増えすぎた人間は滅亡へ
久遠 れんり
ある日のこと
「また殺人だってさ」
「えーまた? 日本も物騒になったわね。この前もそんな事があったじゃない」
俺は恋人である
俺達は大学三年だ。
俺は、
―― 二千年代も中盤となり、今世界は絶好調に混乱中。
どこかの大統領が無茶なことを言って、それに世界が振り回されている。
少し前から大国の我が儘のおかげで、あちこちで戦争が起こり、いまは、経済的にも破綻をしかかっている。
日本も人が減少して、外国人が入り込み、もう単一民族ではなくなって久しい。
そう、四半世紀前に起こった血の粛清。
あれで日本人はほとんど殺された。そう、自分が反撃をしなければ殺されないというデマが蔓延して、信じた人達は無為に殺された。
切っ掛けは、関東の方で武装した外国人が、警察と戦争を行った。
自分たちがいる地域を、治外法権にしろと言って。
米軍基地では認めているじゃないかと言う理屈だ。
人が殺されようが、レイプされまいが動かなかった国だが、そこでようやっと腰を上げて…… 認めてしまった。
どうやら蜂起前に、偉いさんの家族が拉致されていたようだ。
そうその日から、日本は切り崩されて奪われていった。
俺達がぼやいていた日本は、わずかに日本人が残っている地域。
東京や大阪、名古屋などと言うところは、すでに日本ではなくなっている。
残っている日本は、一部離島と四国のみ。
他は実質外国だ。
ロシア、中国、韓国、アメリカが自治権を声高に叫び、日本は分割をされた。
表向きは、日本という国はいまも存在をしている。
だがその中はもうだめだ。
その日は妙に胸騒ぎがして寝苦しかった。
月の光は明るくて、深い闇が生まれていた夜。
夜明けとともに、空気感が変わった。
それは、
妙に重い空気、そして頭痛が俺達を襲った。
「頭がいたい」
「ああ、俺もだ。なんか空気が重いな」
「うん。大学休んでゴロゴロする?」
彼女は薄手の毛布を捲りあげる。
無論中身は、裸体の彼女。
「ああ。そうしたいが、今日はサボれない」
「ちぇー」
そう言って彼女は、すっかり出かける準備ができた俺を、怠惰という悪の道、七つの大罪へと誘う。
だが今日行かなければ、ゼミでの立場が決まってしまう。
誘惑を振り切って出てきたが、世界にモヤがかぶっていた。
―― 勤勉な日本人は、不機嫌そうな顔でもどこかへ向かっている。
その頃、比較的平和な四国と違い、本州側では些細なことから戦闘が始まっていた。
それは、日本だけではなく世界中で起こり、主に狩人気質の人種でひどいことになっていた様だ。
きっとカウントされていたら、すごい勢いで人口が減っていただろう。
そして自棄になった大国は、すぐ隣りにある国へ向けてミサイルを撃ってしまう。
そうそれは、原子核が分裂し、エネルギーを放出する連鎖反応を利用した爆弾が搭載されていた。
そう彼等は、通常弾だと思っていたが、国民性なのか管理が適当だった。
自国の国境を越えて、数十キロにいた敵は光とともに都市ごと消滅をした。
だがそれは、各国のアラートを鳴らすことになる。
今度は、狙いが自国へ向くぞ。
そんな恐怖に駆られ、数発が大国に向けて発射された。
そう、そうすれば自動応答装置が連鎖的に反応をする。
世界はその日、終焉へと足を一歩進めた。
その日、
それを俺は鳥瞰をしている感じで、ただ見ていた。
そう、人類史で習ったことをどうやら夢で見たようだ。
世界がおかしくなって、主な人達は宇宙へと出た。
ここはコロニー、サイド三。日本国。
地上では随分人も減っただろうが、地球の意思はとうとうコロニーにまで届いたようだ。
折角やって来たが大学構内では、お掃除ロボットが忙しく走り回り、血の流れた跡が消されている。
