い■り

 爆弾が落ちた。焦げたビルの廃墟が倒壊し、死体の焼けた匂いが周辺に広がる。

 戦場だった。旧人類が完全に滅んでから100年以上経ち、新人類は世界各地に散らばった。時計を早回しするかのように、文明の再建は進んでいった。銃が生み出され、爆弾が生み出された。

 そして、人々は旧人類の存在を忘れ去った。


 少年兵は地下に潜み、敵の襲撃に備えていた。一帯は天然の地下道が多く、防空壕に適している。安全地帯を探していた彼が見つけたのは、崩落した地下の建造物だった。

 武器や食料の類はないが、朽ちた大型機械と稼働している小型の記録端末だけが残っている。少年兵は興味本位で端末を拾い上げ、指先で弄った。

 バックライトが輝き、長い文字列が躍る。一読では理解できない無数の単語が視界を覆い、彼は思わず顔を顰める。数度の文字送り後、端末は一つの言葉を残した。


『怒り』


 少年兵は首を傾げた。


 遠くで上官の声が聞こえる。彼は慌てて端末の電源を切ると、再び戦場に戻っていく。


 その後、記録が読み返されることはなかった。

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我は罪の子 @fox_0829

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