私 神様

@t-urq

私 神様

10:00 AM

 携帯のアラームが2周目に差し掛かるところで目を覚ます。なんだか奇妙な夢を見た気がする。この前ぶつけて少し欠けた前歯の感触が気持ち悪い。まだ回らない頭、体は軽めのダンベルが埋め込まれてるように少し重い。俺の日課に筋力トレーニングがあるのなら喜ばしいが、残念、俺の日課にそんな大層なものはない。身体を起こし、タバコを吸おうと換気扇の下に向かう廊下の真ん中にそいつは居た。ボサボサの頭、ジトッとした瞳、猫背気味の上体。俺だ。おかしいな、メガネはちゃんとつけたはずなのに。「こんにちは。いや、おはようか。」心臓が起き抜けと思えないほどバクバクとやかましい。警察の番号は119番だったっけ?いや、それは救急か。そもそもなんで俺が目の前に?こんな廊下の真ん中に姿見を置くほど俺は俺を好きじゃない。焦りすぎて高速で独り言が脳内を駆け巡る。「そんなに目を丸くするなよ。見てるだけで騒々しい。」そいつは俺に向かって馴れ馴れしく、少し気怠げにそう言った。なんなんだ一体、訳がわからない。「私はね、神様だ。君の願いを3つ叶えるために君の元へやってきた。わざわざね。」神様だ?そんなのいるわけがない。俺は人並みの信仰心しか無い。そんな奴の前に神様が現れる訳がない。そもそも神様がなんで俺そっくりなんだよ!!

 タバコに火をつける。嗚呼、美味い。脳に養分が運ばれていく。さて、落ち着いて状況を整理しよう。目を覚ましてタバコを吸いに行こうとした路半ば、廊下にコイツはいた。物欲しそうな目でタバコを見つめる俺そっくりな自称神様だ。今しがた俺はこいつが神様だということを認めた。否、認めざるを得なかった。「3つだけ願いを叶えてやろう。なんでもね。」そうコイツは俺に言った。なんでも?怪しすぎる。そもそもなんでコイツは俺そっくりなんだ。「何をぼさっと突っ立っているんだ。早く願いを言え。」そんなに急かすな。今必死で目の前に起きていることを飲み込もうとしているんだ。脳みそが溢れそうなほど思考を高速回転させて俺はこう言った。「空が飛びたい。」内心、飛ばせるものなら飛ばせてみろそんな気持ちだ。自分でも俺そっくりな不審者に何でこんなことを言ったのかよく分からない。そうしたらコイツはニヤッと笑ってこう言った「それが一つ目だね。」ビュン!!!瞬きをした瞬間、俺は自分の家の屋根の上にいた。突如体がグングン上に上がっていく。風がまるで固形物かのように顔に当たる。痛い。生身で空を飛ぶって気持ちいいモンじゃない、痛いんだな。しばらく空中を上下左右に振り回された後、気づけば家の廊下に戻っていた。頬をつねる。痛い、夢じゃない。今起きたことは現実なんだ。ただの不審者に人を空には飛ばせない。ああそうか、こいつは神様なのか。と、まあこんな感じで俺はコイツが神様であると信じることにした。

 「タバコ、一本くれないか。」神様が俺に向かってそう言う。神様もタバコなんて俗なもの吸うんだな。タバコを渡そうとした時、タバコを切らしていることに気がついた。ああしまった。俺ももう一本吸いたいのにな。コンビニまで買いに行くのも面倒だ。「どうした。早くくれよ。」こいつはどうやら気が長い方ではないらしい。買いに行くのも面倒だし断ろうとも思ったが、断ったら何をしでかすか分からない。あ、そうか。「タバコを出してほしい。ラッキーストライクの11mg。」「それが二つ目か。贅沢な神様の使い方だな。」

 うちの換気扇は広くないので二人でタバコを吸うと少し狭い。お互い窮屈に脇を絞めながらタバコを吸う。「やっぱりタバコはラッキーストライクに限るね。」満足げな顔で神様はこう言う。なんでタバコの銘柄まで俺と一緒なんだよ。やっぱりこいつは俺なのか。「お前なんで姿形もタバコの銘柄も俺と同じなんだよ。」「まあ、そんなことどうでもいいじゃないか。」タバコをぷかぷかと燻らせながら俺の疑問をはぐらかして煙を吐き出した。コイツは一体何者なんだよ。「それにしても二つ目の願いがタバコを出して欲しいなんてしょうもない願いでよかったのかい。少々阿呆な願いだと思うが。」「それに関しちゃ問題ない。俺にも考えがある。」俺はニヤリと笑ってこう言った。「俺を神様にしてくれ。」「その願いを待っていたよ。」ニヤッと笑う口の中にきらりと光る傷の入った前歯が見えた。

 やってしまった。こういうことだったのか。ただより怖い物はない。俺は最後三つ目の願いで神様になった。神様になってしまえば願いを自分にかけ放題だと思ったからだ。ただ神様とはそんな甘いものではなかった。まず、神様である自分の願いはどうやら叶えられないらしい。しかも誰か別の奴が神様になりたいと言うまで人間には戻れない。最悪だ。こんな慈善活動のボランティアなんて俺はやりたくない。ただ、不幸中の幸い、願いを叶える人間の時代はいつでも良いみたいだ。それなら俺を神様にしてくれと言い出す強欲な人間を俺は一人知っている。よし、それじゃあそいつの願いを叶えに行くとしよう。 

 

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