便せんに綴る、君への想い

ヨリ

便せんに綴る、君への想い

 ゴミ箱が繋いだ、小さな縁。

 私が歩いた、恋という名の、茨の道。

 そして、その先に咲いていたのは――あなたという運命だった。


 あなたを好きになったのは、いつからだろうか。

 気がつけば、目であなたを追っていた。

 いつの間にか、あなたのことばかり考えていた。

 今まで恋をしたことがなかった。自覚をしていなかっただけかもしれない。

 あなたの存在が、私の心にぽかぽかとした日だまりを作っていた。

 どこかで会ったことがあるような、不思議で懐かしい気持ちになった。


「これが恋なのかな?」


 意識をすればするほど、あなたへの感情は加速していった。

 サッカー部で背が高くて、顔もいい。

 勉強もできるし、優しさまで備えている。

 裕樹ゆうきくんは、中学生の私たちにとって、まぎれもない“王子様”だった。


 恋バナをすると必ず登場する王子様。


「抜け駆け禁止ね!仲良し同盟だからね!」

 ふざけたようで、本気のルールだった。

 好きなのに告白することも、仲良くなりすぎるのも許されない。破れば、友達をやめると言われるかもしれない。


 むしろ、その状況が私の恋心を刺激し、激しく燃え上がろうとしていた。


 ◇◇◇


 私の家は厳しかったため、スマホを持つことは許されていなかった。


「スマホは、大学生になってから!」


 お母さんにいつも言われていた。恋愛を考えると、アプリが使えないのは、かなりの痛手だった。


 裕樹くんが私じゃない人と仲良くデートをする。ちょっと想像するだけで胸の奥にチクッと痛みが走る。

 他の人に取られたくない。裕樹くんは私だけのものにしたい。

 これが、独占欲――なのかもしれない。

 でも、その気持ちを認めた途端、私の心は動き出した。


 どうやって気持ちを伝えれば振り向いてもらえるだろうか。

 電話や直接会うことも考えた。

 でも……。ちょっと恥ずかしくて、勇気が出なかった。


「ラブレター、書いてみよう」


 一番素直に、気持ちを伝えられる方法かもしれない。

 自分に、嘘はつきたくなかった。

 同盟宣言を前にしても止めることはできない。

 ブレーキの壊れた列車みたいに――。

 走り出した私の恋心は、もう止まらなかった。


 どうしても、誰かに背中を押してほしかった。

 私が頼ったのは、最強のお姉ちゃんだった。


「手紙を書くとしたら、どんな便せんがいいかな」

「誰に書く手紙なの?友達?」

「ん~ん。違う。好きな人」


 カランッ。

 アイスのスプーンが床に落ちる音が、空気を変えた。

 恥ずかしさでそらしていた目線を、慌ててお姉ちゃんに向ける。お姉ちゃんは、目をまん丸にしてこちらを見つめていた。


「りほっ!?……好きな人、できたの!?」

 お姉ちゃんの声が、まるで花火が打ち上がったみたいに弾けた。

「うん……!」

「初恋だよね」

「そう……」

「そっか!そっか!いいね~!じゃあ、一緒に便せん買いに行こうよ」


 お姉ちゃんに相談して良かった。心からそう感じた。お姉ちゃんは、大学1年生で私の4歳上。中学生の私にとって、お姉ちゃんは最強で、誰よりも頼れる存在だった。


 ◇◇◇


 幼いころ、私は夜トイレに行くのが怖くて仕方なかった。


 横で寝ているお姉ちゃんを起こせば、一緒に歌を歌いながらついてきてくれた。「女の子らしくない」と言われても、私はその戦隊の歌が大好きだった――。


『僕らの正義は、ただひとつ!力を合わせて、戦うんだ!』


 私のお気に入りのフレーズ。

 お母さんには、うるさいって怒られちゃったけど、お姉ちゃんの歌声を聴くと何でもできる気がした。

 本当に、何でもできる気がした。

 私は、お姉ちゃんが大好きだった。


 ◇◇◇


「私のバイト代で払うから好きな便せんを買おうよ!」


 私の恋に、誰よりもはしゃいでいるお姉ちゃん。

 それが、なんだか少し照れくさかった。

 街中は、クリスマスソングで溢れていた。

 寒い晴れた空の下をカップルがくっついて歩いている。

 こっそり、私と裕樹くんをそこに重ね合わせた。

 真冬の空気が、心の焚き火でやわらかくほどけていくようだった。


「クリスマスか~、彼氏のひとりやふたり欲しくなる季節だよね~」

「彼氏は1人が良いよ」

「ちょ、真面目に答えないでよ~。私が恥ずかしいじゃん!いいな~彼氏。私も欲しいな~」

「まだ、彼氏になってないから……」


 大好きなお姉ちゃんがこんなに応援してくれているんだ。うまく行くに決まっている。失敗の2文字は、頭から逃げていった。


「これとか良い感じじゃない?」


 花束のイラストで装飾されている綺麗な便せん。

 見た瞬間、心がふわりと浮かんだ。

 私の言葉を運んでくれる、大事な相棒。

 一目惚れした。


「書き直しできるように多めに買ってあげる」


 棚からそっと取り出して、両手で包むように持った。

 まるで宝物みたいに、大事にかごへ入れた。

 なぜだか、そうしなければならないと思った。

 仲間なんだからーー。

 

「よろしくお願いします」

 

 1つ1つに挨拶をしながらかごの中に入れる。

 この瞬間から、君は私の“戦友せんゆう”だよ!

