人知れず世界を救った男

アイス・アルジ

人知れず世界を救った男(Mr. X)

 人知れず世界を救った男がいたと言われている。

 

 〝人知れず〟とは、誰一人にも知られなかったという事か? しかし、それならどうして噂が流れているのか? ネットで調べても、怪しい情報ばかりだ。その男の名前は判らない。

 そもそも、どの様にして、どの様な危機を救ったのかも判らない。神や、スーパーマンの様に特殊な能力を持っていたのか? (いや、神やスーパーマンは人間ではない) 天才的な科学者か? 政治家か? 大金持ちか? いやいや、ごく普通のサラリーマンや、農夫、学生だったかもしれない。その方がいかにも〝人知れず〟という感じがする。(しかし身近に家族、友人、恋人もいなかったのだろうか?) 〝人知れず〟とは? もしかしたら孤独な老人が死の間際に世界を救ったとでも? 馬鹿馬鹿しい想像ばかりが広がってしまう。

 

 その男の名前を〝Mr.ミスター X〟としよう。いや? 本当に男なのか、女だってあり得る。(その場合、〝Ms.ミズ X〟か? 男性女性の区別がない日本語の〝人物 X〟の方が都合がよいし、〝Mx.ミクス X〟もあるらしい。しかし〝Mr. X〟の方が、いかにもそれっぽいので、〝Mr. X〟としておこう)


 〝Mr. X〟は、何から世界を救ったのか?〝世界を救った〟と言うのだから、地球や人類の存亡に関わる重大な危機だったのだろう。私の知る限り、それほど大きな危機は、第二次世界大戦や東西冷戦くらいしか思い浮かばない。

 冷戦に伴うキューバ危機は核戦争の一歩手前だったと言われている。ただしこの危機を防いだのは当時のソ連書記長フルシチョフの決断(断念)だった(あるいは合衆国大統領ケネディの駆け引き)と言われている。しかしその陰に無名の〝Mr. X〟が存在したのかもしれない。


 †核戦争                 

 ――キューバ危機のように核戦争から世界を救ったのであれば、政治家だろうか。主要国の首脳、国連事務総長などが想像されるが、〝人知れず〟とい言うからには、地味な役職の職員かもしれない。 もっと無名な人、例えば、重大な軍事機密資料の忘れ物を見つけたホテルの清掃員や、盗聴器を偶然に発見した電気工事技師かもしれない。


 †パンデミック

 ――生物研究所から、危険な未知のウイルスが持ち出されるのを阻止した警備員かもしれない。研究者が自らウイルスを処分したり、実験を中止することで結果的に危機を免れた可能性だってあり得る。

 あるいは、看護師の献身的な対応で、感染の拡大が防止されたのかもしれない。 


 †国際的同時多発テロ

 ――国際的な同時多発テロを、事前に食い止めた防衛組織があったかもしれないし、諜報機関の盗聴や、通報によって察知されたのかもしれない。未だにテロ組織は撲滅されていない。衰えたとはいえ、世界的な危機となる様なテロ計画が実行される可能性はゼロではない。毒ガスや生物兵器による広範囲なテロが発生すれば、甚大な被害となることだろう。


 †第三次世界大戦

 ――ちいさな紛争が、やがて第三次世界大戦に発展する事もないわけではない。また、東西冷戦とは違う新たな国家対立も起き始めている。結局、権力争いに終わりはない。外交官の地道な貢献が、紛争の勃発を防いだのかもしれない。NGO(国際支援団体)やジャーナリストの活動が戦争を防ぐきっかけになったり、小説や音楽だって平和の維持に貢献できるだろう。 


 †人工爆発、食料危機

 ——人工爆発による食糧危機を救うためには、人口を抑制するか、食料の増産が必要となるでしょう。人知れず人口を抑制するとは? 人知れず、大量殺人が行われるという事か? 現在、世界人口は減少していませんが、多くの先進国の人口は減少に転じています。静かに、大量殺人が進行しているのかもしれない。(〝Mr. X〟とは殺人者なのか? 想像したくありません)

