交わる日

第7話

あれから、いくつもの朝が過ぎた。


君は毎日、少しずつ違うパンを選ぶようになった。

僕は毎朝、それを横で見ている。


君はまだ時々、黙り込む日もある。

でも、その沈黙の中にもやさしさがあることを、今の僕は知っている。


ある春の日、浜辺のベンチにふたり並んで座っていた。

風はまだ冷たかったけれど、空の色は少しずつ変わり始めていた。


「ねえ」


君が小さくつぶやく。

その声に、僕の胸が静かに跳ねた。


「無限遠点って、ほんとにあると思う?」


僕は少し笑って、空を見た。


「わからない。でも、こうして君と歩いてきた道が、それだと思ってる」


君はクロワッサンをちぎりながら、ふと僕の方に目を向けた。


「ねえ、手……つないでもいい?」


その一言が、すべてだった。


僕らの手が重なった瞬間、

ずっと並んでいた線が、

そっと、やわらかく曲がって——

ひとつになった。


もう“平行線”じゃない。


けれど、あの日々はきっと必要だった。

君が過去を越えるまで。

僕が、ただ隣にいる強さを持てるまで。


そして今、

ふたりで描いていく線は、

どこまでも、遠くまで、

ゆるやかに、同じ方向を向いていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

平行線の先で、パンを君と @jsb3sae

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る