ドライブに行こう

えのん

第1話 ドライブに行こう

「ドライブに行こう」

唐突で簡潔なお誘いを貴方から受けた。

夜中に眠い目を擦り、貴方の正気を疑いつつも満足いかない日々の鬱憤を慰める機会が欲しかったため、手早に着替えてドライブの準備をした。

もちろん着飾ってはいないし、そんな気力もない。 薄化粧は貴方への信頼だと受け取って欲しい。眠気と若干の高揚感に頭を支配され、ドアを開くと貴方の車が停まっていた。無言で車内に入ると 私にアイスコーヒーを差し出す貴方。夜中にコンビニで買ってきたのでしょう。気が利く。

当分寝させるつもりなど無いのでしょう。ハナからその気もないのだけど。

「どこに行こうか。」と貴方が一言。


『どこへでも。』


私がそう言うと、貴方は無言で微笑みそのままハンドルを握った。どこへでもとは言ったのだけれど、どこでも行きたい訳では無い。どうせ終着地は決まっているのだから、それまで貴方とのアドリブデートプランを堪能していたい。そんなイタズラ心が不意に出てきての言動だ。


真夜中に充実感を得るために必要なものはロマンスでもドラマでもない。

ずばり"居心地の良さ"でしょう。

今がまさにそう。 人気のない道をスラスラと運転し、私たちは海が見える街道を走っていた。

ウィンドウを開けて、海の音に耳を澄ます。 コーヒーを飲み終え冴えた私の五感を、刺激せず さらに心地よくしてくれる清涼感のある波の音に包まれる。

車内にはそれらを邪魔しないように、ミドルテンポのシティポップが流れている。 このムード このシチュエーション とても居心地がいい。

『車を適当に停めて。 海 見たい。』

私がそう言うと、貴方は首を縦に優しく振った。

私たちは特別楽しいこともロマンティックなこともしていない。 それでも日々の生活で蓄積した憑き物を落とせるような そんな開放感が此処にはあった。

私は潮の満ち干きを黙って見つめている貴方の横顔を見た。とても端正な顔立ちをしている。 艶のあるセミロングの黒髪、綺麗に通った鼻筋、 何かを見通すような眼。

まるで月光が貴方を照らしているみたい。

貴方の姿に見とれていると、不意に私の中で劣情が込み上げた。 ダメ。まだ解放しては行けない。平静を装い私は足早に車内へ乗り込んだ。此処ではこの想いは少しばかり下品だから、どうか波と共にさらってほしいと そう思わずにはいられなかった。




真夜中に充実感を得るときに重要なものは、居心地の良さ。 そしてもう1つは "背徳感"だと思っている。正常な満足感で日々の鬱憤を晴らせる訳などないし、そうして上手くいったことなどひとつも無い。貴方はそんな私の考えを見透かしたかのように、私を深夜営業しているゲームセンターへと連れていった。

薄汚い、廃業しているといっても過言でないほどのボロボロの外装。

しかし店内には ほの明るいライトに数台のアーケードゲーム機が並んでいた。先程の涼しさ溢れる雰囲気などふっとび、私たちは目の前のゲーム機に高ぶりを抑えることが出来ず、 ゲームに没頭した。

私は貴方に比べ ゲームが得意では無いのを貴方は承知の上で手加減しながら戦ってくれていたのでしょう。 複雑を生むその気遣いも今はとても心地よく感じた。貴方が子供のように大袈裟にコントローラーを弄くり回すその仕草、切れ長な目をこれでもかと見開き、アーケードゲームに熱中する姿。 可愛いらしい。 愛らしい。貴方の思わぬ一面に悶えてしまった。

試合は勝ったり負けたりだった。でも結果などどうでも良くて、貴方と無邪気に笑って騒ぐこの時間をとても尊く思った。この時間がずっと続いてくれていればと無茶な願いを心の奥底でひっそりと祈った。だってもうとっくにKOされているのだから。