 食糧の増産は、バイオテクノロジーにより穀物の収穫量が画期的に増える品種が開発されるかもしれません。


 †世界経済崩壊

 ――人間は経済的生き物です。現在の経済システムが崩壊すれば、どれほど多くの被害がおこるでしょう。自然界の動物は生と死の生存競争の中に生きています。生き残る個体の裏には多くの死があります。しかしその死は別の生き物の糧となり、決して無駄にはなりません。死と隣り合わせの無慈悲な世界ですが、美しい世界でもあります。

 人間の死亡率は野生動物よりはるかに小さくなり、死を遠ざけてきました。生と死の生存競争を経済的競争に代えました。経済(お金)という競争世界では貧富の差が生まれます。人間の世界は必ずしも美しいとは思えません。死を遠ざけた代わりに美を失ったのです。世界の貧富の差は、ますます増大しています。

 今となっては、経済崩壊は人々の生死にかかわる災害に成り得ます。


 †現代文明崩壊

 ――かつて、多くの古代文明が原因不明の理由で滅びました。現代の文明が何らかの理由で滅ぶ事がないとは言い切れません。いや、すでに崩壊が始まっているのかもしれません。


 †量子加速器による時空崩壊

 ――〝人知れず〟というからには、もっと誰もが想像もしない危機だったかもしれません。粒子加速器による実験の危険性を指摘する人もいる。危険な実験によりマイクロブラックホールが生成され、時空が崩壊する。時空の崩壊とともに地球も消滅する。  

 実験装置の異常に気付いた研究者が、いち早く装置を停止したなんて事があったのかもしれない。


 †AI(コンピューターネットワーク)による危機

 ――AIが暴走する前にコンピューターを停止した研究者。大規模なシステム障害が起こる前に、国際的に重要なネットワークのバグを発見したエンジニア。世界規模のサイバー(ウイルス)攻撃を阻止したプログラマーなど。しかしまだAIの脅威は未確定だ。(AIが人間を排除しようとする様な、単純な脅威ではないだろう)


 †カルト宗教(ファシズム)の蔓延

 ――カルト宗教が世界的に蔓延するとは考えにくいが、カルト的思想がテロや政治(選挙)介入など、社会不安と混乱を引き起こす事が考えられる。

 人類全体がネットの影響で、しらずしらず、マインドコントロールされる事がないとも言えない。今では、ネット情報の操作によって、人類の共通意識まで無意識のうちに捜査される可能性がある。そうとは知らず、権力者と犯罪組織に加担することになり、良識ある人間が排除されるかもしれない。恐ろしい事だ、思考の多様性が失われ、ネットファシズムに支配された世界になるかもしれない。


 †小惑星衝突

 ――小惑星の衝突は、観測によって事前に察知できるだろうが。もしかしたら衝突直前まで見落とされ、天文学者あるいはアマチュア天文家が発見する事があるかもしれない。しかし、小惑星衝突を回避(軌道修正、破壊)する技術は確立されていない。


 †太陽フレア、恒星のガンマ線バースト

 ――太陽活動の異変観測(フレア発生予想)はできるだろうし、フレアによる高エネルギー電磁波や粒子線から避けるシェルターとなる建造物は多く存在している。しかしフレアが届くまでには、約8分しかない。巨大なフレアに襲われれば広範囲にわたる被害が発生するかもしれない。

 遠くの恒星のガンマ線バーストは察知できない。もしガンマ線バーストに襲われれば、地球上のほとんどの生物が絶滅するかもしれない。


 †地球外生命の襲来

 ――まさかUFOの襲来の様な、ほら話が実現するはずがない。地球外知的生命の兆候は見つかっていないし、地球に襲来する事はありえないだろう。(しかし、既に来ているという噂話はある。もしや、人類を救いに来ている宇宙人が〝Mr. X〟? 都合がよすぎる)