 味方が増えて、恋が加速したように感じる。


「よし!書こうか!」


 お姉ちゃんが私の部屋までやってくる。

 静かに1人で書きたいのに、そっとしてくれない。

 ちょっとうっとうしいけど、そんなお姉ちゃんが心強かった。


 何枚も書き直した。

 字が少し汚いかな?改行、おかしくないかな?

 どんなことでも不安になった。


 『好き』——たった二文字のこの言葉を、何度も書いては消した。

 少し恥ずかしかった。


「自分の気持ちを素直に書けばいいよ。気持ちが入っていれば、字が汚くても改行が変でも大丈夫だよ」


 お姉ちゃんが、静かに応援してくれる。


 便せんも残り数枚、どうにかかき上げることができた。あとは、渡すだけ。想像すると心臓が止まりそうだった。

 受け取ってくれなかったらどうしよう。

 笑われたらどうしよう。

 バカにされたら……そんなことばかり考えてしまう。


「こんなかわいい、私の妹を振る男なんかいないよ。もしいたら私が殴り飛ばしてやる」


 準備運動をしながらお姉ちゃんが息巻いている。

 ここまでされたら、頑張るしかないか。

 夕日すらも、私をそっと応援してくれるように、カーテン越しに差し込んできた。

 寒空の下の唯一の暖かさ。周りの全ての物が応援してくれていた。

 約束を破ることへの恐怖心は、すっかり消えていた。


 ◇◇◇


「白馬の王子様って知ってる?」


 寝られない私にお姉ちゃんが、話しかける。


「私ね……白馬の王子様に、もう出会っちゃったかもしれない」

 

 お姉ちゃんは、小さく笑って、目を細めながら、遠くを見るように話していた。

 小学校低学年だった私にはよく分からなかった。でも、お姉ちゃんの表情は輝いて見えた。


「ピンチの時に駆けつけてくれる男の子を探すんだよ!それが、りほの王子様だから」


「わかった!」


 幼かった私には、何が分かったのか分からない。

 でも、たしかに、分かった気がした。


 ◇◇◇


「りほ!おはよう!」


 教室に入ると、隣の席の裕樹くんが、笑顔で声をかけてくれた。

 朝練終わりだろうか。爽やかな制汗剤の香りが私の鼻をくすぐる。この匂いでいつも裕樹くんを思い出す。


 佳歩ちゃんが来る前に手紙を渡さないと。

 この瞬間だけは、ばれたくない。

 誰にも邪魔はさせたくなかった。

 早くしないと!

 心臓が、まるで全身で叫び声をあげているみたいに、どくんどくんと暴れていた。


「裕樹くん!あのさ……!」


 やっと声が出た――と思ったその瞬間。


「おはよう~」


 私の勇気を打ち消すような最悪のタイミング。

 佳歩ちゃんの声が教室の入り口から聞こえる。

 小学校では、毎日一緒で、いつも優しかったのに——。

 今の佳歩ちゃんは、“ボス”みたいな存在になっていた。


 一瞬が、永遠みたいに感じた。彼女の影が視界の隅に揺れただけで、身体の感覚が消える。


 そっと制服のポケットにラブレターをねじ込む。


「りほちゃんもおはよう」


 佳歩ちゃんのトーンがどこか低い。その声色に、どこか探るような鋭さが混じっていた。おそらく何かに、気がついているのだろう。昨日、もらった勇気も何もかもが隠れてしまった。


 最悪だ。あの子の目が、心の奥まで見透かしてきた気がした。


 言い訳も、逃げ道も思いつかない。ただ、胸がぎゅうっと締めつけられて、息がうまく吸えなかった。


「……おはよう、佳歩ちゃん」


 挨拶を返しながら私は、教室から飛び出した。このままじゃダメだ。恐怖で逃げ出したくなった。


『ガサッ』


 気がつけば私のラブレターは、私の手でゴミ箱の中に押し込まれていた。


「お姉ちゃん、ごめん」


 ラブレターと共に勇気も応援もゴミ箱に押し込んでしまった。でも、これでいい。同盟を破らなかったんだから、大丈夫。喉の奥が熱くなって、こぼれそうな涙を奥歯で押しとどめながら、私はまた席に戻った。


