第18話
※
「準備OK。こちらはいつでもイケます」
「おう! 俺も……そろそろ……限界……だぜ。これで……決めてやろうじゃねえか!」
孤軍奮闘してきた鮫島も、さすがに疲労困憊。牙を跳ね返し続けた自慢のマッスルにも、無数の傷がつき、血が滲んでいる。もちろん服はボロボロ。
その鮫島が最後の力を振り絞り、猛烈にダッシュを始めた。
好敵手の急な逃走に、グレート・松シャークは背後から猛スピードで追撃。鮫島は必死に駆けるがグレート・松シャークは速い。ヒレを畳んではるか上空から急降下。
勝利を確信し、大きな口をガバり。
背中から一飲みにしてやろうと、鋭い牙をギラり。
もはや万事休すか!
「今です。ファイア!」
葵の号令と同時に、何かが飛んだ。
空を見ろ。鳥だ! 飛行機だ! いや――
ぺちゃり。
サメの巨体にヒットしたのは、白くて丸いカブの漬物。続くは緑のキュウリ、黄色いタクワン、紫のナス。ついでにオシャレなアボカド。
横手からカラフルな漬物がシャークに降り注いできた。さらに追い打ちをかけるのは、糠! 追い塩!
松田家に保管されていた漬物関連アイテムを、茂雄とユキは「ままよ!」と必死に投げまくる。
「ええい、やけくそじゃ!」
「あーー、手がヤバい! 臭い! ネイルが!」
本当に効くのか…?
半信半疑のまま。だがほかに手だてもなく、ひたすら手を動かし続けていると――!
グオオオオオオオ!!
グレート・松シャークが身をよじり、苦しげな絶叫を上げた。
体をよじらせ、激しくのたうち回る。
明らかに嫌がっている。効いている。漬物がそんなに嫌なのか? 現代っ子なのか?
クネりながらぐるぐると回転し、やがて体勢を傾かせ。
そのままズシイイイインと大地に墜落した。
刹那!
一つの影がバネのように跳躍!
「死ねやああああ! サメ公おおおおお!!!」
そこは鼻先。
多くの神経が集中する、ロレンチーニ器官がある場所。
そしてサメ最大のウィークポイント!
狙い通りの場所に、唸りを上げるチェーンソーの刃が深々と突き刺さった。
ギュイイイイイン!!
チェーンソーが一閃!
スターターロープを引いて、もいっちょ一閃!
鮫島が腕を振り抜くと同時に、グレート・松シャークの頭部から真っ赤な血しぶきが、噴水のように天高く舞い上がった。
GYOOOOOOOO!!!
断末魔が空に木霊する。
その声には、どこか悲哀の響きがあった。
メテオシャークは生き残るために版図を広げ、グレート・松シャークとして地球に現れた。そして人類も生き残るために立ち向かった。
この世はなべて喰うか喰われるか。
生存をかけた無常な戦いに鮫島たちが勝利した。ただそれだけ、それだけのことさ。
流血は顔面を濡らし、涙のように目から滴り落ちる。そこに滲むのは悔しさなのか悲しさなのか。なんせサメなので、表情からはちょっとよく分からんけども。
やがて動きが緩慢になり、悲鳴も弱まっていく。
「あばよ、サメ公。地球に来るなら観光にしときな。そんときゃあ案内してやるぜ」
赤い巨眼をカッ!と見開き、鮫島を見据えた後で。
グレート・松シャークは、ゆっくりと動きを止めた。これにてジ・エンド。
と思いきや、急に全身からブスブスと松ヤニと煙と悪臭を吹き出し始め、しゅうしゅうと体が溶けていく。巨体は秒速でコールタールのような水たまりと化し、後に残るのは、枯れた松の古木のような、不気味な骨格だけだった。
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