4-6 現状に満足できない
魔王との戦いから数日後――
メイナが負傷から完全に回復すると、俺たちは久しぶりに冒険者ギルドを訪れることにした。
魔王は討伐したものの、街にはまだ侵攻の爪痕が残っていた。魔王の降らせた雪が、積もったままになっていたのである。そのため、そこかしこで雪かきや雪下ろしが行われていた。
「おーい、ちゃんとやってるかー?」
「…………」
雪下ろしどころか、相手は俺の呼びかけに答えることさえしなかった。
「真面目にやらないとメシ抜きにするぞ、魔王」
格下扱いされたのが気に入らなかったのか、単純に食事がなくなるのが嫌だったのか。リディスはようやく反応した。
「うぬぼれるなよ、鉄球の勇者。我など所詮、序列下位の小魔王に過ぎない。貴様らの力では大魔王様どころか、上位36人の中魔王の方々にさえ及ばないだろう」
「やめろやめろ。これ以上ややこしくするんじゃない」
しかも、数が微妙に多いんだよ。10人くらいにしろって言ってんだろ。
前々から、俺たちに討伐されたくせに、妙に反抗的だとは思っていた。どうやら自分よりも強い魔王がいるから、まだ負けていないつもりだったらしい。
「せっかく差し入れにアイス買って来てやったっていうのに」
「すみませんでした。今すぐやります」
リディスは屋根に積もった雪をすべて魔法で浮かせる。さらにそのまま雪捨て場である川原まで飛ばしたのだった。
駆け出しの俺でも、リディスが高度なことをしているのが分かるくらいである。一級冒険者のメイナからすれば尚更のようだった。
「ヨンペーさんが処刑に反対した時はどうかと思いましたけど、生かしておいて正解でしたね」
リディスは氷の魔法を使って、この地方の降雪量を増加させていた。その力を応用すれば、雪下ろしをしたり降雪量を減らしたりもできるのではないか、と俺は考えたのである。
天候を雪に変えただけで、リディスに直接殺されたという人間はまだいなかった。討伐に参戦したゴーズら冒険者たちも、すぐに手当てを受けられたおかげで全員生還していた。そのため、リディスへの反感はそれほど強くなく、強硬に処刑を求める声は少なかった。
問題はどうやって命令に従わせるかだったが、これについては簡単な解決案があった。犯罪者の拘束や囚人の管理のために、本人以外が魔力の使い道を決められるようになる、首輪型のマジックアイテムが開発されていたからである。こうして、「処刑せずに除雪に利用する」という俺の案が通ったのだった。
「さすがに拷問は可哀想っていうのもあったけどな」
この世界では、斬首刑や絞首刑のような一般的な死刑よりも上の刑罰として、拷問によって苦しめて殺す死刑があるらしい。それもネットでグロ画像を見ちゃって耐性のある俺でも、ドン引きするような内容のものだった。ポーションで治しながらって、そんなことに
「お、おい。それは何のつもりだ?」
俺とメイナを見て、リディスは作業の手を止める。
リディスがあまりに欲しがるから気になった。それで火の玉で暖を取りつつ、アイスを食べていたのだ。
「全部やるなんて言ってないだろ」
「バニラは残ってるんだろうな?」
「悪い。俺が食っちゃったわ」
「これだから人類は無価値だと言ったんだ」
怒ったような呆れたような様子で、リディスはそう吐き捨てる。たかだかアイス一つで大げさすぎるだろ。
「こいつ全然反省してないですよ」
「やっぱり処刑しとくか」
◇◇◇
「……という感じで、ちょくちょくサボってるみたいなんで、監視を厳しくした方がいいと思います」
「ご報告ありがとうございます」
ギルドハウスに到着すると、俺は道中の出来事をホルトさんに話していた。
リディスは囚人ではあるが魔王でもある。そのため、あいつ絡みの問題については、冒険者ギルドも窓口になっていたのだ。
「それで、本日はどのようなご用件でしょうか? やはり討伐のクエストをお探しですか?」
「実は――」
ホルトさんの言う通り、ずっと討伐クエストを受けたいと思っていた。特にファンタジーだけでなく、この世界でも定番らしい、スライム退治やゴブリン退治をしてみたかった。
ただ、それらのモンスターが有名なのは、世界中の広い地域に分布しているからなのだそうである。何もこの街にいなければ討伐できないというわけではないのだ。
「街を出るんですか!?」
「俺たちの目的は、大魔王を討伐することなので」
このオルロンの街のそばにあるのは、あくまでも魔王リディスの城だった。大魔王は別の場所にいるのだという。