 教室に佳歩ちゃんの姿はなかった。


「助かった……」


 心から安堵が漏れ出た。

 少ししたら、佳歩ちゃんが帰ってきた。こちらを鋭くにらんでいるが、今の私には何もやましいことはない。

 はずだ――。

 

『キーンコーン』

 

 チャイムがなり、朝礼が始まり、いつもと同じ今日が始まった――ように感じていた。


 ◇◇◇


 終礼が終わって、みんな自分の日常へと戻っていく。

 廊下のざわめきが遠くなっていく中、

 後ろから声が、すっと首筋に触れた。


「譲る気はないから。りほ。覚悟しておいてね」


 ばれていたのだろうか。朝の恐怖が再び私の心を占領する。


 まずは、話をしよう。

 佳歩ちゃんを探したが、既に姿はなかった。


「りほ!おかえり!」


 家に帰るとお姉ちゃんが出迎えてくれた。ラブレターの結果を楽しみにしているのだろうか。目が輝いている。安堵と罪悪感で涙がこみ上げてきた。


「振られちゃったの?」


 優しくお姉ちゃんが私の肩を抱き寄せる。暖かい太陽の香りがした。


「ごめんなさい……渡せなかった……」


 思いっきり泣いた。嗚咽をこぼしながら、今日あった不安をお姉ちゃんにぶつけた。静かに全て聞いてくれた。


「頑張ったね」


 一言、お姉ちゃんは私に伝えるともう一度強く抱きしめてくれた。抱擁に包まれて、私は思い出した。

 私には、最強の味方がいることを。


「手紙って、たとえ届かなくてもね。不思議と“書いた気持ち”だけは、ちゃんと伝えてくれるんだよ。だから、大丈夫」


 お姉ちゃんの優しい言葉が心にじんわりと溶けていく。

 今日もまた、お姉ちゃんの魔法が、私の心をそっと包んでくれた。

 静かで、あったかくて、誰にも真似できない魔法。

 たとえまた怖くなっても、この魔法があれば、私は——きっと、大丈夫。


 ◇◇◇


「りほ!おはよう!」


 教室に入るといつもと変わらない裕樹くんが笑顔で出迎えてくれた。

 佳歩ちゃんは、まだ来ていない。正直今日は会いたくない。


「裕樹くん、おはよう」


 無理やり口角を上げたけれど、頬の筋肉がぎこちない。笑顔がうまく貼りつかない。好きな人に、こんな不安な自分は見せたくなかった。胸の奥が、ざわざわと騒がしくて落ち着かなかった。まるで、自分の中に嵐が棲みついてしまったみたいだった。


 どれくらいの時間が経っただろうか。

 

「話があるからさ、朝礼の後、下駄箱で待ってるね」


 佳歩ちゃんの声で現実に戻される。佳歩ちゃんはそれだけ伝えるといつものグループに戻ってしまった。何が起こるのだろうか。不安すらも覆い隠すような暗い感情が私の心の中を支配していくのが分かった。


 いつの間にか足が動いていた。記憶がぼやけていて、気づけば下駄箱の前だった。朝礼の先生の話も何も頭に入らなかった。


「……遅いじゃん」


 そう言って、佳歩ちゃんは腕を組んで睨みつけてきた。


「ちょっとは反省した?」

「反省……?なんで……?私、何かした?」

「何かした?りほ、ふざけてるの?」


 真剣な顔で佳歩ちゃんが私を責め立てる。何かしてしまったのだろうか、ラブレター以外の心当たりがない。しかも、そのラブレターは教室から離れたゴミ箱に捨ててもう手元にはない。


「これを見ても分からない?」


 佳歩ちゃんがポケットから1枚の紙切れを取り出す。

 見覚えのある便せんを。

 私の鼓動が耳の奥でドクドクと鳴った。なんで――なんで、それを。


「それ、私ゴミ箱に捨てたのに……」

「りほの様子がおかしかったから、何を捨てたか確認したの」


 一気に血の気が引いていく。

 私の中で何かが崩れ落ちた。秘密だったはずの“好き”が、誰かの手の中にある。告白しようとしていたのも何もかもばれていた。私の味方が佳歩ちゃんに奪われてしまった。


「返してよ……!」


 声が思わず震えた。手が汗ばんで、心臓がまた、痛いくらいに暴れ出す。

 私の、大切な恋心。

 お姉ちゃんと選んだ便せんに込めた“初めて”の気持ちを、勝手に奪うなんて。

 悔しさと怒りがごちゃまぜになって、喉元でぶつかり合っていた。


「無理」


 私の怒りを押し返すように佳歩ちゃんが強く言い放つ。

 キッと私をにらみつけこれ以上譲らないと、強い意志を感じる。


「どうしたら返してくれるの?」

「私の言うことを聞くなら良いよ」


 私とお姉ちゃんの想いが詰まったラブレター。一度は捨ててしまったが、返ってくるなら何でもしよう。

 強く心に誓った。


「……何をすれば良いの?」

「そうだね~。1週間、裕樹くんと会話しないでよ」


 楽しそうに佳歩ちゃんが命令する。


「……分かった」

 本当は、そんなの間違ってるって叫びたかった。でも、言えなかった。


「りほばっかり、ずるいよね」


 従うしかなかった。ラブレターを人質にされるとは、思っていなかった。まさか見られていたとは。しかも、ゴミ箱から盗られるなんて。

 ごめんなさい。お姉ちゃん。

 お姉ちゃんの応援も踏みにじられた気がする。

 気持ちで負けたくない。

 こんな意地悪してくる子に裕樹くんを預けるわけにはいかない!

