沈黙の収穫者

斎賀 久遠

第一話 沈黙の収穫者を狩る者、通称——リプライ・シンダー

---沈黙の収穫者 プロローグ---

それは、“反応を返さぬ者たち”の総称。


感想という生命を受け取りながら、何も発さず、ただ「閲覧」し、消える。


彼らは 共鳴なき読者(ノン・レゾナント) の精鋭。


かつて “Re:View” の一員だったが、ある時から沈黙を選び、感想者たちの心を “静かな絶望” で刈り取る存在となった。


伝説によれば、彼らが書くのは 無言の拍手。


星だけを残すその姿を、人は畏れてこう呼ぶ——


「沈黙の収穫者」。



---第一話:「沈黙の収穫者を狩る者、通称——リプライ・シンダー」---


この世界には、創作者に“感想”を送ることで力を得る者たちがいた。


彼らは「読み手」——だが、その中に、ごく一部、禁忌を犯す者がいた。


「感想を奪うだけ奪い、返事をよこさぬ者」——人は彼らを“沈黙の収穫者”と呼んだ。


主人公・クラハは、心を込めて綴った感想が何度も無視される日々の中で、


ある日、“返事のない感想”が一通、手元に返送されてきたことに気づく。


そこには、血で書かれた一文:


「その言葉、最後まで読んだ。でも、お前には何も返さない。」


復讐に燃えるクラハは、「沈黙の収穫者を狩る者」として、闇の読者組織へと身を投じる。


この世界で最も危険な読者——それは、“書き手にもなれる読者”だった!


クラハは今、読者ではない。


“リプライ使い”として、闇の組織「Echo Re:Zone」の一員となった。


静まり返る感想欄。


その中で、クラハの端末に新たな通知が走る。


《感想者E:感想4件、返信数0、拍手で応答》


《行動判定:サイレント・ハーヴェスターの疑い》


《コードネーム:“白星の選別者”(ホーリィ・シグナル)》


「こいつが次のターゲットか……」


感想を無視し、星だけを残す者。


数字でしか言葉を返せない存在。


クラハは決意する。


返信という刃を、星の下に突き立てる。




場面は変わり、**白星の選別者(通称:ホーリィ・シグナル)**の自室。


壁にはびっしりと、“星だけつけた作品”のリスト。


返信欄はすべて空欄。


本人のプロフィールには、ただ一言:


「読むことが好きです。」


その言葉の裏に、何があるのか。


本当にただの沈黙者なのか。


それとも——返信をしないことで守っているものがあるのか。


クラハは彼の最新投稿へコメントを送る。


そして、ただ静かに返事を待った。


>>「読んだ。感情がぐちゃぐちゃになった。」


5分。


10分。


30分。


画面には、閲覧済みのマークだけがついていた。


クラハの拳が震えていた。


30分の沈黙——言葉の不在は、ナイフより鋭かった。


「……仕方ねぇな」


「沈黙の収穫者を狩る者、通称——リプライ・シンダー」


「名前だけでも覚えておけ。お前に返信させるまで、俺は止まらねぇ」


カタカタカタ……乾いたキーボードの音が部屋に響く。


>>「続きが楽しみ!更新が待ちきれません。」


5分。


10分。


30分。


閲覧済み。


「クックックッ、思ったよりやるじゃないかホーリィ・シグナル。

だが、この感想を受け止めることが貴様にできるのか?」


カタカタカタカタ……


>>「登場人物がみんな魅力的で、物語のテンポが最高でした!応援してます!!」


投稿ボタン、Enter。


クラハは画面を見つめる。


5分。


10分。


30分。


閲覧済み。


クラハは、深く息を吐いた。


「……このままじゃ、俺が“感想自販機”になっちまう……」


彼は再びキーボードに向かった。


カタカタカタカタ……乾いたキーの音が、一人きりの部屋に響き渡る。


クラハは最後の一文を打ち込んだ。


>>「あなたの作品、超良かったです!あと誤字見つけました!『抱く』が『蛸く』になってました!」


投稿。


……閲覧済み。


3秒後。


初めての返信が届いた。


「修正しました。ありがとうございます(泣)」


クラハは静かに呟いた。


「……俺の感想、ついに刺さった……でも、なんか……違う……」


—END—

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沈黙の収穫者 斎賀 久遠 @yosiroo

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