吸血鬼の新人作家
ハナビシトモエ
新人賞
「お願いしますよ。印刷所が明日休みなんです。締め切り近いのに昼間は起きてこないし、夜に行ったら趣味の絵手紙書いているし、ちゃんと作家としての仕事をしてください」
「知っているか? 僕は吸血鬼なんだ」
「分かった分かった。さっさと書く」
この男編集者はまことに空気と常識に欠けるところにある。作家とは一つのひらめきと多くの努力だ。
太陽の光には弱く、朝になると眠ってしまう。人外と言っても腹は減るし、町に食事におりないといけない。
丘の下の小悪党の血を吸うようにしている。悪党はまずいし生娘は少なく背徳を覚える。
現に生娘を吸った知人は行方知らずになった。最近、町で夜に生娘を食う怪異がいると聞き、いつかそういう人間たちの心を脅かす存在を滅してやりたい。
人間の小悪党も僕に対してそう思っているかもしれない。自分だけが特別とは思わないことだな。それにしても目の前の編集者は夜にしか来ない。朝は他で忙しいのか、家族はいないのか。少々哀れにも思える。
「時にしてお前」
「いつまで高貴なキャラ続けるのですか。ジョンです」
「ジョン」
「なんでもいいですけど、早く書く」
「子どもはいるか」
「いますけど、先生が早く原稿を仕上げたら会う時間は多くなります」
「これは知り合いから貰ったいい茶葉だ。ミルクティーにして飲ませてやりなさい」
「子どもの心配より自分の心配をしてください。なんでガラスペンで書いた絵ハガキは締め切り無いのにせかせか作って、仕事をしない」
「仕事と趣味は別だ。心のかけ方がまた違う」
「早く、書く。紅茶はその後」
この原稿もきっと何かの賞を目的に書いているものだ。まさか自分がプロの作家なわけない。僕はただ丘の上からいただく人間を吟味し、夜に町へ出て、食事を終えて、たまに原稿を書いているだけだ。
「賞金を貰った覚えがない」
「先生は去年の新人賞で大賞を取り、そこに飾っている万年筆を記念品で貰ったでしょう。早くしてください。こっちも時間が無いんです」
編集者のジョンが言うのだ。
書いては応募したので、どこかで引っかかったかもしれない。
頭にいくつかの物語が思い浮かぶ。
「吸血鬼の主人公が生娘に恋をする。人間に恋をしたことがないから分からない」
「その話は吸血鬼の設定が重要になってくるかと」
「本当に僕は吸血鬼なんですがね」
「だから引きこもりなんですね。ニートの言い訳をしない」
「人狼と吸血鬼が仲良くなる」
「人狼の意味を知ってますか?」
「その満月の夜に遠吠えを」
「その程度の知識であと二時間書けますか?」
「ひらめきはすぐにはおりてこないものだ」
「三十分待ちます。下の部屋にいるので、出来たら声をかけてください」
編集者は時折、下の部屋にこもる。ほとんど郵便で応募原稿を送るのにきれいな月の夜には我が家にやってきて、チクチク言ってくる。
たまに絶滅したと思われる狼の声が家の中でも響く。
家の裏に居住まいがあるのかもしれない。雨の日に肉屋でステーキ肉を買って持って行ってやろうか。我々、人外は生きていくのには苦労するものだ。
やはりジョンは勘違いをしている。棚にあるのは祖父から貰った万年筆だ。どこの新人賞にも引っかかっていない。では、あのジョンはなんだ。
「書けましたか?」
帰って来たジョンの頭に真っ白な耳が生えていた。
「ステーキ肉はどこの部分が好きなんだ」
つい言葉をこぼした。まさかそんな。
「丘の下には小悪党しか残っていなかったでしょう。生娘はいただきました。次の
吸血鬼の新人作家 ハナビシトモエ @sikasann
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