逆バニー澤田

白川津 中々

◾️

「明日から我が社の女性社員……いや、女の制服はこれだ!」


そう言ってお披露目されたのが逆バニースーツ。胸にバッテンが貼られた下品極まりない意匠の衣装である。ベールを剥いだ部長は至極ご満悦だが、それを見せられている唯一の女性社員、澤田の表情は修羅。


「あ、すみません、電話しますね?」


「どこへ?」


「弁護士です」


「おいおいおいおいおい〜〜〜〜〜〜〜まずは社内の相談窓口だろ〜〜〜〜〜〜過程をすっ飛ばすな〜〜〜〜〜〜〜だからミスが多いんだよ君は」


「いや、普通にセクハラですよこれ。コンプライアンスどうなってるんですか」


「コンプラ。素晴らしい響きだ。我々上位レイヤーの労働意欲がごっそり削られる」


「削られてるのは私の精神なんですけど」


「まぁ聞け澤田くん。このところ弊社の売上は停滞している。真新しい企画もなく業務もマンネリ。転職を考えている社員も少なくない」


「まさに今の私ですね」


「そこでだ。我々はどうしたらモチベーションがアップするかを考え、一つの結論を導き出した」


「私の話聞いてくださいよ」


「唯一の女である君にアバンギャルド&セクシュアルな格好をしてもらえば、我々男はめっちゃ嬉しいよねと!」


「逆バニーはもうアバンギャルドじゃないですよ。あと、私のモチベーションはダダ下がりです」


「君はミスが多いから正直やる気があろうがなかろうがどうでもいいんだ。戦力にならないからな」


「ちょいちょい私のミスを指摘するの止めませんか? というか、それでこの無茶を通そうとしてませんか?」


「しているが?」


「開き直んなや」


「しかし我々も鬼ではない。当然、君に対してもそれなりの報いを用意するつもりだ」


「そんな風に思わせぶりに電卓叩いたって無駄ですよ。私はお金で品性を売る気はありません。次会う時は弁護士を介して……」


電卓を見せられた澤田は、思わず息を呑み込み喉を鳴らした。


「足りないか?」


「……」



翌日から澤田は逆バニーで出勤。社員一同を大いに喜ばせた。

レイヤー層の思惑通り社員のモチベーションは飛躍的上昇。利益も過去最高を叩き出し、澤田以外は皆ホクホクと顔を溶かす。


だが、その笑顔が長く続く事はないだろう。澤田は転職と慰謝料の計算を既に始めている。会社が社会的、経済的に大ダメージを負う未来は遠くない。


「澤田くーん! 今度はミニスカポリスにしてよー」


「いいやチャイナドレスだ!」


「うるせぇクソ中年! アバンギャルドはどうした!」


負けるな澤田。勝訴するその日まで。

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