私の人生に必要な声「坂本真綾」
木谷日向子
第1話
私の推しは、坂本真綾さんだ。彼女は、声優、女優、歌手、エッセイスト等、あらゆる方面で才能を見せて、ご活躍されている。どの活動も好きだが、特に歌手としての真綾さんに惹かれ、今日まで10年以上ファンを続けている。
真綾さんの良いところは、その声質と、豊富な語彙力の中から選ばれて発される言葉にある。透明な水のひとしずくが、声のひとつひとつに宿っていて、耳が音を拾う、最も心地よい場所に落ちてくる。
ご自身で紡がれる歌詞は、誰もが人生を過ごす中で感じる、何気ない日常の幸福感や悩みを、自然な言葉で書きながらも、どこか独自の哲学を感じさせる。耳障りがよく、肌に染み込むあまい水のような、やわらかいけれど、しっかりとした発音の歌声によって、その歌詞が届けられ、気づけば何年も、何十年も繰り返し聴いてしまっている。
年を取るごとに、ファッションや読書、映画の趣味は変わってしまうのに、彼女の歌は不思議と飽きが来ず、慣れ親しんだ好物のように、何度も日常の空気の中をたゆたっている。そのたびに、新しい魅力を発見して、体がよろこびを覚える。
すきになったきっかけは、幼少期に見ていたアニメ「カードキャプターさくら」のオープニングテーマであった「プラチナ」からだった。華やかだけれど、どこか切ない映像とあいまって、未来への希望と不安をはらんだうつくしいこの歌は、幼い私の記憶の中に、あざやかに刻まれた。
子供時代が終わり、一度離れていたが、大学生のときにふたたび、真綾さんの音楽がすきな自分が戻ってきた。当時は激しく感情をゆさぶるロックがすきだったが、飽き性の私は、申し訳ないことに、何度か同じ曲を聴くと、飽きてしまって、すぐにまた別の、未だ聴かぬアーティストへと、ころころ気持ちが移っていた。
地元のTSUTAYAで、次はどのアーティストのアルバムを聴こうかと悩んで、色々な棚を物色していたときに、行き着いたのが、「坂本真綾」だった。なつかしい。今年でもう、20周年なんだ! と、店員さんの愛のこもったキャプションを読んで驚き、過去から現在までのアルバムを、衝動で一気に5枚借りてしまった。パソコンからiPodに入れて、通学中に聴いてゆく。ひととおり曲を聴いたら、またいつものように飽きて、別のアーティストを探す音楽の船を漕ぎ出すのかと思っていたが、彼女の歌声は、なぜか飽きが来ることは無かった。
それから、さいたまスーパーアリーナで行われた、『坂本真綾20周年記念LIVE“FOLLOW ME”』に、ひとりで足を運んだ。初めて行く真綾さんの、声も演出もお姿もきらきらとかがやくLIVEにひどく感動し、新譜が出るたびに購入して聴き込んだ。
彼女の声と、大人になってふたたび巡り合い、自分が聴いていて一番心地よく、落ち着く音を、理解できた。それを知るために、色々なアーティストの声の海を泳ぎさまよっていたのかもしれない。今は他にも、たくさん大好きなアーティストが安定して存在するが、心落ち着きたいときは、必ず真綾さんのところへ戻って来る。
コロナ禍になる前の、2019年に東京国際フォーラムで行われた、『LIVE TOUR 2019 「今日だけの音楽」追加公演 COUNTDOWN SPECIAL』 にも足を運んだ。LIVE前に、ファンの人同士の大規模な交流会があり、そこで知り合った女性3人とは、そのLIVE後に徹夜で真綾さん縛りのカラオケ会をして、その後もLIVEがあるたびに、来ている人同士で連絡を取って再会しあう仲になった。真綾さんのファンになったことで、普段の生活では出会えない、新たな友人ができた。
毎週金曜日に放送されている真綾さんのラジオ『ビタミンM』も欠かさず聴いている。何通か送ったメールを読みあげていただいたこともある。真綾さんの声で、自分の書いた文章が朗読されているのは、何度聴いても新鮮な感動がある。その中で、当時悩んでいた恋愛についての悩みを投稿させていただいたことがあった。長文だったので、選ばれるはずがないと思っていたのだが、選んでくださって、真摯にアドバイスをくださった。聴きながら時が止まったように感じ、気づけば涙があふれていた。そのとき、このひとに一生ついていこうと、静かに決意した。アドバイスのあとに、選曲してくださった「SAVED.」は、大切なお守りの曲として、ずっと聴き続けている。
くらやみのときも、ひだまりのときも、彼女の言葉を聴くだけで、この上ない幸福感に包まれ、未来がどうなるかわからなくても、今この瞬間を生きる力を与えてもらえる。
「SAVED.」の歌詞に書かれているように、いつかは終わる毎日の中で、確かにそばにいる真綾さんの曲を、人生のともしびにかかげて、これからも日常を歩み続けたい。
私の人生に必要な声「坂本真綾」 木谷日向子 @komobota705
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