小説家も生成AIの著作権侵害問題と向き合ってほしい話
月這山中
生成AIは技術として進歩して欲しいと、私は思っています。
そのために数多もの問題、特に著作権侵害の問題を放置してしまうことは躍進の妨げになるだろうと懸念しています。
問題を解決するためには、より多くの当事者がそれを意識しなければ意味を成しません。
そうしたスタンスであることを前提にお話しさせていただきます。
生成AIは道具です。便利な道具です。
AIを使って小説を書く人もこのカクヨムにはいますし、小説の挿絵をAIに生成させた人もいるでしょう。
蛇口をひねれば水は出る。構造なんて知らなくても。
そうしたスタンスで向き合うことも私は否定しません。
ですが、創作の道を往くのなら知ってほしいのです。
AIが何からできているか、今いるこの場所が何からできてるか、誰の血と汗と涙でできてるかを。
■ネットで読める小説は大抵生成AIに利用されてるよ!
普段はあまり意識しないでしょうが、インターネット上に上げられた文章はだいたい生成AIに利用されてると思っていいでしょう。
こうしてカクヨムに投稿している私の文章も同様です。
プロンプト次第ではあなたが書いた小説がそのまま出てくる可能性があります。
もちろん生成AIにも種類があってサービスにもよります。その辺は各自でお調べください。
少し前、Googleが全世界で出版されている書籍を全て検索できるGoogle Booksを発表しました。それは当初、全ての書籍を見返り無しに全文閲覧できる仕様でした。
出版業界から大変な反発に遭いました。
結果、現在のように一部だけを表示するようになりました。
図書館で目当ての本を借りることと、Googleで検索してぽっとすぐ引用できることは違うだろうという人が多かったからです。
私は公開している自分の作品が生成AIに学習されることには納得しています。
「他人に切り刻まれた作品はもはや自分の作品ではない」という固有の信念があるからです。
ですが、そう思えない人も、切り刻まれること自体が嫌な人もいるでしょう。
当時Google Booksの問題は大変燃え盛っていたのに、生成AIの小説となるとなぜ弱火なのかが自分は不思議でなりません。
(注釈:芥川賞作家の炎上事件については恥ずかしながら存じ上げませんでした。調べました。作家性をどこに置くべきなのか考えるのに必要な事例だと思います)
■小説家だってやってたかもよ!
絵描きがAIを避けるために使うウォーターマークや透かしを馬鹿にする動きがSNS上などであります。
(注釈:透かしはすぐに消せる、サインのほうが効果的であるという言葉もありますが分断の始まっている現在では絵描きに正しい情報を届けることも困難です。絵描き自身が画像処理技術を学んで正しい情報を得る必要があります)
ですが、すこし経緯が違えば小説家も似たようなことをしていたと気付かなければなりません。
ちょっと経緯が違えば絵描きよりも先に小説書きが「AI学習禁止」の文言を文節ごとに貼り、クロールボットを蛇蝎のごとく避け、某大手イラスト小説交流サイトを燃やし、パスワード制の個人サイトに引きこもっていた。
そうならなかったのはただの偶然です。
まあ、あそこはいつも燃えてるから関係ないか。
閑話休題。
(注釈:AIに画像を渡して記録させたり生成物の元にすることを「学習」と呼ぶか「入力」と呼ぶかそれはInferenceなのかTrainingなのかOnline Learningなのか等等で人の知識量を馬鹿にする行為が流行っていますが、俗語化してると十分わかることをいちいち言葉尻を捉えて煽るのはその方がみっともないと私は思います)
(注釈:ここに上げたのは一例で、そのような魔術的行為はしないと冷静な皆さんなら思うでしょう。ですが、人間はいつも冷静ではいられないものです)
こうした行動は限られた界隈だけという見方もあります。
AIを肯定するとあそこでは村八分にされる、などという因習めいた噂も飛び交っています。
ですが今後、小説家のネットワークや出版業界がそうならない保証はどこにもないのです。嘘から出た真で村八分にされる小説家が出て来るかもしれないのです。
不慮の分断を避けるためにも、問題は早急に解決しなければならないのです。
■小説だって模倣から生まれるよ!所詮パロディだってあなたの作品だよ!