 †火星移住

 ――今までいくつか書いた様に、全人類が結束しても、逃れられない災厄の可能性はあるでしょう。そんな悲劇が起こった場合、もし火星への移住が実現していれば、全人類の滅亡は避けられるかもしれません。しかし火星移住は、まだまだ先の事になるだろう。(火星移住の推進が、人類を未来に存続させる事になるかもしれません)


 †巨大火山噴火

 ――巨大な火山噴火が起これば、地球全体の寒冷化がもたらされる。数年間は被害が続くだろう。過去に起こった生物の大量絶滅、その原因の一つとも言われている。


 †地球磁場の消滅

 ――地球の磁極(S/N)は過去、何度か反転したそうだ。その時、磁場が消滅する期間がある。磁場が消滅すると、有害な宇宙線が降り注ぐ。


 †氷河期の到来

 ――氷河期の到来理由は明確ではないが、地軸のわずかな変動、太陽活動の低下がその一つだろう。そろそろ氷河期が到来しても良いころだとも言われている。


 †植物の滅亡

 ――気候変動や、未知の病気などにより、植物の大半が死滅したら、ほとんどの生物が死滅する事になるだろう。


 †DNAの変異

 ――DNAの突然変異により、致命的な影響が出る。致命的な影響が出た個体は生き残れず、そのDNAは引き継がれない。後世に引き継がれる突然変異は、むしろ有益な変異だろう。有害な突然変異が同時多発的に起こるとは考えられない。


 †ストレスによる不妊症

 ――現代社会は産業革命以後、急速に変化した。現代社会に生きる人々は膨大なストレスにさらされており、そして日々、ストレスは増大し続けている。すでに適応できるスピードを超えているのかもしれない。このストレスが引き金となり、原因不明の不妊症が蔓延する。


 †白痴化(学習障害)

 ――文化、科学の発展によって、子供のうちに学習しなければならない物事は格段に増え続けている。また記憶や知識をパソコンやAIに頼るようになるだろう。ストレージに保存されるデータも指数関数的に増大してゆく(世界はストレージセンターに埋もれる)。やがてデータの量が処理能力を上回ると、処理ができなくなり、人類の蓄積してきた知識が失われる。

 あるいはAIやネットに頼り過ぎるあまり、人々の思考が停止し虚実の判断ができなくなる。人類が持ち得ていた倫理感や善悪の感情が失われ、欲望(犯罪行為)に支配された世界が出現するかもしれない。こうして、人類全体が白痴化してゆく。(まさに狂気の世界だ)実はこれが最も根深く、密かに迫りつつある脅威かも知れない。


 †地球温暖化、気候変動

 ――温暖化、気候変動により、地球環境が危機的状況に陥る可能性が高まっている。しかし、これはまだ現在進行形の危機であり、この危機を救える〝Mr. X

〟がいたとは思えない。将来、救うことになる〝Mr. X〟が、すでに生まれている可能性はある。


 †環境汚染

 ――深刻な環境汚染は減ってきているが、マイクロプラスチックの汚染が全地球に広がっている。その影響はまだ明確になっていないが。今後、生物全体に深刻な影響を与えるかもしれない。


 †バタフライ効果

 ――〝Mr. X〟は、あなたかも知れない。あなたのちょっとした行動がバタフライ効果となって地球全体を救ったのかもしれない。あなたがゴミを拾ったり、食べ残しを減らしたり、環境保護の事を考えてふと立ち止まっただけでも、やがてあなた自身(誰一人)でさえ気づいていない、大きな効果を及ぼすかもしれないのです。

 もしあなたが〝何か疑問〟を感じたら、ほんのわずかな一歩でも踏み出してみてください。それがバタフライ効果となって、全世界に影響を与える事になるとしたなら、それこそが本当に〝人知れず〟世界を救っている行為かもしれません。







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