空を見た金魚

sui

空を見た金魚


ある夏の日、古い寺の池に、一匹の金魚が住んでいました。名前は「ひかり」。赤い尾びれが水面でゆらめくたび、まるで小さな灯火が揺れているようでした。


ひかりは毎日、水面から空を見上げていました。雲が流れ、鳥が飛び、夜には星がきらめく。そのたびに思いました。


「私も、あそこへ行ってみたいな。」


でも金魚は空を飛べません。池の中で生まれ、池の中で泳ぐ。それがすべてでした。


ある晩、流れ星がひとつ、池の上を横切りました。ひかりはそっと願いました。


「いつか、空の上を泳いでみたい。」


次の朝、池に来た小さな女の子が言いました。


「おばあちゃん、この金魚、お空を見てるよ。」


おばあちゃんは微笑んで、女の子の手をとりました。


「じゃあ、連れて帰って、夢を見させてあげようか。」


その夜、ひかりは初めて、ガラスの鉢から見た満天の星空の下で眠りました。


夢の中、ひかりは空を泳いでいました。星と星の間を、赤い尾をなびかせながら。

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空を見た金魚 sui @uni003

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