 私の中で何かが弾けた。


 こんな子に、大切な想いまで奪わせたくない。

 逃げるだけじゃ、何も守れない。

 ……私はもう、ただの“りほ”じゃない。

 お姉ちゃんの魔法を知ってる、ちょっとだけ強くなった“私”だ。

 心の奥に、誰にも消せない小さな炎が、そっと灯った。

 まだ弱くても、この想いだけは――絶対に、消させない。


 ◇◇◇


 小学校のとき、お母さんから聞いた話。


「佳歩ちゃんのおうちお父さんとお母さんが離婚したんだって」


 一人っ子だった佳歩ちゃんは、お母さんに引き取られたらしい。


「佳歩ちゃんのお母さん忙しいらしいから、おうちでいつも1人なんだって、りほ仲良くしてあげなさいね」

「そんなこと言われなくても、仲良くするし!佳歩ちゃんとは、親友だもん!これからも、ずっと一緒にいるんだから!」

「よかった。お母さんも安心だわ」


 私の事なら何でも分かってくれる親友だった。喧嘩をすることもないと思っていた。おばあちゃんになっても友達でいようと思っていた。


 あの時の私は――。


 ◇◇◇


 今日お姉ちゃんは、バイトの日。家には私しかいなかった。

 学校の鞄を開けると甘い香りがした。

 誰かが食べたアイスのカップだった。

 教科書にこびりついたアイスは、もう乾いてベタついていた。ページがくっついて、開くたびに破れそうになる。


「どうして、こんなことになるの……」


 ただ、好きになっただけなのに。あんなに一緒に笑った時間が、こんなにも簡単に崩れていくなんて、思ってもみなかった。

 誰かのゴミをお姉ちゃんに気がつかれないように、ゴミ箱に押し込んだ。

 丁寧に教科書のアイスを拭き取っていく。

 教科書の汚れを拭き取るほどに私の暖かい気持ちも、少しずつ薄れていった。


 心が苦しかった。

 学校を休もうかなと悩んだ。

 

 だけど――。

 

 裕樹くんに会いたいという、恋心が私を奮い立たせた。

 佳歩ちゃんには、負けたくなかった。


 ◇◇◇


「りほ!おはよう!」


 大好きな裕樹くんが挨拶をしてくれる。でも、今日の私は返事できなかった。

 ざわつく教室の空気が、やけに耳に響く。誰かの笑い声が、自分の悪口に聞こえた。

 何を言われているのだろう。裏切り女だって悪口を言われているのだろうか。

 ここで泣いたら負けの気がして、グッと拳を握る。


「なーりほ!おまえ、裕樹が好きなんだって?」


 朝礼が終わった時、デリカシーのない男子が声をかけてくる。佳歩ちゃんだ。慌てて佳歩ちゃんの方を見るとニヤニヤした顔で私の方を見つめていた。


「なんで……?」


 動揺と悲しさで心に穴が開いていく。


「佳歩が見せてくれたんだよ、りほが書いたってラブレター。いつもよりも綺麗な字で丁寧に書いて!かわいいところあるなおまえ!俺と付き合うか?」

「おまえみたいなデリカシーないやつ、無理に決まってるじゃん」

 周りの男子が笑いながらその子の肩を叩いて、「それな」と茶化す。

「ハハハッ。そうか」

 男子たちは、楽しそうにじゃれながら離れていった。


 一体、佳歩ちゃんは何人に見せたのだろうか。約束を守っていれば、安全だと思っていた。佳歩ちゃんは、以前から寂しがり屋で、独占欲が強いところもあった。でも、私はそれを“子どもっぽくて可愛い”って思ってたのに――。

 教室の隅で笑いあった日々が、頭の片隅でふっとよみがえる。……あの頃の佳歩ちゃん、どこに行っちゃったの?

