親から子へ無意識に継承される暴力性を描いた本作は、感情的な爆発ではなく、“抑制”がむしろ加害性を育む様を克明に描く。
娘に怒りをぶつける母親は、暴力を否定しながらも自身の母をなぞるようにして“二の舞”を踏む。特筆すべきは、淡々とした筆致による自己嫌悪の描写であり、暴力の再演が恐ろしくも静かに進行していく点だ。
ラストの「私が踏んだのはレゴではない」という一文は、愛の仮面を被った支配や罪の重みを象徴し、読後に深い余韻を残す。
家庭という閉鎖空間で繰り返される“模倣の地獄”を、誠実かつ冷静に描いた良作。