第18話



「準備OK。こちらはいつでもイケます」

「おう! 俺も……そろそろ……限界……だぜ。これで……決めてやろうじゃねえか!」


孤軍奮闘してきた鮫島も、さすがに疲労困憊。牙を跳ね返し続けた自慢のマッスルにも、無数の傷がつき、血が滲んでいる。もちろん服はボロボロ。

その鮫島が最後の力を振り絞り、猛烈にダッシュを始めた。


好敵手の急な逃走に、グレート・松シャークは背後から猛スピードで追撃。鮫島は必死に駆けるがグレート・松シャークは速い。ヒレを畳んではるか上空から急降下。


勝利を確信し、大きな口をガバり。

背中から一飲みにしてやろうと、鋭い牙をギラり。

もはや万事休すか!


「今です。ファイア!」


葵の号令と同時に、何かが飛んだ。

空を見ろ。鳥だ! 飛行機だ! いや――


ぺちゃり。


サメの巨体にヒットしたのは、白くて丸いカブの漬物。続くは緑のキュウリ、黄色いタクワン、紫のナス。ついでにオシャレなアボカド。

横手からカラフルな漬物がシャークに降り注いできた。さらに追い打ちをかけるのは、糠! 追い塩!

松田家に保管されていた漬物関連アイテムを、茂雄とユキは「ままよ!」と必死に投げまくる。


「ええい、やけくそじゃ!」

「あーー、手がヤバい! 臭い! ネイルが!」


本当に効くのか…?

半信半疑のまま。だがほかに手だてもなく、ひたすら手を動かし続けていると――!


グオオオオオオオ!!


グレート・松シャークが身をよじり、苦しげな絶叫を上げた。

体をよじらせ、激しくのたうち回る。

明らかに嫌がっている。効いている。漬物がそんなに嫌なのか? 現代っ子なのか?


クネりながらぐるぐると回転し、やがて体勢を傾かせ。

そのままズシイイイインと大地に墜落した。


刹那!

一つの影がバネのように跳躍!


「死ねやああああ! サメ公おおおおお!!!」


そこは鼻先。

多くの神経が集中する、ロレンチーニ器官がある場所。

そしてサメ最大のウィークポイント!


狙い通りの場所に、唸りを上げるチェーンソーの刃が深々と突き刺さった。


ギュイイイイイン!!


チェーンソーが一閃!

スターターロープを引いて、もいっちょ一閃!


鮫島が腕を振り抜くと同時に、グレート・松シャークの頭部から真っ赤な血しぶきが、噴水のように天高く舞い上がった。


GYOOOOOOOO!!!


断末魔が空に木霊する。

その声には、どこか悲哀の響きがあった。


メテオシャークは生き残るために版図を広げ、グレート・松シャークとして地球に現れた。そして人類も生き残るために立ち向かった。

この世はなべて喰うか喰われるか。

生存をかけた無常な戦いに鮫島たちが勝利した。ただそれだけ、それだけのことさ。


流血は顔面を濡らし、涙のように目から滴り落ちる。そこに滲むのは悔しさなのか悲しさなのか。なんせサメなので、表情からはちょっとよく分からんけども。

やがて動きが緩慢になり、悲鳴も弱まっていく。


「あばよ、サメ公。地球に来るなら観光にしときな。そんときゃあ案内してやるぜ」


赤い巨眼をカッ!と見開き、鮫島を見据えた後で。

グレート・松シャークは、ゆっくりと動きを止めた。これにてジ・エンド。


と思いきや、急に全身からブスブスと松ヤニと煙と悪臭を吹き出し始め、しゅうしゅうと体が溶けていく。巨体は秒速でコールタールのような水たまりと化し、後に残るのは、枯れた松の古木のような、不気味な骨格だけだった。

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