 融通の利かない性格。この言葉に、今の佳歩ちゃんの全てが集約されていた。


 他の人がいるから――。

 強く言うことができない理由を探していた。

 だけど。

 ここだけは、ひいてはいけない。そう思った。


「ねえ!なんで他の人に見せてるの!約束したよね!」


 気がつけば、佳歩ちゃんに詰め寄っていた。

 理性よりも先に声が出ていた。


「返してあげる約束はしたけど、見せないとは言ってないし!」


 やられた。確認しなかった私のミスだ。恋敵を潰す為なら何でもするつもりかもしれない。全身が冷たくなっていく。お姉ちゃん、今の私、どうすればいいの?心の中でお姉ちゃんに助けを求める。


 ◇◇◇


「りほ〜」

「つめたッ」


 バイト終わりのお姉ちゃんが私の首に冷たい手で不意打ちをする。


「最近、ちょっと暗いけどなんかあったの?」


 流石、お姉ちゃん。私の心を見透かしている気がする。

 でも、心配をかけたくなかった。


「大丈夫だよ!」

「そっか。じゃあ良かった」


 お姉ちゃんの笑顔は、素敵だ。

 いつも元気をくれる。


「これは、独り言なんだけどさ。めちゃくちゃ観たい映画があってさ。でも、1人で映画館行くの寂しいんだよね~」

「今から?ゴロゴロしたいんだけど……」

「あれ?独り言聞いてたの?どうかな?行かない?」


 お姉ちゃんがキラキラした目で私を見つめてくる。


「うっ……。分かったよ!行こう!」


 全くお姉ちゃんには敵わないな。

 私が暗いから、気分転換に誘ってくれたんだろうな。


 映画の内容は、まあ……置いといて。でも、お姉ちゃんと並んで座って笑っているだけで、不思議と心があったかくなった。

 こんな日もあるんだって、心がふっと、肩の力を抜いた気がした。


 ◇◇◇


 次の日、登校すると裕樹くんと佳歩ちゃんが雑談をしていた。


「今の私は置物」


 自分に言い聞かせながら裕樹くんの隣の席に鞄を降ろす。裕樹くんがどこか気まずそうに私に会釈をする。絶対に佳歩ちゃんのせいだ。私の心もそろそろ疲れ始めていた。

 潤っていた私の恋心は、乾ききった砂漠のように荒れ果てていた。もういっそ、この気持ち捨ててしまう方が楽なのかな。教室の椅子に座りながら、ひっそりと涙を流した。


「お昼休み俺の部室に来て」


 朝礼のチャイムの騒音に隠れるように裕樹くんがそっとささやく。佳歩ちゃんに聞こえないように気をつけながら、こっそり伝えてくれる。

 こういう気遣いが裕樹くんのかっこいいところ。

 諦める事なんてできない!

 もう一度、強く心に決めた。


 お昼休み、お弁当を持って教室を抜け出す。

 佳歩ちゃんは、仲良しグループで楽しそうにしている。


 悪意に晒される度、私の恋心の価値は失われていくように感じられた。


 この恋は、私とお姉ちゃんそして裕樹くんの3人だけの秘密にするはずだった。台無しだ。私の初恋は大きく歪んでしまった。


「りほ。待ってたよ」


 サッカー部の部室に行くと裕樹くんが1人で待っていた。裕樹くんの顔を見ると今までの悔しさが一気にこみ上げてきて、涙が出てしまった。

 好きな人には、弱った姿を見せたくなかった。幻滅されただろうか。泣き虫な女だと思われただろうか。

 裕樹くんは、静かに私が泣き止むのを待ってくれた。

 何も言わずに、静かに受け入れてくれた。

 そんな気がした。


「ラブレターありがとう」

「え?」


 耳を疑った。あまりの驚きで涙も引っ込んでしまった。挨拶を返さなくなって、返事もしなくなって嫌われていると思っていた。

 自分の好きな人を信じられない自分がいた。


「りほの気持ちに気がついてあげられなくてごめん」

「ラブレター、読んだの?」

「うん」

「そうだったんだ……」

「佳歩ちゃんからおもしろいもの見せてあげるって言われて。ごめんね」


 どこか気まずい空気が流れる。けれど、それは思っていたほど重くはなかった。


「んーん。良いの。直接言う勇気もないし、仕方がないよね」

「そんなことない!俺は嬉しかったよ。素敵な手紙ありがとう。これだけは絶対に伝えたかったんだ」


 ラブレターで気持ちを伝える。確かに私のやりたかったことかもしれない。でも、佳歩ちゃんの悪意で見せられるとは思っていなかった。


「佳歩ちゃんからなんか言われた?」

「“本気で書く子って、まだいるんだね”って笑っていたよ」


 ホントにそうだよね。ちゃんと渡せていたら、まだ良かったのに。


「でも、俺はかっこいいと思った。何より嬉しかった。逆に人の心をもてあそぶ方がダサいって話だよな」


「じゃあーー」

 

 私と付き合ってくれるの?

