命夢

OROCHI@PLEC

命夢

 私はその時、深く暗い夢を見ていた。

 そこには、何もなく、何も見えなく、何も感じることができない。

 

 しばらく私はそこに浮かんでいた。

 何も考えず、ただ夢を見ていた。

 

 そして突然ふっと思う。

 つまらないと。

 ここから抜け出したいと。

 

 その瞬間、その空間に光が差し込み、そしてその光は少しずつ大きくなっていく。

 私は目を閉じた。


 次に目を開けた時、そこは街中だった。

 そこでは、一人の少年が、もう一人の少年に告白していた。

 その世界では、色々なことが禁じられていて、同性愛もタブーであった。

 

 それでも、その少年は意志を貫いていた。

 そして、熱く燃える心を持っていた。

 もう一人の少年は、その告白を受け入れていた。

 

 自由な意志と心を抑圧しようとしていた世界。

 それでも、二人は、強く、限りない意思と心を持っていた。

 私は光に包まれる。


 次に目を開けた時、そこには近未来的な街並みが広がっていた。

 でも、そこに人はいなかった。

 全員ロボットになっていた。

 

 感情も意思も何もなかった。

 全てが効率化された世界。

 それでも、そのロボットたちからは何か心を感じた。


 また光が視界を覆い尽くし、私は目を閉じる。


 次に目を開けた時、そこでは人と人が戦っていた。

 ボタンが一つ押されるとそれに呼応して、数えきれないほど人が死に、別のボタンが押されると、数えきれないぐらいの人が生み出された。

 彼らは心が壊れているかのように躊躇なく突撃していった。

 

 人の命が、何よりも軽い世界。

 それでも、彼らたちからは、狂気とも言えるほどの強い生への執着を感じた。


 同じことがまた起こり、私は目を閉じる。


 次に目を開けた時、そこは宇宙船の中だった。

 彼らは謎の生物に向かって、特攻をしていた。

 船にはたくさんの爆弾が積んであって、中の人は泣いていた。

 

 でも、彼らは引き返そうとしなかった。

 彼らの後ろには愛する人がいたからだ。

 無謀とも言える作戦に命が使われた世界。

 それでも、彼らには深く、命より重い愛があった。


 次に目を開けた時、そこは全てがある理想郷だった。

 食べ物もあり、水もあり、家があって、娯楽もあって、刺激もある。

 そこにはなんでもあった。

 

 でも、その人たちからは感情も、意思も、心も、愛も、生への執着も感じなかった。

 楽しそうに暮らしてたけど、私はその世界をとてもつまらないと思った。

 その人たちは空っぽだと感じた。


 そう思った時、今までとは違う、少し大きな光に包まれた。

 

 目を開けた時、そこは砂浜だった。

 そして目の前には不思議な光景が広がっていた。

 

 今まで見てきた景色が全て混じって、幻想的な色となったものが、空に浮かんでいる。

 同じ空間に夜空があり、夕日があり、そして海がある。

 

 その海は、波が激しい海であり、波一つない、優しい海でもあった。

 ふと、後ろを振り返る。

 そこには、私の人生があった。

 

 黒く、汚く、醜い、見たくもない人生。

 それを見ていると自分が壊れてしまうような気がして、私は思わず目を背ける。

 

 目を背けた先には、なぜか髪飾りがあった。

 それには不思議な色の宝石がついていた。

 それを見つめていると、不思議な気持ちになる。

 

 五つの世界を見てきて、私が感じたことがギュッとつまっている様な気持ち。

 その気持ちは、とても心地よかった。

 私はその髪飾りを手に取り、それできつく、髪を結ぶ。

 

 私は以前、ここで歩みを止めた。

 でも、私はまだ歩きたい。

 そう思えるのはこの髪飾りのおかげだろうか。

 

 私は笑う。

 

 そして私は恐る恐る、小さな一歩を踏み出そうとする。

 それが何を意味するのかを知っていながらも、足を震わせながら、宙に足を浮かべる。

 目の前には広く、果てしない無限の海が広がっていた。

 

 おそらく、その時私が見たのは未来だったのだろう。

 そして、過去と決別し、新たな一歩を強く踏みしめるこの瞬間は、私の人生を変える分岐点なのかもしれない。

 過去は無くせない。

 だけど、前に進むことはできる。


 刹那的な浜風が後ろから前へ吹き抜けてゆく。

 きつく結んだ髪と決意は私の小さな一歩を強く後押しした。


 水平線に沈む夕陽と夜空の星が混在する不思議な時間の狭間で、私は確かに息をした。

 

 そして私は目を閉じる。

 

 そして私は叫ぶ。

 

 と。

 







 、と私の心臓が鼓動し始める。

 そして少しずつ、だけど確かに、鼓動は早くなっていく。

 

 カッと心臓が燃えるように熱くなる。

 ドクン、ドクン。

 私は生きているのを感じる。

 

 そして、夢の世界が壊れていく。

 意識が浮上していくのを感じながら私は思う。

 もう少しだけ、生きてみようと。

 

 これからの人生、逃げるし、悪いこともするし、人に迷惑もかけるだろう。

 でも、もう少しだけ歩んでみる。

 外で、ピー、ピーと病院特有の音が鳴り響いているのが聞こえる。

 

 私は笑顔を浮かべる。

 不思議と、何かを右手に掴んでいるような気がした。

 それはとても暖かかった。

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