筋トレ女子ノススメ

タヌキング

ムキムキ

 私の名前は三笠みかさ 愛海あいみ28歳の会社勤めの女である。趣味は筋トレであり、一応女子ながらベンチプレス80キロは上げられる。

 筋トレが趣味と言うと周りから「何目指してるの?」とか聞かれることがあるが、別に何も目指しているつもりはない。筋トレするのが楽しいのだ、日々の肉体の変化を見るのが楽しくて仕方ないのだ。文句あるか?

 自分自身シックスパックに割れた腹筋は誇らしいのだが、同僚の女達からは奇異の目で見られてしまい、私は影で『ゴリラ女』というあだ名で呼ばれている様だ。甚だ遺憾である。

 まぁ、全てのストレスは筋トレで発散するので良い。怒りの感情が私にパワーを与えてくれる。いつか本当のゴリラになるのも悪く無いだろう。

 今日も今日とてダンベルトレーニングをしていると、チラチラと私を見てくる視線に気が付いた。女だてらにジムで鍛えていると、そういうことはしばしばあるので許容の範囲だが、今日の男はあまりにもチラチラ見てくるので、トレーニングに対する集中力が落ちてしまう。見たところ若くて童顔の痩せた男のようだが、そろそろ注意した方が良いようだ。幸いにも人が少ないので、注意したところであまり目立つことも無いだろう。

 私が近づいて行くと、男は挙動不審になって、分かりやすくアタフタし始めた。私は腕組みして威圧感を出しつつ、男に注意した。


「あのチラチラ見られると気が散るんだけど、やめてもらっていい?」


 私がこう言うと男はハッとして、申し訳なさそうにこう言うのである。


「す、すいません、アナタの体がとても綺麗で自然と目がアナタに向いてしまって」


 キュンと私の胸がときめいたのを感じた。トレーニーにとって体を褒められることは一番の喜びなのである。


「き、綺麗って、別にアンタの為に鍛えてるんじゃないんだからね‼」


 思わず生まれて初めてツンデレをかましてしまう始末である。怒りの感情は胸に秘めることは出来ても、嬉しいという気持ちは隠しきれない。


「す、すいません。そうですよね。勝手に眼福してすいません」


 男はさっきから謝ってばかりだが、今は謝る時では無いのである。私の筋肉をもっと褒めて、褒め称えて。


「私の体が良いっていうけど、どんな所が良いか詳しく教えなさい」


「えっ?」


「だから、私の体の何処が良いの?セイ‼」


「えっと、シックスパックの腹筋に目が行きがちですが腹斜筋も大変素晴らしいですし、ヒップラインも曲線が素晴らしく官能的です。腕もはちきれんばかりに太くて、思わずその両のかいなに抱かれたいと思ってしまいます。足も丸太みたいに太くて、僕はアナタの足にずっとしがみ付いてコアラみたいに生活したいと思いました」


キュンキュンと私の胸は更にときめいた。若干この男の変態チックな部分が出ているが、個性的な言い回しは私的には高評価である。


「アナタ、歳はいくつ?」


「に、23歳です」


 歳下か、悪く無い。久しぶりに私の中の獣が獲物を前に舌なめずりしていた。


「あなたトレーニングした後は何か予定あるの?」


「い、いえ特には」


「じゃあ、宜しければトレーニングが終った後にステーキでも食べに行かない?高たんぱくの良い店があるのよ」


「えっ?そんな……良いんですか?」


「うん、お肉食べながら筋肉談義しましょう」


「こ、光栄です‼」


 ご飯を食べた後のことを考えると、大胸筋がピクピクし始めた。

 ただハッスルし過ぎて、華奢なこの子を壊さないようにしないといけないなと、私は自分の体に注意喚起を促した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

筋トレ女子ノススメ タヌキング @kibamusi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