当分、彼氏はできそうにない
続
当分、彼氏はできそうにない
俺は、君が後悔していることを知っている。
「そいえば璃子はなんで別れたわけ? 噂の元カレと」
下校途中の電車内。ふと思い立ったようにそう尋ねると、璃子は気まずそうに目を泳がせた。
「えぇ!? 高瀬まで知ってんの、その話」
「もうクラス中知ってるから。璃子の元カレがハイスペック過ぎてやばいって」
「そっかー。人気者の璃子さんは、いつだって話題の中心だから仕方ないか! 最悪だ……」
璃子はさも当然、とおちゃらけて笑った。本当は避けたい話題だろうに。
それにしても。最後にポロっと小さく零した本音が、俺に聞こえていないとでも思っているのだろうか。こういうところが璃子らしい。
まあ、もちろん聞こえていないふりをするのだけど。
「そうそう、人気者の定め。で、その元カレって実際どんな感じなわけ? 高身長イケメンなんだろ」
「えー聞きたいの? ……んとねえ、背は182センチで、長めの前髪から覗く切れ長の目が超かっこいいの。でね、気を許した相手にだけ見せる、へらっとした笑顔が可愛いくて」
「それで東京の進学校に通ってて、女が喜びそうな振る舞いが得意、だっけ?」
「ちょ、言い方! 人の気持ちを汲み取るのが上手な優しい人って言え! でも本人は全然無自覚でさ……って、こんな話もういいじゃん。所詮別れた男だし?」
「いやめっちゃ気になるわ。なんでそんな優良物件が璃子なんかと付き合ってたのか」
「あー、それはほら、私のちょっと抜けてるところが可愛くて目が離せないから……って喋らすな! 高瀬あんたほんとサイテー」
「ごめんごめん。で、なんで別れたのそいつと」
「さらに聞いてくる? あんた見かけ通り無神経だよね……まーあれだよ、私がこっちに転校するタイミングで別れたって感じ? 飛行機と電車で3時間超の遠距離恋愛とか、私マジで無理だし。だからバイバイした的な?」
浮ついた声で、明るく話す璃子。都合が悪い時はいつも、こうやって能天気なふりをして誤魔化す。
他の奴らは知らんけど、俺にはバレバレだっての。
「ふーん。まあ確かに遠距離は俺もムリだわ。でももったいなかったんじゃね? 未練とかないわけ」
「別にぃ? 璃子さんならまた同じくらい良い彼氏捕まえられるし?」
「なるほど、元カレ以上の奴じゃないと願い下げだと」
「そ、そうは言ってないけど……」
「なんか言った?」
「え? いやそうそう! この璃子さんと付き合おうってんだから、元カレなんて軽く超えるくらいの男じゃないと」
璃子は胸を張ってそう断言した。
けど内心は冷や汗ダラダラなんだろうなと想像すると、思わず吹き出しそうになる。
自分が一度言ったことを撤回するなんて、璃子にできるはずがないから。
さっきの台詞は言いふらしてやろう。これで、璃子を狙っている男たちに二の足を踏ませることができる
それにしても、本当に可愛いな。
都合が悪いことを隠すために、余計なことまで喋りすぎてしまうところが。
そのせいで、どんどん墓穴を掘っているところが。
でも根が真面目なせいで、嘘をつくたびいつも後悔しているところが。
本当に可愛い。
彼氏なんて、今まで一度もいたことがないくせに。
「それじゃあ璃子に彼氏ができるのはしばらく先だろうなー。残念」
「待ってよそんなのわかんないじゃん!」
「わかるわ。うちの学校にそんなスペック高い男いねーっての。てかその前に、璃子と付き合いたいって奴がどれくらいいるかね。ノリは良いけど基本アホだし」
「はぁ? 悪いけど、私案外モテるんだからね。なんもわかってないくせに、余計なお世話ですー」
は? なにそれ。
そんな風に可愛く口を尖らせなくても、俺は璃子のこと、よく知ってるつもりだけど。
前の学校では、「テンプレ地味メガネ」なんて呼ばれていたこと。
転校を機に、頑張ってイメチェンしたこと。
盛り上がる恋バナについていくために、「前は彼氏がいた」と嘘をついたこと。
けれど恋愛なんてこれまで全く縁がなかったせいで、咄嗟に憧れのアニメキャラの好きなところをべらべらと喋ったら「璃子の元カレは超ハイスペックだ」と周囲が予想以上に盛り上がってしまったこと。
本当は彼氏が欲しくてたまらない璃子は、「元カレ以上の男じゃないと付き合わない」と言ってしまったことを、今まさに後悔していること。
だからつい、からかいたくなってしまう。
「じゃあ俺がその元カレ以上になったら、俺と付き合ってくれる?」
「へ……?」
「なんてなー。本気にした?」
一瞬で真っ赤になった璃子に、ふざけるなとバッグで思い切り背中を叩かれる。
こんな悪ふざけをしなくても、普通に告白したら普通に付き合えるのかもしれない。
でも、それじゃ面白くない。
まだしばらくの間は、自分のついた嘘に首を絞められて慌てる、可愛い璃子を見ていたい。
俺が本当に璃子のことを好きなんだと、璃子が意識してくれるようになるまでは。
当分、彼氏はできそうにない 続 @Tsuduki-S
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