 心の中で続きの言葉をそっと呟いた。続きを言う勇気が出なかった。

 淡い希望が私の心に芽生えた。心の中の砂漠を消し去るように暖かい感情が湧き出てくる。


「先に、俺にやることをやらせてくれないか」

「分かった」


 あんまりピンとこなかったけど、なんとなく返事をしてしまった。

 でも、裕樹くんの顔は、どこか心を決めたような頼もしさがあった。

 

 裕樹くんに任せてみよう。


 覚悟を決めた彼の空気に背筋が伸びる。

 勇気をもらえた。

 今なら佳歩ちゃんとも話ができるかもしれない。

 きっと大丈夫な気がした。

 もう一度、踏み出せそうだった。


 佳歩ちゃんと頑張って話をしてみよう。

 最後の戦いの準備はできた。


 ◇◇◇


 中学に入学する頃、佳歩ちゃんは、ちょっと意地悪をするようになっていた。


「お姉ちゃん、なんで佳歩ちゃんは意地悪をするのかな?」

「そうだね……。もしかしたら、自分を認めて欲しいのかもしれないね」

「認めて欲しいのに意地悪をするの?」

「私を無視するとこんな怖いことになるぞ!みたいなね。ちょっと不器用さんなだけだよ」


 お姉ちゃんは、物知りだった。会った事もない佳歩ちゃんの気持ちを教えてくれた。

 その日から、佳歩ちゃんの意地悪が少しだけ嬉しくなった。

 ちゃんと見ているよって、心の中でそっと返事をしていた。


 ◇◇◇


「裕樹くん、どうしたの?」


 裕樹くんから呼び出され、私と佳歩ちゃんの3人は体育館の裏に来ていた。まるで私なんて元からいなかったと言うような佳歩ちゃんの猫なで声。ラブレターを“武器”にして完全に優位に立ったつもりになっているのだろう。

