第92話 後はお任せ

「とりあえず、後の事は任せてもらおう。……まあ、アレがこちらの手にある時点で、大方決まったようなものだがな」


──結局、『契約書』の方はギルマスに預けることとなり、今回の案件は僕らの手を離れることとなった。


まあ、元からギルドの方にぶん投げるつもりではあったというか、こんな面倒な案件を前面に立って解決するなんて考えてもなかったので、予定通りではあるのだけど。


ダン高ダンジョン高校に正面から乗り込んでいって、警備員や教職員を委員長と共にバッタバッタとなぎ倒し、何某かの親であるという学長に『契約書』を突きつけて最終決戦……みたいな展開は、流石にラノベの読み過ぎだろう。


組織やら国やらと面倒な話が出てきた以上、お任せできる人にぶん投げるのが、単なる一般市民、Eランク冒険者の出来ることの限界だ。


ちなみに、『契約書』に書かれていた内容は色々と問題があったものの、その中でも『特定の条件下で命令に逆らえなくなる』という規定が一番悪質だろう。


まあ、財産を取り上げたり犯罪をさせたり、あるいは罪を被せて自首させたりも可能なのだろうし。


……あの聖騎士様が、どんな使い方をしてきたのかは、気分が悪くなりそうだから想像したくない。


恐らくは『契約済み』の書類によって、それらの問題も明るみに出るだろうから、きっちり清算してやってほしい。


「まったく、これでまた借りが増えてしまいそうだが……そろそろ何か考えておいてくれ」


え? いや、今回の件は完全にこっちが面倒をギルマスに押し付けたようなものだと思ってるんだけど。


こっちとしては、何か降りかかってきた火の粉を払っただけで、大した怪我も被害も無かったわけだし。


まあでも、ギルマスが借りだと思ってるなら、それはそれでいいか……。


あ、そうだった。


装備職人を紹介してもらいたい、って思っていたんだった。


盾を作るのに、ハイオーク青オーク対策とかで使えそうなぐらい強度があって、かつ透明度があると良かったりするんだけど、ポリカーボネートのような素材では限界があるのだろうし。


あと、武器の方もいい加減テコ入れしたいところだろうか。


果たして今後もメイス系でいいのか、という問題もあるのだけど。


「職人か……うーむ、BランクからDランクまで装備の要望は何年も先まで詰まっているのだが……わかった。おい、門文モンモン


「へいっ、承りやした。調整しておきやす」


うーん、誰かの装備品がこれで遅れてしまうと思うと少し申し訳ないけれど、恐らく20層のボス戦に挑む前には持っておいた方がいいだろうからなぁ。


こういうのは遠慮していても、いつになるか分からないので、ここは輩にでもなったつもりで堂々といこう。


──その後、別室で大量の契約書を甘井さんへと渡して、この話は一旦ギルマス預かりとなった。


そして、数日と経たずに世間を騒がすことになったのが、国立ダンジョン高校・学長の突然死・・・と、複数の教職員の集団・・失踪・・というニュースだった。


◇◆◇


──1カ月後。


「うん、まあチラッと見た程度ではあるけど、前とは違って雰囲気は良くなってたかな」


夏休み前の試験期間ということで、実技のためにダン高ダンジョン高校に行っていた委員長。


彼女の聞いた話によると、元・冒険者だという新たな学長があの後に就任し、また教職員にも整理があった上で、色々と見直しが図られているらしい。


ダンジョンの方にも見直しが入り、ダン高ダンジョン高校独自で行っていた管理を冒険者ギルドに委託し、一元化することになったとか。


生徒へ行っていたランク認定も、冒険者ギルドの基準によりやり直す形で見直しが入り、委員長は改めてEランク認定されたんだそうな。


「実技試験の方も、特に問題なかったかな。他の魔法系の人も一緒に試験を受けてたけど、前よりは全然、的に当たるようになっていたみたい」


……ギルマスからの報告によると、魔法関係の指導は特に悪質な『成長阻害』の方針が入っていたらしい。


『成長効率を下げる目的で、燃費の悪い魔法を使わせるよう調整されていた』とのことで、『的あて』の道具にも細工がされていた形跡・・があったようだ。


残念ながら、一部の教職員の失踪・・と同時に、それらの道具は処分・・されてしまっていたため、その細工の作成元や入手経路などは闇に包まれてしまったとのことだけれど。


あと、気になっていることとしては……やはり、聖騎士様パーティの退学・・失踪・・、だろうか。


結局のところ、何か償うにしても冒険者の能力を活かすのが一番だろうから、首に輪でもつけて働いてもらえばいいかな……ぐらいに(割とどうでもいいと)思っていたのだけど。


