影に潜む者

 

怪獣の死体が放置されているエリアは関係者以外立ち入り禁止となり、防護服を着た集団が飛び散った怪獣の死体の一部を回収していた。

怪獣の死体は急速に腐敗が進行しており、辺り一体は途轍もない悪臭が充満していた。

その為、体調を崩してしまう者が続出し、早急に死体の破片を回収しなければならない状況にも関わらず、作業は遅々として一向に終了の気配を見せないのであった。

 

 

 

 

死体回収班 Fグループ 午後10時26分

 

八津崎光琳は死体回収の任を受けてから何時間経っただろうかとふと思った。

相当な量の肉片が入れられたタンクを落とさない様にトラックのコンテナまで運び終えて一息ついた所だ。

他の班員は、死体回収用の専用真空パックに肉片を四苦八苦しながら入れている。

死体回収を命じられたのは12時過ぎだったと記憶している。

比較的怪獣本体から遠い場所に配置されたので、死体の付近に配置されたアルファベットの初めの名を冠するa、b〜部隊よりもギブアップした班員は少ない。

 

昨日まで怪獣なんて映画の中だけの存在だったのに…

 

街をめちゃくちゃにしたあの怪獣は到底地球に生息する生命体とは思えない。

恐竜だってこれまでに発見された中で最大のものでもあの怪獣と比べたら子供みたいなものだ。

あの巨人もそうだ。

あの巨人は宇宙人と言うやつなのだろうか。あるいは神か…

 

そんな事を考えていたせいか足元のタンクから液体が漏れ出ていたのに気付かなかった…

 

 

 

 

葵は今日こそ大学へ行こうと思っていたのだが、大学から安全の為に当分休講になると知らせが入り、出鼻を挫かれてテーブルに突っ伏していた。あぁ~と時々声をあげながら足をばたばたと動かしている。

 

「あぁ〜、なんか最近ついてないなぁ。」

 

「講義が無くとも自主学習すれば良いのでは無いか?」

 

茜は葵と対面する形で椅子に腰掛けティーポットに茶葉を入れながら言った。

ここ数日の間にもうすっかり地球の文化に慣れ親しんだ様だ。

 

「ん〜、そう言うのはなんか違うって言うかぁ〜」

 

気怠げに癖毛を弄りながら葵はそう言った。

茜が入れた緑茶を受け取り煎餅を齧りながら葵は空いてしまった今日の予定を考える。

 

「どっか行こっか?」

 

「何処かとはどこだ?」

 

「どこかはどこかだよ。」

 

茜は湯呑みに入れた茶を一息に飲み干すとはぁっと溜息をついた。

 

 

 

 

昼過ぎ頃、葵と茜は自宅から歩いて行ける距離の隣町に来ていた。

大通りでは怪獣のせいで避難を余儀なくされた人達の為にボランティア団体が来て炊き出しなどを行っていた。

葵はその外れにあるショッピングセンター目当てに来たのだが、ネットで調べた時には営業中と表示されていたにも関わらず明かりはついていなかった。

 

「嘘やんけ。」

 

先程から腹の虫が鳴り止まない葵はげんなりして言った。

 

「もっとちゃんと調べないからだろう。」

 

茜の冷静なつっこみに葵はむすっと頬を膨らませながらも次の目的地を探しだした。

葵と茜は手を繋ぐと少し離れた街に向かう為に駅を目指して歩き出した。

 

その背後をふらふらとおぼつかない足取りの防護服を着た男が通り過ぎていった。

 

 

 

 

暫く歩き続けて駅が見えてきたその時、大きな爆発音が歩いてきた方向から聞こえた。

駅にいる多くの人がざわめき不安な表情を浮かべている。

茜は険しい顔で元来た道を振り向いた。

葵はその様子を見て何が起きているかを理解した。

 

「…行くの?」

 

「ああ…だが君の力が必要だ。」

 

「私の…?」

 

辺り一体が閃光に包まれた。

 

 

 

 

新手の怪獣は前回と異なりかなり人に近いシルエットをしていた。

前回と共通しているのは爬虫類の様な表皮である点だ。

これこそが取り込んだ生命体の様々な情報を繋ぎ合わせる事の出来る敵の強みだ。

都市伝説などで語られるレプティリアンによく似たーと言うよりもそのものの姿をしたその姿は怪獣というより異形の巨人であった。

 

怪獣が再び現れた事で街中がパニックに陥った。

多くの人々が逃げまどい、各交通機関はものの数分でパンクした。

大通りにいた人々は現れた怪獣から最も近い位置にいた。

怪獣は逃げ惑う人々を巨大な手で掴み取り、大口を開けて捕食していった。

 

 

突如、町全体を閃光が包み込み、耳をつんざくソニックブームの様な破裂音と共に白い巨人が現れ、先の巨人の顎にアッパーカットをお見舞いした。

 

白い巨人“セファール”の姿は前回から大きな変化が見られる。

全身を蒼と紅の複雑に絡み合った蛇紋が纏わり鮮やかな姿へと変貌している。

紋様は目元から流れ落ちる涙の様に始まり、何度も紅と蒼が互いに交差した流れを通った後、両手と両足の人差し指と薬指で終わっている。

 

起き上がった蜥蜴人間はセファールの姿を認めると怒りに体を震わせ、四つ足をついて咆哮して威嚇の姿勢をとった。

 

セファールは腰を低く落として拳を握り、ファイティングポーズをとった。

 

「シャッ!」

 

「グギャァァッ!」

 

二体の巨人は激しくぶつかりあった。

 

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宇瑠都流府 空想科学巨神譚 ばりるべい @barirubei060211

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