 お姉ちゃん、私を守って。念じれば強くなれる気がした。

 頭の中でお姉ちゃんの歌声が響いている。


「はぁ」


 裕樹くんがため息をつく。なぜだろう。どこか寂しそうな表情をしている。


「佳歩ちゃん」

「なぁに?」

「俺と付き合いたい?」


 何を言ってるのだろう。

 祐樹くんの言葉が、理解できなかった。

 このままじゃ、裕樹くんを取られてしまう。

 恐怖で目眩がする。


「そうだね~。どう思う~?」


 佳歩ちゃんの猫なで声が聞こえる。

 勝利を確信したかのような、嬉しさが滲み出ている。


「そういうの良いから」


 裕樹くんが真剣な顔でピシャッと言葉を言い放つ。

 佳歩ちゃんを包んでいた甘い空気が一瞬で凍った。

 こんなに怒っている裕樹くんは初めて見た。正直、少し怖いと感じてしまった。


「なんで怒るの?あーもう!付き合いたいよ!私、裕樹くんが好きだもん!」


 半分泣きそうになりながら、佳歩ちゃんが告白をする。

 そっか、佳歩ちゃんもやっぱり、好きだったんだね……。薄々気がついていた。だから、私に意地悪をしていたのか。赦すことはできないが、どこか腑に落ちる気がする。


 わがままな私と同じで、裕樹くんを独り占めしたかったのかもしれない。


「ありがとう。で、りほをイジメてたのもホント?」

「え?」


 佳歩ちゃんの顔から血の気が引いていく。なんで知っているのと言いたげな表情をしている。

 急に寒くなったような気がする。


「そんなこと……するわけない……」


 弱々しく、佳歩ちゃんが返事をする。心当たりがあるからだろう。かなり歯切れが悪い。


「そっか。本当の事を言ってくれないんだね」

「言ってるよ!」


 苦しそうな表情をしている裕樹くんに、佳歩ちゃんが必死にすがりつく。でも、裕樹くんはただただ冷たい目線を送っている。


「俺さ。佳歩ちゃんが自慢げに友達に話してたのを聞いたんだよね。なんで言ってることが矛盾してるの?」

「そ、そんなの、ノリだし」


 佳歩ちゃんの目がかなり泳いでいる。もう、本当のことを言う方が良いと、私でも思う。

 むしろ、本当のことを言ってほしかった。


「俺悪いけど、友達を大切にできない人と嘘をつく人とは付き合えないわ」


 ぴしゃっと佳歩ちゃんに言い切る。私の為に怒ってくれる。私を守ろうとしてくれる。裕樹くんは私の王子様なのかもしれない。


「待ってよ!チョコレートだってあげたし、変な虫がつかないように守ってあげたじゃん!そんな私の気持ちを踏みにじるの?」


 佳歩ちゃんの叫び声が体育館裏に響き渡る。

 どんなにひどいことをしても、佳歩ちゃんの気持ちは本物だと肌で感じた。

 佳歩ちゃんの中には、純粋な恋する乙女が住んでいた。

 最後の勇気を振り絞って想いを伝える不器用な、恋する女の子に見えた。


「……佳歩ちゃん」


 私のラブレターを使って私の心を弄んだ。赦すことはできないが、同情する事はできた。


「裕樹くん、佳歩ちゃんの気持ちは否定しないであげて……」

「りほは、優しいんだな」


 佳歩ちゃん……。どうしてこうなってしまったのだろう。

 たった1つの淡い恋心が、2人の友情を壊してしまった。

 私が動かなければ、こんなことにはならなかったのかもしれない。

 でも、動かなければ、裕樹くんの隣に立てる日は来ない――。


「佳歩ちゃん、どうしてこんなことするの?」


 昔は、親友だった。

 どうしても、知りたかった。

 佳歩ちゃんは、悪い人ではなかった。

 手を繋いで、2人で走り回っていた。


「そんなの決まってる!ライバルがいなくなれば裕樹くんが振り向いてくれるからだよ!」


 ……もしかしたら、私が気づくのがもう少し早ければ。

 佳歩ちゃんにちゃんと向き合えていれば、何か変わっていたのかな……。

 でも、あのときの私は、ただただ恋に夢中で――。


 ◇◇◇


「あのね……。りほちゃん、相談があるんだ」


 中学2年生になる頃、佳歩ちゃんから相談された。


「いつも、ごめんね」

「どうしたの?」

「意地悪してごめんね……」


 中学1年生の間、頻繁にいたずらをされた。お姉ちゃんに何度も相談した。


「実は、もっと、仲良く、りほちゃんと話をしたかったんだ……。なのに、気がついたら意地悪しちゃって。だから、ごめんなさい」


 お姉ちゃんが言ってた事は、正しかった。

 素直に感情を話す事ができないだけ。

 意地悪を楽しんでいる訳ではなかった。


「大丈夫だよ!友達なんだから、何でも話して!」


 この時は、まだ、踏みとどまれると思っていた。

 片親で、いたずらをしなければ会話がなかったのかもしれない。お母さんに見て欲しかっただけなのかもしれない。

 環境が佳歩ちゃんを変えてしまった――。

 

「時間がかかっても、この人の事を赦せるように私が成長しよう」


 そうしないと、佳歩ちゃんは1人になっちゃうんだから――。


 ◇◇◇


 やっぱり、不器用な人だ……。

 素直に告白できない。

 だから、ライバルをいじめる。

 素直になれないストレスをライバルにぶつける。


 これじゃ、逆効果だよ……。

 

「行こう。りほ」


 あきれたように裕樹くんが私に声をかける。


「待ってよ!私だって……ずっと好きだったのに……!」


 裕樹くんが私の手を取って、その場を離れる。


 本当にこれで良かったのだろうか…。

 後悔がチクリと刺した。


 ◇◇◇


 裕樹くんに導かれ、家の近くの公園にたどり着いた。


「ここ覚えてる?」

「うん?私の家の近くの公園だけど……裕樹くんも知ってるの?」

「そうか。覚えてないか」


 裕樹くんは、どこか遠くを見つめながら話を続ける。


「俺さ、小学校2年生の時この公園で迷子になっちゃったんだ。そのときは寂しくて泣いちゃって。知らない場所だったから不安で仕方がなくて」


 こんなにしっかりしている裕樹くんにもそんな時代があったのか。驚きと共にかわいいなと感じてしまう。


「迷子になったときに助けてくれたのが、りほなんだよ」

「私?」


 正直、全く心当たりがない。


「ほら、俺の為に歌を歌ってくれたじゃん」


 お留守番中に寂しくなったときにお姉ちゃんが歌ってくれていた歌。勇気が出ないときに歌ってくれていた歌。悪者と戦う戦隊の主題歌。幼い頃、その歌を迷子の少年と2人で歌った記憶が蘇る。


「えっ?あの時の……?」

「そうだよ。あの時の事が忘れられなくて……中学でりほを見かけたときは驚いたよ」


 ◇◇◇


 私の記憶が一気に巻き戻る。あの日の少年も確かに裕樹という名前だった。でも、あの時は私の方が身長が高く同じ人だとは思えなかった。言われてみれば面影があるかもしれない。その程度の遠い記憶。