真夜中が終わる。



車内で貴方と偶然目を合わせた時そう思った。

そして 先程とは変わって急に貴方との間に距離感を感じてしまった。これは恥じらいによる距離感だ。

きっと両者共に持っていた劣情を晒していたくは無いから、そういった意味で距離感を今一瞬程感じた。


壁を壊したのは貴方だった。


「もう、帰る?」


貴方が。


『意気地無し』


私が。


「もう。プレッシャーかけないでよ。」


口元を少し歪ませて笑う貴方をみて、少し安心した。 やはり2人とも考えることは同じなのだと思い、きっかけを作ってくれた貴方により一層の好意を持った。



行先は貴方の家。 散らかった部屋に洗い物の溜まったシンク。 少しばかりベタ付いた床。

不潔だ。まるで私生活をおざなりにした学生のような汚部屋。残念 と言いたいところだけれど私が手を加えないとすぐこうなってしまうから、これはこれでありのままで歓迎されている。

とても前向きにそう解釈した。


部屋に入ってから、シャワーを浴びるのを躊躇う私を見越して貴方がそそくさとシャワーを浴びに行った。貴方が髪を乾かしている間に、私も追ってシャワーを浴びようとしたその時、髪を早く乾かし終えた貴方が服も着ず、裸のままで私を強引に抱き寄せ、私を乱暴にベットに叩きつけた。


「脱いで。」


息を荒くしながらあなたが私にそう命令した。

私はまだシャワーを浴びていない。準備も整っていないから混乱した。


『まだ準備出来てないよ』




「心の準備はできてるくせに。」





貴方のその言葉に仕留められた。

私には返す言葉が無かった。


恥ずかしさと興奮に身悶えながら、ライトを暗くし、服を脱ぐ。

そのままベッドに座り込むと貴方が私の秘部を優しく愛撫し始めた。続いて首や胸に ゆっくりと貴方がキスを繰り返す。こうなるともう正常に考えがまとまらなくなる。

ただ熱烈な感情が私の頭を支配する。

貴方への好意で心が満たされていった。

ただ感じるままに私の気持ちの良い所を貴方は愛撫せず、ときに焦らしては私の反応に興奮を覚えていた。

私は貴方にされるがままだった。

しかし、それでもいい。 寧ろそうでありたい。

他の誰かと体を重ねないで欲しい。


私と体を重ねて、私達だけのセックスを確立させたい。



私の全てを使って、貴方を喜ばせてあげたい。



貴方は荒い息をこちらに送り込むように乱暴なキスをした。上品というには程遠い、しかし情熱を直に感じる一方的なディープキス。


私が貴方に染まっていく。

夜更けと共に、貴方に堕ちていく。




そこから私たちはお互いに愛し合った。

お互いが理性を捨て、拙い愛の言葉を交わしながら。

発達した胸が両者に2つ。 秘部には貴方にヴァギナが 私には勃起不全のペニスが。形として全うなセックスが不可能な1組が、 互いのセクシュアリティを尊重し、体ではなく心を通わせ セックスをした。 私たちはセックスをしてお互いの心を通わせた。 この行為は私たちだけの愛の証明だ。 とても美しい行為だと自信を持った。

上質な夜には、意義のある幕を降ろしたい。

想いを重ねたい人と行うセックスはそんな私の願望を叶えてくれる。 とても神秘的で、愛を感じることが出来て お互いの関係をより大切にしようと思える行為。 だというのにやはりどこか気恥ずかしくて、やましさはなくとも行為自体の存在や欲望を秘めていたい。

セックスとはチグハグな存在だ。しかし、こんな真夜中では、理性よりも感情が優先されてしまうから。





夜更けに貴方とセックスをした。

これが無くては私はこの夜を終えることが出来なかったと思う。

行為も終え、ぼんやりとした眠気が私を包んできた。


しかしこれだけでは熟睡出来ない。 私は貴方の腕の中で、貴方は私の腕の中で夜を終えるんだ。




「おやすみなさい。」 『おやすみ。』




毎日に不満があっても、心病むことがあっても、 貴方と過ごす夜はきっと、私を幸せにしてくれるでしょう。

これからも ずっと。

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