的にお金を引き出したのか。
あるいは預け入れたのか、振り込んだのかを想像する。
誰にも知られることのない、あくまで無益な日常から捻出した小さな楽しみの一つ。の、筈だった。
某コンビニチェーンにて今開催中のATMクーポンキャンペーンで発行されたであろうクーポン付きの利用明細票が束でクリップ留めされ、すでに何枚かが雑にクーポンの部分だけ引きちぎられている。
目新しい束に静かに胸が高鳴った私は素直に手を伸ばし、上から順にパラパラ漫画をサラッと流し見る様に目を通していた。日常に組み込まれた無意識レベルの流れはすぐに堰き止められる。
全てのレシートの真ん中にシールが一枚貼られていた。三周ほど流し見ている時に違和感で思考にモヤがかかり始め、じわじわと雲行きが怪しく変色した。違和感の対象は、束の真ん中から前後の二十枚程の明細票に記載されている残高の数字とシールの模様の組み合わせだった。
【99,0117円】私の生年月日と、赤ちゃんのシール。
【10,0117円】この年に私は地元のクラブでサッカーを習い始めた。それを示すかのようなサッカーボールのシール。
最も薄気味悪かったのは【16,0117円】と記載された数字の上に、膝小僧で二つに千切られている右足のシール。
十七歳を迎えた春。私は、前十字靭帯断裂と半月板損傷という大怪我を負っていた。
民事裁判 州壬 出 @Deru_Shuujin
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