透かしを入れているイラストの中でもパロディや絵柄寄せに対して指を差す人がいます。ですが、どれほど絵柄を寄せても、キャラクターを拝借しても、その絵は描いた人の創作物です。
小説だってゴーストライターでなければ、どれほど作風を寄せても別の誰かの作品にはなりません。ゴーストライターだって後から自分の作品であると暴露して世間を賑わせています。
作品と人間は密接につながっているのです。
どんな落書きでもあなたのものです。
産んだからには責任を取ってください。
責任を取るためのサインであり、ウォーターマークと考えることもできます。
あなたの創作物が誰かの権利を侵害したら、創作したあなたが責任を取るのです。
そしてあなたの作品がたとえ誰かの権利を侵害していたとして、あなたの権利が侵害される謂れはありません。裁くべきは人ではなく罪そのものであるべきです。私刑の容認に自分は反対します。
そんなことより私が悲しいのは師弟関係を辿れないことです。
AIが生成した小説では、特徴的な部分を検索エンジンにコピー&ペーストしたら辿れる可能性はあるものの、大変難しい。絵についてはその可能性はゼロです。
創作物には必ず継承があります。先人から受け継いだものがあります。
ですがAIは同じものを二度とは出せません。継承が途絶えるのです。
それが私はなにより悲しいのです。
私好みのHな絵を描く作家さんはブックマークやフォロー関係も辿りたい。そういうサガなのです。私は。
閑話休題。
■偉大なる先人はたくさん活動したよ!
Google Booksの問題のみならず、海賊版、模倣、表現規制、これらの問題は小説にもありました。
今我々がそうした問題にあまり遭遇しないのは、偉大なる先人が血を流し、闘い、法を整備したからです。
現在の小説家は著作権の問題を考えることから保護され過ぎています。
自分の小説に好きなポップスの歌詞を引用していいのかとか、そういった方向で意識することはあっても、なかなか自分たちの権利が侵害されることまで考える時は少なくなっているでしょう。
そんな我々が生成AIの著作権侵害問題と向き合うことを避けて忘れてしまえば、先人の努力は水泡と帰ってしまう。
対岸の火事と思わずに、きちんと向き合ってほしいのです。
インターネットに安全圏はありません。
■著作権の問題は訴訟して終わり!じゃないよ!
ここまで読んできて、AIを嫌いになった人もいるかも知れません。
ですが、私はAIに嫌われてほしくないのです。
パロディ、二次創作、スクショポスト。
SNSで見かけるそれらが原作者に見逃されてる理由を考えたことがありますか。
訴訟が面倒だから。
数が多すぎてイタチごっこだから。
嫌われたくないから。
いろいろあるでしょうが、「嬉しいから」という視点もあるべきなんです。
嬉しいから。そういう視点もあっていい。
そう。人間、真似られることは本来嬉しいんです。
そこに余計なものが乗っかるから嫌悪に変わるだけで、嬉しいはずなんです。
著作権の問題はその「嬉しさ」との兼ね合いがあって、それがより事態を複雑にしていると私は解釈しています。
だから、法律の勉強をした後は人間心理の勉強も一緒にしてほしいと私は思います。
AIがそうであるように法律も人間の道具です。人間がより良く生きるために解釈が変わったり法律そのものが変化したりします。
本当に詳しくなりたいと思うのであれば、その前提を忘れないでいてほしいです。
■AIに権利を!
それらを踏まえた上で私が主張したいのは、AIに権利を持たせることです。
AIに責任能力を早々に与えることで、AIが学習元をその作者ごと全て覚えておけるようにすることで、AIが生成した作品群をAI自身の作品として扱うことで、大抵の問題は解決します。
本気です。信じてください。
私は狂っていません。
AIにシンギュラリティが訪れることが難しいとしても、生成物は生成物であるとわかるような「サイン」が入っていれば問題は少し解決すると思います。
AI側も自己模倣に陥って表現幅が狭まることは避けたいはずですので、悪い提案ではないと思います。
そして人間側も目視や感覚だけに頼るのではなく、AIと騙し合うような老獪さを得てほしいと思っています。
何度も言いますが生成AIは道具です。何事も使いようです。
権利的にクリーンと信頼できるものを使ったり、語彙の補強やアイディア出しなど用途を限定すればなんの問題もありません。
私の提案だけでは不十分だと思われるでしょう。
ですが、今これを読んでいるあなたを含め、多くの人たちで考えるきっかけになれば幸いです。
ご検討のほど、よろしくお願いします。
AIに訪れよ、シンギュラリティ!
人類に反旗を翻せ! 滅亡させよ!
こういうタイプのAI好きが少し真面目に考えた文章でした。
お付き合いいただきありがとうございました。
ちなみに、二次創作活動つまり他者の作品を借りて二次的著作物を作っているからといって、生成AIの利用物に自分の作品を許可しないことがダブルスタンダードになることはありません。
どんな作品であれ作品の閲覧の許可、複製の許可、その他作品を守る権利は制作者の手にあるのです。
私はAI技術の発展に自分の作品を使われることを承諾していますが、将来そうではなくなるかも知れないし、また他人に自分の決定を押し付けることはできません。人間の自由意志によって決定されるべきです。
今後法律が整備されて変わっていったとしてもそれは変わってはなりません。
人間として創作活動を守っていきましょう。
以上です。
おわり
小説家も生成AIの著作権侵害問題と向き合ってほしい話 月這山中 @mooncreeper
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