8話 仁義なき戦い

「…リーチ」


「うえ、3巡目リーチはあかんってしゃもちゃん」


俺たちは今、スタパ代全おごりをかけた麻雀仁義なき戦いをしている。麻雀は5人ではできないということで、火花ひばながじゃんけんで先に勝ち抜け。残り4人で一半荘を戦っている。


半分賭け麻雀だからアウトだろと思ったそこの君、それ以上はいけない。


…にしても、なんでここは5人いて5人全員がちゃんと麻雀を打てるんだ。俺が麻雀を覚えたのは大学に上がる前のはず(友達ができるかも、とか淡い期待をしていたころが俺にもあった)。もしかして、麻雀って陽キャのたしなみだったりするの?


とりあえず、ここで今の状況をお伝えしておこう。


南四局 親大輔だいすけ 原点25000点 全員30000点以下の場合西入 赤、一発、裏あり 喰いタン、後付けありあり ラスが自動的に全おごり

杓井しゃくいさん 38200点

かえで   28000点

俺    20000点

大輔   13800点


ざっとこんな感じだ。杓井さんが魂の倍満(口調はいつも通りだったが)を南一局で炸裂させ、それを放銃した大輔がラスに沈んでいる。俺はこの局を流すだけでタダスタパが確定するというわけ。 


大輔としては和了あがらないと終わり。そんな状況で容赦のない3巡目リーチが杓井さんから入り、絶望の声を大輔が上げたところをお送りしている。ちなみに仁義なき戦いはスマホゲームで繰り広げられているが、杓井さんのリー棒は課金アイテムのしゃもじだった。どこまでしゃもじが好きなんですか。


「こうなったら俺はもう押す以外に道はないねん、突撃ぃ!」


「…ロン」


「……」


静かに大輔が死んでいった。南無。素点は関係ないのに、最後の杓井さんのリーチはさりげなく跳満からの激高リーチだった。それに一発で放銃したため、また倍満放銃。箱下まで沈んでのラスを食らう羽目になったわけだ。流石にここまでぼこぼこにされると、ただのおごりで済むのか怪しくなってくるが…。


「岡村くんさ、ここまで沈んだらさすがに今のおごりだけじゃ済まんくない?」


同じことを思ったのか、楓が大輔に吹っ掛ける。


「お、おごり以外に何をしろと…?」


「いやいや、おごりじゃなくていいんよ。ただ追加でおごってほしいってだけ」


「つ、追加…」


「そう、しゃもと私に。ぽげは言うて原点以下やしええやろ」


なんか仲間外れにされた。ついでに杓井さんのこと、しゃも呼びにしてる。いつの間に。


「さてさて、さっさと追加のおごり購入していただこうかな。ほら岡村くん、しゃも、下行くで」


「…やった」


「……」


無言のままに大輔が引きずられていく。その顔は俺に助けを求めているようにしか見えないが、箱下に沈んだのが悪い。むしろ俺もおごってほしいくらいだ。


「なんか納得いかんな」


唯一残された火花がぼそっと漏らす。


「ほんまに、どうせなら全員におごれよな」


「いや、ぽげ君がおごられへんのは妥当なんやけど、私はちゃんとじゃんけん勝ってんで? おごられて然るべきやろ」


「ここでも俺は不遇なんかい」


「…こ…m…か」


「ん、今なんか言った?」


「いや、なんでも?」


「そう? なんか言った気がしたんやけどな…」


「耳の衰えちゃう、おじいちゃん?」


「わし15歳やぞ、おい」


とはいうものの、実年齢は40歳なわけで、少しドキッとしてしまうところはある。せっかく高校生ライフを楽しもうとしてるのに、現実見せてくるのやめてくれませんかね。


何を察したか、火花が俺に向き直って、言う。


「何はともあれ、今までぽげ君がどんな人生送ってきたかは知らんけど、高校入って自分の環境も周りの環境も全部変わったんやし、三年間楽しもな! せっかく私が高校生活初めてしゃべって、ついでにぽげった仲なんやし、私とも仲良くしてよ。途中でどっか行ったら許さんからな」


何か諭すような、訴えかけるような口調で話す火花。今までのマシンガンは見る影もなく、一語一語をしっかりと選び、紡ぎだしているようにも感じられる。


「せっかくええこと言ってくれてるのに、『ぽげる』のせいで台無しやな」


俺はこういうシリアスな雰囲気が苦手だ。つい、こういう茶化すようなことを言ってしまう。今回ばかりはこんな謎の動詞を作り出す火花が悪い気もするが。


「珍しく私がいいこと言ってるんやから、おとなしく聞いとけばいいのに。まあとにかく、仲よくしようってこと!」


「それは俺からも頼むわ、ぽげらされた仲やからな」


「こら、それパクんな。あ、三人帰ってきた。おーい、何買ったんー?」


会話をブチ切り、ほくほく顔の二人と死んだ魚の目をした一匹に走り寄っていく火花。まあ、俺のことを気遣ってくれていることは間違いないし、大事にしたい友人だ。そもそも俺にこんなにやさしくしてくれる人は今まで初めてだしな。


「鬼のようにカスタムしてヴェンティ頼んだったわ。この岡村くんの顔見たらわかるやろ?」


「…私も、初めてヴェンティ頼んだ。これ、おっきくない?」


「……」


「二人とも容赦ないな~。この高校、バイト禁止やで?」


描画がモノクロになった一匹を取り残してきゃっきゃする女子三人。正直この方が絵になるから、大輔には申し訳ないがずっとこれでいい。


「そういえば、火花とぽげだけ上に残してごめんな? ちゃんと場もった?」


楓は椅子に一人座っていた俺に照準を定めると、しっかりといじってきた。


「俺のことなんやと思ってんねん。ギリギリ持ったわ」


「ギリギリなんかい。何話してたん?」


「それはもう色々よ」


返答に困るな、と思ったところで火花が助け舟を出してくれた。この子、助け舟を出すのが上手すぎないかな。


「そっか~色々か~」


にやにやと楓が上半身をかがめて火花の顔を覗き込もうとすると、火花もそれにならうように上半身をかがめ、顔だけ俺に向ける。


それに俺が気づくと、火花は一瞬だけウインクした。


俺がキョドっていると、満足したのか火花は体を起こし、話を続ける。


「さて、みんな帰ってきたし、これからの愚痴を予測して言い合う会でもやろっか」


訳の分からない会を提案しながら、席に戻ってくる三人と一匹。


かがり火花とかいう子は、あだ名だけでなく人柄でも俺を殺す気なのだろうか。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人生にコンティニューがあったら 湯田あくび @sakurada_harubaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る