『ピンチになっても、諦めないで!俺たちが駆けつけるから』

 このフレーズを歌うとお母さんがすぐに来てくれる気がした。


 あの時は、暑い夏の日だった。

 裕樹くんのお母さんが見つからなくて、私も不安になっていた。

 心のざわつきをかき消すように、2人で何度も何度も大声で歌った。


『私たちはここにいるよ!』

 ひたすら願いを込めて歌った。レンジャーが私たちを助けに来てくれるように――。


 歌いすぎて喉が渇いた頃、公園の入り口にお姉ちゃんがいた。私のレンジャーが来てくれた。お姉ちゃんが冷たいジュースを1本ずつ買ってくれた。


「裕樹!」


 迷子の少年を呼ぶ声が、遠くから聞こえた。汗だくで駆けつけた彼のお母さん――少年のレンジャーが、そこにはいた。


「裕樹くんがね。迷子になってたからね、一緒にお歌を歌ってたんだよ!」

「そかそか。りほは、優しいね」


 お姉ちゃんに褒められて、私も安心して帰路についた。


 ◇◇◇


 あの時、2人でジュースを飲んだベンチに今も座っている。

 普通のベンチが高級なソファーのように感じられる。


「りほは、俺の憧れだった。初対面の俺に優しくしてくれた、りほみたいになりたかった。中学で再会して、一緒に過ごして、憧れは、好きに変わっていった」

「そうだったの……?」


 私の心の中が一気に晴れ渡る。佳歩ちゃんから受けた嫌がらせもどうでも良くなった。


「それに女の子がここまで勇気を出して戦ってくれたんだ。その気持ちに応えないなんてバチが当たるよ」

「ありがとう」


 ただ、その気持ちが嬉しかった。私の勇気を、私の気持ちを感じ取ってくれる。世界が輝いて見えた。


「ラブレター読んだとき思ったんだ。“この人の隣にいたい”って。俺が助けられたみたいに、今度は俺が、りほのそばにいたいって」


 裕樹くんが、私の目を見て、深呼吸をする。


「俺と付き合ってくれないか」


 寒い12月の陽ざしが、木々のすき間からこぼれていた。私たちの肩をそっと包み込むように、優しく祝福してくれているようだった。


「もちろん!こちらこそ、よろしくね」


 ゴミ箱に捨てたラブレターがつないでくれた私の心。

 あの日、ゴミ箱の中で迷子になった私の心は、ちゃんと届いていたんだ。


「裕樹くん、大好き」


 私と裕樹くんの唇が重なる。

 ちょっと背伸びしすぎだろうか。

 やわらかく暖かい気持ちがすっと入ってくる。


『お姉ちゃん、私のラブレター届いたよ』


 お姉ちゃんからのバトンを裕樹くんが受け取ってくれた。

 1人で歩くのがおぼつかない私の横には、いつでもお姉ちゃんがいた。

 お姉ちゃんのことを考えると心が温かくなる。

 お姉ちゃんが魔法をかけてくれた恋の1通目――。

 裕樹くんまで届いた無敵の魔法。


 ◇◇◇


 時が流れ、私は大学生になった。

 今でも裕樹くんと付き合っている。

 佳歩ちゃんのした事は、今でも素直に赦すことができない。


 もっと、佳歩ちゃんの事を理解したいと、ずっと心のどこかで考えていた。

 もう少し、歩みよることができたのではないかと、後悔があった。


「今からでも、間に合うかな」


 私の事なんて、もう忘れているかもしれない。

 迷惑かもしれない。


 でも――。

 おばあちゃんになっても友達でいようと決めた自分に正直でいたかった。

 何があっても赦すと決めた私に嘘をつきたくなかった。


 仲直りをしたいと、中学生の私が心で叫んでいた。

 気がつけば、あの日の勇気が戸を叩いた。

 手紙を書けば、心が届く気がした。


『佳歩ちゃんへ。今度一緒にランチに行きませんか?』


 花束の描かれた便せんに気持ちを乗せる。

 ペンを握る私の手に、お姉ちゃんのぬくもりが宿った気がした。

 ゴミ箱に捨てて、失ってしまった仲間。

 お姉ちゃんが買ってくれた、あの便せん。

 今ならもう一度、仲間になってくれる気がした。


「どうか、お願いします」


 祈るようにポストへ投函する。

 友だった人へ、心を送る。

 

「きっと、届くはず」


 私から踏み出してみよう。

 あの人は不器用なんだから――。


 ◇◇◇


 化粧をして、綺麗になったあなたが遠くから歩いてくる。

 大丈夫――。

 

「りほちゃん、だよね?」


 大人になったあなたが声をかけてくれる。


「久しぶり……佳歩ちゃん」


 錆び付いて、動かなくなった歯車がぎこちなく回り始めた。

 回る度に、錆が剥がれ落ちていった。


「あの時は、本当にごめんなさい」

「……正直、あのときのことは、今でも時々、思い出すよ。でもね――あの頃の私が、あなたとまた笑いたいって願った気持ちも、本当なんだ」

「そうだよね……。ほんとにごめん」

「私の方こそ、佳歩ちゃんともっと向き合えば良かった。ごめんね」


 何度も謝られた。私も負けじと何度も謝った。

 2人で泣いた。

 多くの事を話した。

 いろいろな場所に出かけた。

 心を全てさらけ出した2人が、親友に戻るのに時間はかからなかった。

 気がつけば、私たちの時間は、中学生にタイムスリップしていた。


 不器用な佳歩ちゃんは、まだそこにいた。

 だけど――。

 大人になった私たちは、理解する事ができた。

 


 ◇◇◇


 社会人になり、裕樹くんと家族になった。

 結婚式の写真には、大切な人たちが揃っていた。


 花束の便せんがつないでくれた、恋と友情のかたち。

 あのときの手紙は、ちゃんと届いていた。

 その便せんに込めた魔法は、今も、私の心を咲かせ続けている。


 あの日、便せんに綴る“君への想い”が――私の未来への扉を、そっと開いてくれたから。


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便せんに綴る、君への想い ヨリ @yori-2024

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