新米女神の一日

百鳥

新米女神の一日

 ――あらあら、どうしましょう。わたくし、うっかり人間を殺してしまいましたの。



 新米女神あるあるとはいえ、初日から人違いなんて悲しいですわ。

 もうすぐ死んだ人間がこちらへやって来ますの。わたくしのミスとはいえ、「なんで俺を殺したんだ」なんて怒鳴り込まれたら最悪ですわ。おやつのケーキがまずくなってしまいますもの。


 でも、こんな時のために新米女神には業務マニュアルが配布されていますの。さすがは優良企業と名高い天界ですわね。死んだ人間はもちろん、精神的ショックを受けた女神にも手厚いフォローが約束されていますのよ。


 さて、こちらのマニュアルによると……間違えて死なせてしまったのが殿方の場合には、露出が多い服に着替えた方が良いみたいですわね。なるほど、クローセットにあったスケスケの衣装はこのためでしたのね。前任の趣味でなくて良かったですわ。


 少し恥ずかしいけれど、これが終わったらご褒美に旅行チケットがもらえますの。わたくし、頑張りますわ。それにしても、この服、着替えるのにこつがいりますのね。この紐も何のためについているのかしら?



「あの、女神様……」


 あらあら、どうしましょう。

 着替えに奮闘している間に、人間が来てしまいましたわ。まだ下着を着けていないというのに仕方ありませんわね。そういう服ということにしておきましょう。


 それにしても、トラックに轢かれたというのにずいぶん元気そうな人間ですわね。お猿さんみたいに顔を真っ赤にさせて、目をギラギラと輝かせていますの。


「あの……これって異世界転生ですよね?」


 わたくしの目ではなく胸部を見ながら、人間がにちゃりと笑いましたわ。少々虫唾が走る……いえ、個性的な人間ですけど、話が早いところは助かりますわね。


「お、俺、四十年間彼女がいなかったんですけど……でも、つい最近、同じバイトの女子大生と良い感じになったんです。女神様ほどではないですけどおっぱいも大きいし、顔も悪くなかったのに……どうしてこんなことに……」


 前言撤回。聞いてもいない話をしゃべりはじめた上に、なぜか泣きはじめてしまいましたわ。大変見苦しいですけれど、旅行先ではカニの食べ放題が待っていますの。話が終わるまでしばしの我慢ですわ。


「(中略)……ということで、チート持ちの暗殺者でお願いしたいです。あっ、もちろん、女の子たちにモテモテなのも忘れずに(笑)」


 業務マニュアルによると、間違えて死なせてしまった人間の希望はなるべく叶えた方が良いらしいですの。ですから、今回は天界の方針に従いますけれど……なぜかしら? わたくし、この人間の言う通りにしたくありませんわ。そもそも、話が長すぎておやつの時間が過ぎてしまいましたの。


 とはいえ、わたくしもプロの女神。仕事に私情は持ち込んだりいたしません。それに、後はもうこの人間を異世界に転生させるだけですもの。とっとと窓から地上に突き落とすに限りますわね。



 はあ……それにしても、初日とはいえ本当に疲れましたの。

 後は、部屋の換気と掃除だけですわね……明日になれば女神見習いが掃除をしにやって来ますけど、それまで部屋が酸っぱいのにはさすがに耐えられませんもの。


 と、その前に女神たるもの業務用スマホのチェックをしなくてはいけませんわね。今は天界でもデジタル化が進んでいますの。未読メッセージを確認して……って、ちょっと待って。嘘ですわよね。


 トラックに轢かれたのは一人じゃない? 今からやって来るですって?

 

 初日から残業なんて冗談じゃありませんわ。最低でも、露天風呂付き客室にグレードアップしてもらいますからね。

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