夢の話をした後、彼女はきっと人類史の授業のせいだと言った。だが、歴史は再び目の前で現実となり、人々は狂気に駆られて殺し合いをしていた。
「こりゃゼミどころじゃないな」
人々の殺意は、俺だからと言って避けてくれないようだ。
仲のよかったクラスメイトと食堂のおばちゃんが追いかけ合いをしている。
鞄対出刃包丁は、殺傷力で包丁の方に軍配が上がり、友人Aは腹を刺されて蹲る。
守られていたはずの彼女Aは、倒れた友人を「役立たず」そう言って蹴り飛ばし、無情にも逃げ始める。
おばちゃんは、お年を感じさせない俊敏さで彼女を追いかけ始める。
「まてぇ。小娘。いつもいつも文句ばかり。こっちは安い経費で作っていたんだ」
そんな光景を見ていたら、見慣れない連中が走ってきて、一人が俺に気がつく。
「てめえ、何見てんだぁ」
そんな理由で、バットを片手に、人を殺しにやって来る。
「やれやれ、そんな理由で殺していたら、人は居なくなってしまう」
そうぼやきながら、この狂気はもう治まらないだろうとなんとなく感じた。
母なる大地の上で、人間は好き勝手をして、
恐竜は、隕石君で全滅をさせられ、原人君はピテカントロプスと手を取り、暮らしていたのにホモサピエンス君の我が儘で殺された。
そう我々の先祖は、種を根絶をして頂点へと立った。
四十万年もこの地で暮らしてきたのだ。いい加減地球が怒っても仕方が無い。
まあ実際、怒っているようだが。
これまでの絶滅は、偶然か何かの介在か?
今回は知っている。
地球は怒り、それは宇宙へ逃げても逃がしてくれなかったようだ。
人を殺そうとして駆けてきた彼は、奇妙な壁に阻まれ水風船のように弾けた。
「あら、弾けちゃった」
まるで、耳がおっきくなっちゃったという乗りでごまかして、家へと帰る。
そう緊張をしながら、ドアを開けて家の中へと入る。
彼女もホモサピエンスなら淘汰される側の人間。
我らは、責任を持って狩らねばならない。
なるべくなら、混血種を残してごまかせないかと思ったのだが……
意外と彼女は普通だった。
「あらゼミは?」
「うーんまあ、休講みたいだったから帰って来た」
先生の首だけが転がっていたから、授業どころではないだろう。
「じゃあ出かけずに、イチャイチャすればよかったわね」
「出る前に分かっていればね」
そう言ったら、彼女の表情が少し変わる。
俺達は地球での混乱の中で生まれた新人類だったが、彼女は宇宙に出て生まれた超新人類だったようだ。
「そうか、俺達はすでに淘汰される方だったのか」
「そうね」
彼女は台所へ走る。
そしてその包丁は、俺が張ったシールドに阻まれる。
「力はあるのね。なら? 違いは少し。分かるか分からないか。それが人種を分ける?」
「ならば手を取り、共に生きられるはず」
そう言うと、彼女はアレッという顔をする。
「地球からの狂気に飲まれていないの?」
「ああ旧人類は殺し合っていたよ」
「じゃあ良いのかな?」
とりあえず、俺達は仲直りエッチをしながら、世の中が落ち着くのを待つことにした。
あれから十年。再び俺は危機を迎えていた。
「人が減ったからと言って、浮気をするのは違うと思うわ」
「ちょっと待て、落ち着け。包丁は降ろせ」
人類は今、いや俺は危機に直面している。
「許してくれ、もう浮気はしないからぁ。人はわかり合えるんだぁ」
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お読みくださりありがとうございます。
泡沫の夢物語向けに書いていましたが、何か違う気がして独立させました。
増えすぎた人間は滅亡へ 久遠 れんり @recmiya
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