単に退学させるだけだと、それこそドロップアウトなんて言葉があるぐらいで変な方向にしか進まなそうだし、なまじスキルがある分だけ危険な要素もあるから、野放しというか、所在が確認できなくなる事態は避けるべきだった。


しかし、向こう・・・の方が上手だったのか、動きが早かったようで、足取りは掴めなくなってしまったそうな。


……やはり、向こう・・・に連れていかれてしまったのだろうか。


「そういえば、ダン高ダンジョン高校のダンジョンも、今月から一般開放されるようになるらしいよ。今度入ってみる?」


学内にあるというダンジョンは、40層まである初級者〜中級者向けのものだそうで、アンデッドから植物系まで多種多様なことが特色らしい。


ちょっと面白そうではあるものの、学校という時点でちょっと近寄り難いし、まあ機会があればということにしておこう。


……そういえば、藤箕ふじみダンジョンも元は高校だったんだっけ? どうでもいいけど。


ああ、そうだった。


甘井さんから連絡が来て、装備職人に面会できるらしいので、近いうちに会うことになるみたい。


「あ、そうなんだ。何年も待たされるって噂だったから、1カ月で会えるってのは、やっぱり早い方なのかな」


うーん……まあ、ちょっと不安な言い回しがあったから、本当に受けてもらえるかは分からないんだけどね。


「……どういうこと?」


うん……なんか『気難しい人で、相性が合った人にだけ作ってもらえる』とか、『ここ最近は何件も立て続けに断られている』とか。


まあ、職人さんが特殊な性格なことは、割とよくありそうな話ではあるんだけどさ……。


「うーん……まあ、その辺は実際に会ってみないと分からないところかな」


うん、でも腕は普通にトップクラスなんだそうだし、新素材に挑戦することにも貪欲だそうだから、せめて話だけでも聞いてもらいたい。


異世界で相手がドワーフとかなら、酒の1つでも持っていくことで簡単に話が通せたりするんだけれど……どっこいここは現実、酒屋がそこかしこにあって、誰かを出し抜くのは相当に難しい。


……と、そんな話をしている間に、エレベーターのある小部屋の前に到着していた。


そういえば、この件についても甘井さんから報告があって、いくつかのCランク冒険者で無事に5層を開通させることが出来たらしい。


また、1つのダンジョンで5層を開通させた後は、他のダンジョンでソロで入っても特殊なボス戦が発生しないとか、特定の条件下で他のダンジョンでもエレベーターを開通させることが出来るらしいとか、色々と報告が上がってきている、とのこと。


他のダンジョンでの挙動か……確かに、ちょっと気になるところかもしれない。


まあ、とりあえずはこの藤箕ふじみダンジョンを20層までクリアしてから、かな。


現在、僕らは16層から17層辺りで腕を慣らしつつ、そろそろもう1つあるというゴブリン集落に挑戦しようかと考えているところだ。


指輪の中で眠るあの腰蓑を着ける日も近い、のかもしれない。


「それじゃ、行こっか」


エレベーターを出て、委員長が通路の先にある16層に向かう階段を降りていく。


結局、彼女はこのままソロ扱いで学校に籍を置き、僕とパーティを続けてくれるらしい。


学校のランク判定が冒険者ギルドと共通になったことで、外での活動がそのままランク判定に使えるため、いちいち学校での再判定を行わなくて済むようになったようだ。


もっとも、16層からは敵も『バフ』や『デバフ』を使うようになってきていて、面倒が増えてきてもいるので、20層を突破してDランクになるのはもう少し先になるかもしれないけれど。


……ま、学校の方の憂いもこれで無くなったようだし、地道にやっていけばいいだろうか。


──余談だけど、あの後も順調に海外のダンジョン発見は続いていて、また冒険者ギルドと協力関係になった国は10カ国ほどになったようだ。


まだ、お隣の国はそれに加わってはいないものの、あの日・・・を境に態度が一気に変化して、交渉の席には着くようになったとか何とか。


こういうのは政治・・ってやつだから、細かいところに拘らず大局を見て対応を考えるべきなんだろうけれど……うん、やっぱりこういうことを考えるのは向いてないな、やめやめ。


全部お上の方々にお任せするのが吉ってやつだろう。

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