わが師に捧げる誓い
おにまる
第1話 とある男のつぶやき
私には師匠と尊敬する人物が一人だけいた。
若いころは、私は短気で人の話を全然聞かなく自分に絶対の自信を持っていた。
その師匠もたんなるクソジジイと心の中では呼んでいた。そしていつもそのジジイに食って掛かっていた。
「あんな奴に情状酌量の余地はないでしょうが、真っ黒じゃ無いですか!?話を聞くだけ無駄ですよ!!」
そう食って掛かる私にいつもニコニコとした笑顔でなだめるように諭してくれていたが内心は全く聞いて無かった。
ある日いつもの様に食って掛かっていると
「ろっくん少しドライブに行こうか?」
そういって師匠は私を半ば強引に車にのせどこかに連れて行くのだった。
着いたのは穏やかで波一つ無いどこまでも広がる水平線の見える海が見下ろせる丘の上だった。
「私はねぇこの水平線を眺めるのが好きなんだよ、日本じゃ地平線はみれないからねぇ。この水平線のように穏やかにどちらにも傾くことなく視なければいけないと思うんだよね。」
当時少しイキってた私はふざけて顔を傾けながらその水平線を見て言った。
「そうですかね、私には傾いて見えますけど?」
そうすると私の顔をものすごい怖い顔で睨みながらプルプル震えだした師匠。ずいぶん長い事プルプルしとるな、このジジイ・・・すると。
「人が真剣に話している時は、真剣に聞かんか!こんバカチンがぁあああああ」
そう言って思いっきり私の頬を叩いた。後にも先にも怒られたのはこれっきりだった。
そしてそれが私の根幹になった。
どんな時であろうと、公平な眼で視る。
もうその師匠はこの世に居ないけども、幸い死の数日前に会うことが出来た。
かなり悪いという事を風のうわさで聞いた私は、すぐにその足が師の元へ向かっていた。その日の事は今も尚しっかりと覚えている。
まだ辛うじて意識のあった師は、私の顔を見るなりニコニコとした笑顔を見せてくれた。そして弱弱しい細い声で私に語り掛けてくれた。
「__ありがとう・・・。 __あの日見た光景は覚えているかい?」
そして私は号泣した。
__あぁ、覚えていてくれたんだ。
「おぼえて・・・います。 それが今までの私の支えであり根幹となっています・・・・」
「そう・・・・よかった・・・・そしてひっぱたいて・・・・ごめんね。」
大の男が生まれて初めて声を上げて泣いてしまった。
「ほんぎで、おごっでぐれで・・・あざ・・・・したぁあああああああああ。 _これからも決してあの光景は忘れません!!」
怒りで身が震えそうなとき。
あまりの惨状に眼を曇らせそうなとき。
私は眼を閉じてあの水平線を思い出しながら公平な眼を取り戻す。
そんな師に出会えたことは、私の人生で最大の宝である。
みなさんの心にそういった光景はありますか?
そういった師匠に恵まれることはそうそう無いかもしれませんが、そういった心を落ち着けるような景色を探して見てください。
そうして怒りに震えた時。
激しく動揺した時。
眼を閉じてその光景を思い描いて下さい。
怒りに身を任せて行動しても何もいい事はありません。
人の怒りは五つ数えたら収まるそうです。
収まらない時は十まで数えましょう。
それでも治まらないときは・・・仕方ない怒りましょう。そうして救われる私みたいな人も居ますから。
おわり
わが師に捧げる誓い おにまる @onimaru777
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