02

 朝は6時から始まる。


 起床しなければいけないのは7時までだが、俺は6時までには起きて、すぐ朝の支度をして、6時半からみんなより早めに自主練を始める。


 ハルやシノも7時あたりから朝の支度を終えて、俺の自主練にハマる。


 俺の自主練のメニューは、先生に目を通してもらって良しとされたので、ここに来る前に家でやっていた練習メニューを行なっている。


 前と少し変わったのは、体力をつけようと思って走るのをメインにしていることだろうか。


 ミニなら6分間、それ以上になると10分間走り続けなければならないバスケットボール。


 どう考えても、練習であれだけへばってるんじゃだめだ。


 それに、もっとこう……がむしゃらになりたいというか。


 言語化できない衝動が俺の中で渦巻いてて、走ってないと落ち着かないことが多々ある。


 なので、走ってる。


 ハルとシノには、イットいつも走ってんな、と言われたけど。


 シノに引き気味に言われた時はちょっとショックだったけど。


 それでも俺は走り続けた。


 俺は逆行した。


 俺は時を巻き戻ったんだ。


 だからこそ、完璧でなくちゃいけない。


 失敗は許されない。


 失敗なら、何度も前世で繰り返してきたのだから。


 その日も朝早く起きて自主練をしていると、静まり返って、俺の息を吐き出す音だけが響いていた体育館に、ほかの気配があらわれた。


 誰かがいる。


 気配の方向をなんとなく見やると、そこにはあの男――笹木部勇吾が立っていた。


「!……総監督?」


「君の名前は、たしか東堂一斗でしたか」


「は、はい。どうしてここに……?」


 混乱する俺をよそに、笹木部勇吾――総監督は無表情のまま俺の目をじっと見つめた。


「……あ、あの……?」


「君は私と同じ目をしている」


「へ?」


「やり方が良くないですね。まず君は、むやみやたらに走るのをやめなさい」


「え!」


 否定され、俺は思わず驚きの声を上げた。


 走るのじゃダメなのか? でも、体力は必要だし。


「走るのは構いません。ですが、それでは効率が悪いと言っているんです。来週からこの施設でも、プールが恒常的に使えるようになります」


「……つまり、水泳をしろってことですか?」


「1日の通常の練習メニューを終えた後に、プールでトレーニングをしてください。泳げますか?」


「えっと……」


「ビート板の用意と、水泳専門のコーチを付けましょう。水泳のコーチにトレーニング内容を伝えております。他の2人にも、そう伝えてください」


「わ、わかりました」


「走るのは悪いことではありません。ただ、君の場合、まだ体ができていない。筋肉よりも、関節にまず負荷がきてしまうんです」


 その言葉に、こくりとうなずく。


「特に、やりすぎると筋肉を逆に消耗してしまう。その結果、ジャンプ力やスプリント力が落ちてしまう。たしかに軽くなり動けるようになるかもしれませんが、その反面、跳べない、止まれない選手になってしまうかもしれません。なので、君の先生に伝えておくので、これからは私が指示するランニングメニューをこなしてください。もちろんこれは、強制ではありません。やりたくなければやらなくても良い。ただ、ラントレーニングをするなら、私の指示したものをしてください」


 少し早口なその言葉に忙しく思いながら、こくこくと頷く。


「わかりました」


「スタミナアップと、スピード強化。この2つを目標に努力してください」


「はい!」


 最後に目を見つめられる。


 巻き戻ってきてから、目を見られることが多くなったなぁ……。


 総監督は表情を一度も変えないまま、その場を去っていった。


 しばらくすると、シノとハルが眠そうな顔でやってきた。


「あれぇ〜……イット、走ってないの、珍しいじゃん……」


「……闇雲に走るのは、もうやめようと思って。とりあえずあと10分流しで走ったら、俺は終わりにするよ」


「ふあ……わかったぁ」


「……フン」


 明らかに寝起きな2人に苦笑しながら、俺はタイマーをセットした。

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逆行したら強化選手に選ばれました。 じらお @tareuma_

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