私たちの青春ラプソディ

ハルカ

この日の出来事は同窓会でも語り草

 人はよく見かけるものに親しみを抱くという。

 そこで私はひらめいた。大好きな早坂君の視界に入れば少しは意識してもらえるかも。

 さっそく行動に移した。教室に入るときは前の入口から。移動教室では早坂君の前を歩く。席替えでは横の席ではなく前方の席を狙う。

 あと早坂君は陸上部だから、自分の部活が休みの日は練習を見に行ったりもした。


 でも、しばらくして私は気付いた。

 早坂君の姿を探すたびにいつも同じ女子が視界に入る。


 同じクラスの小野さん。

 可愛い顔。スタイルもいい。たしか英語が得意だったと思う。

 早坂君を見つめる小野さんは、恋する乙女そのものだった。


 私はキュンとした。

 少女マンガやドラマの世界じゃない。私の目の前で、恋が生まれている。

 これはもう自分の恋愛そっちのけで二人を見守らねばと思った。


 それなのに、早坂君はあまりにも鈍感だった。

 小野さんの必死のアピールもどこ吹く風。

 ええい、もうじれったい! 私が恋のキューピッドになる!


 私は早坂君に話しかけてみることにした。

 以前は恥ずかしくてとても話しかけられなかったのに、級友の恋がかかっていると思うとなんかスッといけた。


「ねえ早坂君。最近小野さんと仲良いよね?」


 これよこれ。事実がどうあれ、まずは名前を出して意識させる作戦だ。

 だけど早坂君はアッサリ否定した。


「いや、小野さんは同じ委員会だから、それでよく話すだけだよ」


 えっ! 小野さん、好きな人と同じ委員会になるなんてめちゃ頑張ってるじゃん!

 それなのに早坂この男はっ!


「小野さんって可愛いよね~?」

「そう? もしかして大越さんって俺と小野さんのことが気になる感じ? 俺に気があったりしちゃったり? な~んて、ははは」


 はははじゃねーよ。

 今は小野さんの話だろ!


「やだ~、早坂君ったら!」


 その場は冗談めかして乗り切った。

 でも、小野さんの気持ちを私が勝手に伝えるのはマズいよなあ。頭を抱える私。

 そしたら放課後、小野さんからお呼び出しをいただきました。


 学校の屋上といういかにもベタな場所。

 演劇部や天文学部など一部の生徒だけが立ち入りを許可されてる場所だけど、私が演劇部なので部長から鍵を借りてきた。

 小野さんは思いつめたような顔で私を見ている。


「……あの、違ってたらごめんね? 大越さんって早坂君のことが好きなの?」

「ち、チガウヨ?」

「ううん。私しってる。大越さんって早坂君のことよく見てるよね。それで早川君もたぶん……」

「ちっ、違うの! 本当に違う、誤解なのっ!」


 私、なんで浮気の言い訳みたいなことしてるの!?

 小野さんは生まれたての小鹿みたいに小さく震えてる。

 そっか、緊張してるんだね。彼女からしたら私は「好きな人の好きな人」だもんね。

 私は演劇部で培った技術で「優しい級友」を演じてみせる。


「私は、小野さんが早坂君のことを好きなんだと思ってるんだけど?」

「……ううん、もういいの。大越さんのほうが早坂君とお似合いだもの」

「そ、そ、そんなことナイヨ!?」

「私、応援するね!」


 それだけ言って彼女は走り去ってしまった。

 なんてこった。私は呆然と空を見上げる。いい天気だなあ。

 現実逃避してたら、なんと屋上に早坂君が登場した。


「……大越さん、俺に用事があるんだって?」


 おいおいおいおいちょっと待て。

 小野さん、なんでこんなお膳立てなんかするの?

 早坂君、勘違いしちゃってるじゃん! これはあかん。期待100%の顔ですわ。

 しかもジャージ姿だよ。きっと部活中にルンルンで抜け出してきたんだろうな。

 でもごめん。今、私は恋のキューピッドなんだ!


 私は鈍感男を無視してフェンスに駆け寄り、昇降口のあたりに視線を向ける。

 ちょうど帰ろうとしている小野さんの姿が見えた。ナイスタイミング!

 こころなしかしょんぼりしているその背中に、大声で呼びかける。


「小野さぁん! 待って!」


 見よ、演劇部で鍛えたこの声量!

 小野さんだけじゃなく、下校中の皆さんも部活動に勤しんでいる運動部の皆さんも花壇の世話をしている環境美化委員の皆さんもみーんな注目してる!


 とりあえず小野さんは足止めした。

 さて、勝負はここからだ!


「早坂君、今すぐ小野さんを追いかけなさい!」

「う、うん?」

「走れっ!」

「ハ、ハイ!」


 鈍感男を見届け、私はふたたび下に向かって叫ぶ。


「小野さん! さっきのアレ、誤解だから! 諦めなくていいからね!」


 小野さんの目が大きく見開かれる。ああ、やっぱり可愛いなあ。

 早坂君と幸せになってね。今、全速力でそっちに向かってるから。

 と思ったら、もう姿が見えた。さすがは陸上部!

 小野さんが早坂君と何か話しているのが見える。


「おっ、なんかいい雰囲気?」


 小野さんがこっちに手を振ってる!

 よく見ると早坂君が小野さんの手を握ってる!

 あいつめ~、私に告白されたら満更でもないくせに。

 まあ、丸く収まったからいっか!


「やっぱりお似合いだよな~」


 私はそっと二人を見守る。

 さっきから校内放送で先生に呼び出されてるけど、今は少し余韻に浸ろう。

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