サウナカジノ
ちびまるフォイ
温冷交代浴
重い扉を開ける。熱気と湿気が襲いかかった。
「ようこそ。ここはサウナカジノ。大人の社交場さ」
「あっちは……?」
「あれはサウナルーレット。こっちはサウナポーカー。
奥にいけばサウナスロットもあります。どれにしますか?」
「一番わかりやすいやつで」
「ではあちらの卓を。こちらはサウナブラックジャック・
21に近い数字を持った人が勝利となります。簡単でしょう?」
「なぜこれをサウナで?」
「ここには地上では得られない熱気と興奮がありますから」
ディーラーに誘われるままゲームが始まった。
全員にカードが配られる。
卓を囲む周りの人達の顔を見る。
みんなつらそう。表情が読めない。
(みんな手札は強いのか……?)
ディーラーが声をかける。
「勝負しますか? 降りますか?」
卓を囲む人たちはそれぞれに時間コインをBETする。
「このコインって……」
「コインを使い切ればサウナから出られます。
逆に負け続けて、コインを抱えればいつまでも
サウナから出られなくなります」
「死んじゃいません?」
「自己責任です」
「遠回しなデスゲームじゃないか!」
サウナカジノの扉は外からは簡単に開けられるが、
内側からだと専用の人間でなければ開けられない。
「勝負するしか無い……!」
自分の手札は「19」。そう悪くはない。
他の人は勝負を降りたが一人だけ勝負を望む対戦者がいる。
「いい度胸ですね。勝負しましょう」
「そっちも手札いいんですか?」
「ええまあ。さらに熱波師を追加します!!」
「なんだって!?」
サウナに待機していた熱波師がやってきて、
大きなタオルで熱波を送ってくる。
「アッッッツイ!! なにしてるんですか!!!」
「熱波師を追加すると時間コインの価値が倍増。
ひと勝負でも2倍、3倍の勝負になるんですよ。降りますか?」
「ぐっ……! いいや勝負だ!!」
サウナの卓に並べられたカードをひっくり返す。
自分は19
相手は21
「んなっ……!!」
「あははは! 言ったでしょう? 良い手札だと!!」
ゲーム参加者の時間コインが一気に自分に集まる。
熱波師ブーストもあり、通常よりもコインが増えてしまう。
「その時間コインですと、サウナ滞在時間はのべ2時間。
サウナカジノでコインを減らさないと死んでしまいますよぉ?」
「そんな無茶な!!」
人間相手の勝負は勝てない。
あわててサウナスロットや、サウナルーレットに移動する。
だからといって勝てるわけもなく。
時間コインを増やして、ますますサウナに閉じ込められるだけになった。
「やばい……このままじゃ本当に……」
汗が止まらない。
サウナカジノの奥ではミイラ化した参加者が運ばれている。
ふと、ブラックジャックの卓を見たときだった。
自分に勝利した相手は再び熱波師を呼んで、勝負の倍率を上げていた。
次の勝負も。
その次の勝負も。
熱波師の風を送るその姿を見続けて気がついた。
ふたたびブラックジャックの卓へと向かう。
「おや? あなたはさっきの。また負けに来たんですか?」
「やっと勝利の糸口が見えてきたんだ」
「はは。ディーラーと取引でもしたんですか?
ムダですよ。サウナカジノのディーラーは常に公平。
誰とも取引をしません」
「その口ぶり、まるでディーラー以外なら取引できること。
それを知っているようだな」
「だったら? 言っておきますが、取引の上書きはできませんよ」
「だろうな。だったら……」
サウナの中心部。
うず高く積まれたサウナストーンへと向かう。
「いったい何を!?」
「こうするのさ!!」
サウナストーンのそばに置かれていたアロマ水。
それを持ち上げ、サウナストーンに上からかける。
ジュウウと大きな音とともに、蒸気がサウナへと満たされていく。
「すべてのアロマ水をロウリュしたんですか!? なんてことを!!」
「さあ、ここからは本当のアツい勝負だ!!」
爆熱になったサウナ。
「ひいい! とても耐えられない!!」
「おい熱波師!! どこへいく!!」
熱波師も耐えられなくなりサウナを後にする。
これを待っていた。
「ふふふ。お抱えの熱波師はもう居ないぞ。
これでこっちの手札を盗み見る方法はなくなった」
「な、なぜそれを……」
「熱波師のタオルであおぐタイミングが一定じゃなかった。
その風の送り方が手札をリークしていたんだと、さっき気づいたのさ」
「くそ……! だが、勝負に勝ってもあなたは出られませんよ」
「そうかな? まだこの音に気づかないのか?」
「音?」
サウナストーンから発せられる蒸発の音が収まると、
今度はサウナ内の風をかくはんするサーキュレーターの音が聞こえた。
「ま、まさか……」
「熱波師はいないが、勝負には倍率をかける!
熱風ブーストで勝負だ!!」
「なんてことを……こんな勝負……無茶苦茶だ……!」
サーキュレーターが送る強烈な熱風がふたりを苦しめる。
頭はぼーっとし、手元のカードも汗で見えなくなる。
「勝負!」
すべての時間コインをBET。
手札を卓に乗せる。
相手は脱水症状でぐらぐらと頭がゆれる。
「どうする? 勝負するのか!? しないのか!?」
「あわわわ……」
そしてついに。
「無理……」
卓におでこを打ち付けて卒倒した。
勝負は棄権ということで自分の勝利となった。
ふたりの手札が開かれる。
相手は18。
自分は24。
相手が勝負に乗ったなら確実に負けていた。
「危ない……。熱で判断力が鈍っててよかった……」
熱風ブーストにより、すべての時間コインを相手に押し付けた。
時間コインを使い切ったのでサウナから解放となる。
扉の先に待っていたのは水温低めのおおきな水風呂。
汗を流してから思い切り水風呂へ入る。
「ふわぁぁぁあ~~! 気持ちいいぃぃ~~!!」
限界を超えて追い込んだ体に冷えた水風呂。
その心地よさは言葉にできない。
快感に身を委ねていると、
水風呂の奥から水面に浮かんでいるお盆が流れてきた。
「なんだこれ……?」
お盆にはコインのようなものが積まれている。
嫌な予感はすぐに的中した。
「水風呂カジノへようこそ!
時間コインを使い切るまで、水風呂からは出られませんよ!!」
サウナカジノ ちびまるフォイ @firestorage
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