それに世界には、他にも魔王の侵攻に苦しめられている地域があるようだった。大魔王に挑む前の
だから、俺とメイナは相談の結果、この街を発つことにしたのである。
「ギルドとしては残っていただいた方がありがたいのですが、世界平和のためなら仕方ないですね……」
そう答えつつ、ホルトさんは俺たちの引き留めを続けていた。
「せっかくですから、冬送りだけでも参加されていきませんか?」
そういえば、年に一度しかないからと、元は討伐クエストよりもお祭りを優先するつもりでいたんだった。しかも、オルロンの伝統行事だそうだから、他の街へ行ったらもう当分は参加できなくなってしまうだろう。
メイナも俺と同じ考えのようだった。
「今日明日滅びるわけではないですから、それくらいはいいんじゃないですか」
「じゃあ、そうするか」
◇◇◇
固めた雪を、俺はノミを使って削り取る。気になった部分をほんの少しだけ。
「できた!」
コンテストの入賞者には式典で表彰があるという。そのため、雪像のそばに、作者や作品の名前を記入した看板を立てて、これで本当に完成となった。
「これが俺たちの作品、『雪の家』だ!」
「これって魔王城のパクリですよね?」
制作前からずっと何か言いたげな様子だったが、メイナはついにそう指摘してきた。
最終チェックとして、俺は『雪の家』のドアを開ける。中を空洞にしてあるため、実物と同じように家に上がれるようになっていたのだ。
「単純な出来栄えじゃあ、ベテランの参加者たちに勝てないからな。体の冷えてきた客に中で暖まってもらうっていう、ホスピタリティの部分を売りにするんだ」
「完全にパクリじゃないですか」
ともあれ、これでとうとう俺たちの作品が完成した。休憩や敵情視察の意味で、他の参加者の作品を見て回ることにする。
俺が来てからずっと、
おかげで、冬場としては気温が高く、外出にはうってつけの日となったようだ。リディスに破壊された雪像を作り直そうと、広場には俺とメイナ以外にも大勢の参加者が集まっていたのだった。
中でもひときわ大きな像の前で、俺たち二人は立ち止まっていた。
「ウルルウ様の像も修復されたみたいですね」
「よかったよかった。この前会ったけど、あいつすねてたからなぁ」
「そうなんですか?」
「魔王討伐のお祝いで用意したとか言うわりに、自分が一番肉食ってたから」
「私の中の神様像は壊れっぱなしなんですけど」
他にも、「俺が焼いてた肉まで食いやがった」とか、「そのくせ俺には野菜を勧めてきやがった」とかいう話もすると、メイナの困惑はますます深まったようだった。
「ニニちゃん、考え中って言ってたけど、結局何作ったんだろうな」
「街を守ってくれたお礼に、またスライムかもしれませんよ」
「だったら嬉しいけどなぁ」
「もしくは、私たち『
「それいいな。それでいこう」
功績を讃えて像が建てられるのは、英雄や偉人の特権だもんな。この場合、銅像じゃなくて雪像だから、後世まで永遠に残り続けるってわけにはいかないけど。
「でも、人の像を作るのは難しそうですけどね」
「じゃあ、紋章でもいいよ」
『
あれこれと想像を膨らませながら、俺とメイナは広場を散策する。その内に、とうとうニニちゃんの名前が書かれた看板が見つかった。
「ご、ご希望が叶ってよかったですね」
「めちゃくちゃ笑ってんじゃねえか」
確かに、ニニちゃんが作ったのは、俺たち『
パーティメンバーである俺とメイナ――が使う武器の像だったのだ。
「鉄球かぁ……」
腰に差したショートソードを一瞥したあと、俺は改めてニニちゃんの雪像に目をやる。武器をモチーフにするんだったら剣の方が……
「まぁ、いいか」
伝説の剣は抜けなかったけど、鉄球だって強かったし。
ハーレムは作れなかったけど、仕事仲間とは知り合えたし。
討伐クエストは受けられなかったけど、雪かきも楽しかったし。
大魔王は倒せなかったけど、魔王から街を守れたし。
だから、まぁ、いいか。
「あっちのも、ヨンペーさんがモチーフじゃないですか?」
「マジ? 他の人も作ってくれたのか?」
「ほら、あれですよ、あれ」
「いや、あれは多分ウルルウだろ。髪長いし」
「なるほど、私はてっきり衛兵の像かと」
「だから、囚人扱いするなつってんだろ!」
でも、付き合うのは、やっぱりオタクに優しいギャルがいいな。
(了)
異世界に来たけれど~俺の異世界生活がなんか思ってたのと違う~ 蟹場たらば @kanibataraba
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