天下無双武闘会……じゃなくて、舞踏会⁉

海音まひる

本編


「お嬢様、起きてください。朝ですよ」


 侍女のジゼルが揺すり起こしてくる。

 埒が明かないと思ったのか、布団まで剝いできた。頼むからやめてほしい。寒いじゃないか。


「うーん、もう少し寝かせて……あと一時間、いや、二時間だけ……」

「全然少しじゃないですよ、それは。ほら、今日は何の日だと思っているんですか」

「……何の日だっけ?」


「天下無双武闘会の日ですよ」


 ……記憶にない。


「……ああ、見に行くことになってたんだっけ?」


 私が聞くと、ジゼルは呆れたように溜息をついた。


「何言ってるんですか、お嬢様が出るんですよ」

「私が⁉」


 思わず飛び起きてしまった。

 眠気も一気に冷める。


 大前提として、私はソムヌス家の令嬢だ。

 舞踏会なんて、そんな野蛮なものに出場するはずがない。


 しかし、ジゼルはベッドに張り付く私を剥がすようにして引きずり下ろし、そのままずるずると引きずっていく。


 気がつくと私は、コロシアムの中央にいた。


 正確に言うと、寝そべっていた。


 だって、眠すぎるんだもん……


 布団もぬかりなく持ってきた。

 ぬくぬくだ。


 周りの状況を伺うために、布団から顔を出す。

 私と相対するように立っているのは、ゴリゴリのマッチョだった。


 ……私、無事に生き残れるかな?

 布団にくるまってたら大丈夫とか、ないかな?


「いよいよ始まります、天下無双武闘会!」


 シルクハットに燕尾服、ピカピカの蝶ネクタイのジャッジが叫ぶ。

 コロシアム中に歓声が響きわたる。


「第一試合、ニ十分一本勝負を行います! レディ、ゴー!」


 ゴングが鳴るとともに、前に立つマッチョが情熱的なフラメンコを踊り出した。

 どこからか音楽まで聞こえてくる。


「……彼は何をしているの?」

「あれは、フラメンコという踊りですね」


 いつの間にか隣に来ていたジゼルが、解説を始める。


「そんなことはわかるわよ。そうじゃなくて、武闘会じゃないの?」

「ええ、だから、舞踏会と……」

「それならそうと早く言いなさいよ!」


 それだったら、私にも勝ち目はある。


 私は起き上がって踊り始めた。

 宮廷舞踊というやつだ。


 王都では、ダンスで私に並ぶ者はいない。


 しかし、うっかり布団を纏ったまま立ってしまったから、重くて仕方ない。


「ここで、ソムヌス家の令嬢が踊り始めた! さすがの布団ダンスだ!」


 我が家はどうやら、布団ダンスで有名だったらしい。

 それなら、私がいくら寝坊しても許してほしいものである。


 私の踊りに合わせて、どこからか音楽が流れ出す。

 優美なクラシックだ。


 いや、これは……目覚まし時計の音?



「ほら、いつまで寝てるの、早く起きなさい!」

「うーん、あと十分だけ……」

「遅刻するわよ」

「でも私、天下無双の眠り姫だから……」

「何言ってるの? 変な夢でも見てたの?」


 母親が呆れたように聞いてきた。

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天下無双武闘会……じゃなくて、舞踏会⁉ 海音まひる @mahiru_1221

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