第19話



「じゃあな! サメが出たら、いつでも呼んでくれよな!」

「失礼します」


鮫島サメバスターズは嵐のようにやって来て、また嵐のように去っていった。

大音量で例のテーマソングをガンガン流すブルーガーデン号を、茂雄とユキは、ただただ見送るのみだった。呆然。


後に残されたのは、半壊した家、めちゃくちゃになった庭、よく分からないサメの骨と黒い液体。そして、松ヤニと塩と血と漬物が混ざり合った、筆舌に尽くしがたいカオスな匂い。


「あははは! なんかもー、どうでもよくなってきた!」

「ばかもん、笑いごとじゃないわ! ……ふふっ」


二人は顔を見合わせ、あまりの惨状と、やりきった達成感と、こみ上げてくる脱力感とバカバカしさで、同時にワハハと大笑いしてしまった。

もはや笑うしかねー。


「ねー、じーちゃん」

「なんじゃ」

「あのさ。よかったら、ウチで一緒に住む?」


茂雄は一瞬キョトンとしたが、すぐにいつもの渋面に戻り、腕を組む。


「ふん、まっぴらごめんじゃ」

「えー、なんでよー?」

「あんな狭いマンションのどこで、ワシの盆栽を育てろと言うんじゃ」

「でもさ、じーちゃんの盆栽、全部サメにやられちゃったじゃん」

「ばかもんが!」

心配そうなユキに、ピシャリ。


「なくなったら、また始めりゃあええんじゃ」


茂雄は腕まくりして、青空を見上げた。

その横顔に寂しさの色はない。どこか吹っ切れたような、晴れ晴れとした表情。

ユキはそれを見て、「そっか」と小さく呟いた。


「それにな」と茂雄は続ける。

「『龍神の松』がコンテストで優勝してから燃え尽き症候群になっててな、どうにもやる気が起きんかったんじゃ。じゃが、また一からやり直しとなると、俄然、燃えてきたわい! 次はあれ以上の、最高の盆栽を作りあげてやる! 見とれよ!」

「あ、じーちゃんが元気なかったのって、そのせい? マジか。心配して損したわー」


ユキはぷん、と頬を膨らませてから、ポケットからスマホを取り出した(松ヤニは頑張って拭き取った)。


「ま、いいや。記念写真撮ろ! インスタにあげるから、バえる顔してよね」


こうして、ド田舎の一軒家を襲った未曾有の(そしてアホらしい)サメ騒動は、一応のフィナーレを迎えたのであった。

よかったね。



後日のこと。


コツコツ庭の残骸を片付けていた茂雄は、グレート・松シャークが倒れた場所の近くに、小さな、しかし力強い緑色の芽が出ているのを見つけた。

それは他の雑草とは明らかに違うオーラを纏っていた。そう、あの「龍神の松」と同じ、どこかヤバそうな気配。


茂雄はしばらくその芽をジーッと見つめていたが、やがて、ふっと口元に笑みを浮かべた。小さなジョウロを手に取り、そっと水をかけてやる。

彼の盆栽クリエイターとしての魂に、新たな、そしてちょっぴり(いや、かなり?)厄介な情熱の火が、再び灯った瞬間だった。


この小さな緑の芽が、また別のとんでもない騒動を引き起こすことになるんだけども……それはまた、別のお話。


シーユー!

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恐るべし盆栽シャークの脅威と、いけいけ僕らの鮫島サメバスターズ! 森林公園 @sakurai-k

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